第18話 竜と第四の破壊神


    1


 王都に駐留している間、クサナギは王城に住んでいた。正確には、タラスパ王よって宛がわれた勇者のための部屋だ。

 クサナギは事実世界を救った。優遇されるのは当然である。部屋は広く内装は素晴らしく、一人部屋でベッドは柔らかい。


 しかし破壊神は残り四体。明日にはここを発つ運命である。

 だからこそぐっすりと眠っていた。訪問者の二人が来るまでは。


「起きろ勇者よ。少し話がある」


 部屋の外からチビの声がした。

 一瞬無視しようとも思ったが、それはそれで後が面倒である。


「どうしたチビ? お化けでも出たのか?」


 仕方なくクサナギは立ち上がり、自室の扉をゆっくり開いた。

 すると居たのはチビ一人ではない。セシリアもだ。不安な組み合わせだ。


「まーとにかく部屋の中に入れよ。俺は寝っ転がりながら聞くから」


 とは言えクサナギは二人を招き、自分はベッドの上に回帰した。

 一方、こんな夜更けだというのにチビとセシリアは──深刻そうだ。


 その理由をクサナギも直ぐに知る。


「勇者よ。竜族が暴れている。既に何人もの被害者が出た」


 チビが沈痛な面持ちで言った。

 彼は自称竜族の王である。責任を感じるのは当然だ。


 だが彼はセシリアと共に来た。つまり、おそらく破壊神絡みだ。


「クサナギ。これは単に竜族と、人間の問題ではありません。破壊神の気配を感じます。第四の破壊神……バロウド」


 クサナギの勘は的中していた。外れたことの方が少ないが。

 なんにしても現在は夜である。対処するなら明日で遅くない。


「じゃ、明日そっちに行けばいいだろ? 今日はねるぞー」

「そうはまいりません」


 だがそうは問屋が卸さなかった。

 クサナギも薄々気づいて居たが、夜に来たのは夜に発つためだ。

 とは言え夜は睡眠のお時間。フワフワのベッドは最強である。


「グラドルグ様。お願い致します」


 しかしセシリアが命令し、チビがクサナギを持ち上げた。

 掛け布団ごとなのは有り難い。おかげであまり寒さは感じない。


「行きましょう。破壊神を倒すため。そして竜の暴走を止めるため」


 こうしてセシリアの宣言により三人組は夜に出立した。

 クサナギだけは出立と言うより、持ち去られた──としか見えないが。


    2


 夜の空に舞う赤き影。赤き鱗を持った巨竜である。

 その下には炎に満ちた街。そして逃げ惑う小さな人々。竜はその上に降下して、巨体により民衆を押しつぶす。


 人が地獄と聞いて想像する、想像限度と思える光景。竜はこれを一匹で成し遂げだ。それだけの力が竜にはあった。


 その赤き竜による暴虐は、人間が居なくなるまで続いた。


    3


 丁度、太陽が顔を上げた頃。夜の黒が青へと変わっていく。

 だが一部には黒が残っていた。湧き登る暗き黒煙によって。


 そこに高速で飛行する──人型をした竜が現れる。

 セシリアを腕に抱いたチビだ。そして勇者は、箱の中に居た。チビの体に巻き付けられた紐、その先に吊された箱の中に。


「だー! ゆれるゆれるゆれるゆれる!」


 文句が聞こえるはずも無し。寝ていたとは言え、酷い扱いだ。

 唯一の救いだと思えるのは目的地に到着したことか。


「ご!?」


 チビが停止した。停止したので箱が地に落ちた。

 しかしチビは気にせずに着地して、セシリアを下ろし箱に歩み寄る。


「到着だ。勇者よ」

「覚えてろよ」


 そこでようやく箱がオープンした。

 クサナギはひっくり返っていたが、幸い無事だ。頑丈なのである。


 箱からのそりのそりと起き出して、火の香り混じる空気を吸い込む。


「すー……はー。おー、酷い事になってんな?」


 焼けた街の入り口。クサナギと、チビ達はその場所に立っていた。

 街の建造物は打ち壊され、或いは真っ黒く焼け焦げている。

 もし、これを破壊神がやったなら人に対する初めての被害だ。


 その元凶が遠く空を裂いて、クサナギ達の前に飛来する。

 嵐のような風を起こしながら竜はその眼前に着地した。赤い鱗に鋭い角と牙。いかにも竜と言う姿と巨体。


「赤炎竜ガーザ……だがしかし」

「ええ。これが、破壊神バロウド」


 チビが言うとセシリアが補足した。

 この竜はガーザであると同時に、バロウドでもあると言う事らしい。


「グロウみたくスライム的な奴か?」

「いいや。これは間違い無くガーザだ」


 クサナギはそれを見て推理したが、チビによるとそれは間違いらしい。

 かつて第二の破壊神グロウはクサナギの形状に化けていた。だが確かにこの竜はチロチロと、口から炎を漏れ出させている。


 もし形を真似ているだけならば、炎を操ることなど出来ない。理屈は不明だがこのバロウドは竜の能力までも利用できる。


「ご機嫌よう。勇者御一行」


 そのバロウドがゆっくりと喋った。


「我はバロウド。破壊神が一人」


 竜と同じ魔力の言葉である。

 しかし彼はやはり、竜ではない。


「この肉体は我が貰っている」


 バロウドは愉快そうにそう言った。言って竜の口角を歪ませた。まるで自らの力を見せつけ、勇者達を挑発するように。

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