第22話 最後の破壊神


    1


 かつて魔王ザメクを倒す為にクサナギとチビとが辿った旅路。その道を今度は三人組で、クサナギ一行は進んで行った。


 ただし魔族からの妨害は無い。彼等との戦争は終わっている。観光のように和やかな旅路。洞窟などは完全にスルーだ。


 だが目的は破壊神討伐。目的地は魔王を倒した場所。そこに向けて三人は旅をした。

 と、その前に魔族が現れる。たった一人。敵対的では無い。


 彼は何故か荒野のただ中で、椅子に座り果実を囓っていた。。


「お前は……確かサバ缶?」

「しっしっし。惜しいな。サバカドだ」


 人間型トカゲ魔族サバカド。三暴魔の一人だった男だ。かつてクサナギを襲ったが、拳の一撃により気絶した。


「それで、そのサバカドが何の用だ? お礼参りか? それとも暇なのか?」

「違います。彼は魔族の指導者。そして旅の支援者でもあります」


 だが、クサナギの疑問にセシリアがとんでもない事実を口にした。


「マジでか?」

「ええ。マジも大マジです。彼は魔族長を名乗っています。格差の是正。人間との融和。政策への支持も非常に高い」

「はー。人は見かけによらねーなー」

「おうよ。俺っち自身もビックリだ」


 クサナギが疑いの目で見るも、サバカドは腕を組み笑い飛ばす。

 どうやら彼は戦士としてよりも政治家として優れていたらしい。


 その彼がセシリア曰く支援者。果たしてその支援とはなんなのか?


「その俺っちがさっき見てきたが、やっぱ魔王城は瘴気だらけだ。魔族でも近づきすぎりゃやられる。悪いがこっちも援護は出来ねえ」


 サバカドは肩をすくめて言った。

 そしてクサナギはまたガッカリした。


「結局俺一人でぶっ殺せと?」

「ま、そう言う事だな。しっしっし」


 しかしサバカドは悪びれていない。


「頑張れ勇者! 俺っちゃ信じてる! あと魔族達は避難させといた!」


 親指を立てるサバカドに、クサナギは変顔で抗議した。


    2


 視界を覆う紫色の靄。全方向に遍く満ちている。

 瘴気と呼ばれるその靄の中をクサナギ達は前に進んでいた。


 瘴気とは生物を害す魔力。対策しなければ命を落とす。そこでセシリアが障壁を張って三人の周囲をガードしている。

 仮に、クサナギ一人だけならば障壁など必要はないだろう。しかしそれでは迷子必至である。ここは三人で進むほかはない。


「もうすぐ中心部に着くはずです」


 かつて魔王とクサナギの戦で破壊され尽くした不毛の大地。その中心部分にクサナギ達、三人は到達したようだった。

 セシリアが言ったそのほぼ直後に瘴気の靄が割れるように引いた。最後の破壊神が引かせたのだ。自らの姿を現すために。


「「ようこそ。不滅なる者、クサナギ」」


 二人の女性が姿を現し、魔法の言葉で三人に告げた。

 黄金の髪の美しい女性。クサナギは二人に見覚えがある。


「おーう。巫女ちゃん達が何故ここに?」


 灰色のローブ。以前セシリアも羽織っていた、竜の巫女の正装。

 彼女達は魔王の首のあった封印の間を護っていた者だ。その二人が現在ここに居る。そして魔王の首を持っている。


「これは、してやられたと言うことか」

「竜の巫女が。信じられません」


 チビとセシリアが見解を述べた。

 破壊神は七体。その最後が魔王の首を元にするとしたら。馬鹿なクサナギですら理解出来た。クサナギ達は踊らされていた。


 クサナギ達が理解した瞬間、魔王の首が上空に浮かんだ。そして、周囲に満ちた瘴気達を嵐のように吸収しはじめる。

 魔王の首を持っていた巫女達。その体も粒子となり融合。


 それだけではない。セシリアの──懐にあった短刀もである。


「しまっ……」


 セシリアは掴もうとしたが、間に合わず短剣も吸い込まれた。

 つまり封印された破壊神、その全てもまた融合したのだ。


 どうやってそれを成したのか? チビがいち早くそれを解き明かす。


「第四の破壊神だな? あの時……」


 セシリアの肉体を操るため、取り付いた第四の破壊神。その時彼等は短剣に触れた。気付かぬ内何か仕込まれたのだ。


 もっとも今や後の祭りである。融合した物が形を作る。

 頭、胴体、そして両腕。足の無い全身鎧に見える。白い装甲に金色の細工。まるで巨大な芸術品である。

 そう巨大。究極の破壊神は城の如き巨大さを持っていた。


 だがサイズが問題なのではない。彼の持つ力が問題である。


「我が名はアデルダヴィス。破壊神。この世界の秩序を砕く者」


 アデルダヴィス──彼はそう名乗り、クサナギ達三人を見下ろした。

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