第21話 相反する者


    1


 湧き上がる黒煙が天を覆い深夜のように暗くなった荒野。その闇を照らす炎の光が、氷で屈折し芸術となる。

 その異様なエリアを作ったのは破壊神──それも二人組だ。


 彼等は今クサナギの前に居た。その外見には、見覚えがある。


「あーもしかして魔王の親戚? 姪っ子とか? 或いは従兄弟いとことか?」


 クサナギは二人組を見て問うた。

 水晶の様な無機質な体。鋭い人のようなシルエット。元祖の魔王とは色こそ違うが、それを除けば同じと言って良い。


「私は炎の破壊神ベリン」

「私は氷の破壊神ガリン」


 だが二人は破壊神だと言った。

 赤く、炎を操るのがベリン。青く、氷を操るのがガリン。


「「我らがお前の相手を務める。第五、第六の破壊神として」」


 言葉は重なりシンクロしている。

 しかし、別々の破壊神らしい。


「つまり二対一か?」

「「不満かな?」」

「いいや。手間が省けて結構だ」


 それを聞きクサナギはほくそ笑んだ。

 そして──戦闘が始まった。


灼炎球しゃくえんきゅう


 跳躍した二体。その内ベリンが魔法を使った。

 人一人をすっぽり呑み込むほど巨大なサイズの輝く球体。それがクサナギに向け投げ落とされ、高熱の閃光となって爆ぜる。


「うお!? こりゃ地面が溶けてやがる」


 結果、クサナギの周囲の地面は熱によって真っ赤に赤熱した。

 クサナギの服も燃えている。それでもクサナギは無傷だったが。


 まだ、ガリンの魔法が残っていた。


絶氷球ぜっぴょうきゅう


 ガリンの上方から今度は青い魔法が降ってくる。

 やはり同じ様な球体魔法。ただし今度は極低温である。


「おー。今度はかっちんこっちんに」


 当然地面は凍り付く。

 そして当然、クサナギは無傷だ。


 だがクサナギの服は砂になった。より正確には、粉々になった。


「て、また服が! 狙ってやっただろ!?」


 服は一度熱せられ膨張し、今度は冷却され収縮した。極端な温度の変化によって物体を破壊する、魔法である。

 もし受けたのがクサナギでなければ跡形もなく消滅したはずだ。


「これも通じないか。やはり奴は……」

「不死身だと言う事か。だが、しかし」


 一方、二人組の破壊神もクサナギの殺害を諦めない。

 二人は言うとクサナギの左右に──距離を取り、その後拳を放つ。


 所謂挟み撃ちという物だ。もっともクサナギには無駄だったが。


「ふん!」


 拳が直撃する刹那──まずクサナギはベリンを打撃した。右拳によるカウンター。その拳が顔面に突き刺さる。


「ほい!」


 そして、次はガリンをアッパー。目にも映らぬ高速の対処だ。


 結果ベリンは横に飛んで行き、ガリンは上空へと吹っ飛んだ。

 では次にクサナギはどうするか? 答はジャンプしてガリンを掴む。


「とう!」


 クサナギは高く跳躍し、ガリンの左足をキャッチした。そして今度は地面に転がったベリンの元へ一気に落下する。

 掴んだガリンはクサナギにとって人間型のハンマーなのである。


「からの……おら! おらおらおらおらおらおらおらおら!」


 クサナギは破壊神を武器にして、もう一人の破壊神を殴った。

 装備を粉砕したのは彼等だ。自業自得と言っても良いだろう。


 嵐の如き速度での連撃。それにより彼等にはヒビが入る。


「んー。魔王よりも脆かったな」


 破壊神でもひび割れれば終わる。

 クサナギは勝ちを確信し言った。


 そしてそれは概ね正解だ。破壊神が粒子と成って行く。


「「我らは敗北した。そしてこれで、最後の破壊神が完成する」」


 破壊神達は最後に告げたが──クサナギは負け惜しみと無視をした。

 彼等はセシリアに封印された。最後の一体も同じであると。


    2


 どんなバカにも悩みはある物だ。悩んだバカは屋根に登る物だ。クサナギは王城の屋根に座り、瓶入りジュースをがぶ飲みしていた。

 双子の破壊神を打ち倒した、クサナギ達は王国に戻った。それはそれで問題はないのだが、セシリアとは話し合えないままだ。

 そこでクサナギは月見酒。いや月見ジュースに勤しんでいる。


 残る破壊神はたった一体。倒せばまた彼女は去るだろう。それはクサナギも理解していたが、やはり引き留める手段などは無い。


「あー、ほろ苦いジュースだなー」


 結果クサナギはジュースを飲むのだ。酒で酔えないので仕方ないのだ。

 そんなやさぐれ飲みが祟ったか、セシリアの幻覚まで見る始末。


 だが相手は幻覚でもセシリア。クサナギが無視できるはずもない。


「何故こんな場所で飲んでいるんです?」

「酒場だと雰囲気が足りてねえ」

「まあ確かに……月は綺麗ですが」

「だろう? それに風も気持ちいい」


 セシリアの幻覚は屋根を歩き、クサナギの隣へと腰掛けた。

 その横顔はセシリアそのものだ。とても幻覚だとは思えない。


「しっかしよく出来た幻覚だなー。勇者レベルの妄想力ってか?」


 そこでクサナギは触れてみた。セシリアのほっぺたをプニプニと。

 すると間違いなくプニプニである。つまり、幻覚ではなく本人だ。


「うわああああ! 本物だああああ!?」

「幻覚だと思っていたのですか?」

「まあそりゃなあ。ジュースで酔ってたし?」

「ジュースで酔えるわけがないでしょう」


 驚き落ちそうになったクサナギ。一方のセシリアは冷静だ。

 セシリアから訪ねてきたのだから当然と言えば当然なのだが。

 とにかく何か話をするべきだ。クサナギもそれだけはわかっていた。


「うーむ。しかし、そうか本物か……」


 クサナギはバカである。バカなので、持って回った言い方は出来ない。

 よって少しだけ考えてみたが、結局素直に話すことにした。


「なあセシリアちゃん。俺が最後の一匹を狩ったらいなくなるんだろ? だから今、最後に一回だけ、セシリアちゃんを……口説いても良いか?」

「何故私がいなくなると?」

「そりゃあまあ魔王の時もいなくなってたし?」


 だがクサナギの考えとは違い、何故かセシリアは溜息を吐いた。

 そして恐らくは照れながら告げる。クサナギの予想も付かぬ言葉を。


「私は、誠実な人間です。約束は……二度も違えません」


 これが彼女の限界なのだろう。照れ屋なセシリアの告白である。


「夢みたいだ」


 クサナギは呟いて、渇いた喉をジュースで潤した。

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