第17話 魔王の残した物
1
殺し合うだけが戦争ではない。
そんな訳で、勇者のクサナギは机の上に寝転がっていた。王城にある会議室の机。正直言って硬いが仕方ない。
何故ならこれからこの会議室で会議が行われるからである。
「机の上に寝ないでください」
「放っておけ。言ってもどうせ聞かぬ」
セシリアには早速突っ込まれた。チビは最早諦めの境地だが。
何にしても三人が出揃った。故にこの時より会議を開く。
議題は美味しいサンドイッチの具──ではなく当然破壊神。
「ではこれより実働部隊による対策会議を執り行います」
セシリアは溜息を吐いた後、クサナギ達二人に向けて言った。
彼女の横には黒板とチョーク。準備は万全に整っている。
「了解だ」
「うーい。会議会議」
約一名ナゲヤリ気味である。
しかし会議は進めねばならない。
「ではまず現状の再確認を。魔王によって生み出された脅威、七体存在する破壊神。私達はその内三体を、撃滅しここに封印しました」
司会進行はセシリアだ。
彼女は黒板に小さな丸を七つ書き、三つに射線を入れた。
破壊神は残るところ四体。それはお馬鹿なクサナギにもわかる。
「これだけやってまーだ半分以下か。面倒くさいにもほどがありやがる」
クサナギは寝たまま軽くぼやいた。だがそれも当然の感想だ。
三体の内二体は超巨大。残る一体はクサナギに化けた。破壊神は能力を持っている。強力且つ異質な能力をだ。
それをクサナギたった一人だけで後四体も倒さねばならない。
と、そこでクサナギはピーンと来た。大事な事を一つ思い出した。
「そういや騎士団は何してるんだ? まだ一回も見てない気がするが……」
「彼等は主に情報収集や、市民の退避を請け負っています」
「仮に、騎士団をぶつけたところで死傷者が増えるだけであろうしな」
だが他力本願は通じない。セシリアとチビから指摘が入る。
勇者とは大変なお仕事だ。だがそれでもやり遂げねばならない。
「全てはセシリアちゃんラヴのため……!」
「まだ四体残っていますからね?」
セシリアの冷たい視線が刺さる。しかし勇者はへこたれない物だ。へこたれない物ではあるものの、可能なら楽をしたいのも事実。
「おいチビ。こう、なんかねーもんか? サクサク奴らを倒す方法は」
「我に聞くな。わかるわけがなかろう」
そう楽な手段などないのである──
「では魔王の首に聞いてみますか?」
と思っていたがセシリアが言った。
「前にも伝えたとは思いますが、首からは情報が得られます。破壊神を複数封印した今ならわかることもあるでしょう」
「マジで!?」
「確約はできませんけど」
「可能性があるならレッツゴーだ!」
クサナギは机から飛び起きた。変わり身の早さもまた能力だ。
こうして、クサナギは魔王の首と再び相まみえることとなった。
2
タラスパ王城の地下深い場所。階段をひたすらに降りた先。
魔王の首を収めた空間に繋がる扉が──隠されていた。
扉の前には二人の女性。格好から竜の巫女の所属だ。その二人の間を通り過ぎて、三人は封印の間へと入る。
何の意味があるのかは不明だが恐ろしく広大な封印の間。床に魔法陣が描かれており、その中央に魔王の首が在る。
首は台座の上に安置され、ひたすらに沈黙を保っていた。
「おっす! 久しぶり。元気だったか?」
クサナギはその首に話しかけた。
だが全く反応は返らない。
「無視だぞ。もしかしてキレてんのか?」
「違います。彼は死んでいますから」
セシリアにヒソヒソと聞いてみると、彼女は当然だと指摘をした。
しかし彼女は首から聞き出した。七体の破壊神の情報を。
つまり、普通に問いかけてもダメだ。特別な方法があるのだろう。
「見ていてください。対話してみます」
セシリアは首に近づくと、魔王の首を両の手で掴んだ。
優しく宛がうイメージで。そしてそこから魔力を流し込む。
すると魔王の首が輝いて──青く輝く図形を吐き出した。何百何千にもなる図形が、封印の間を自在に飛び回る。
「うお!? なんじゃこりゃ?」
「魔法の言語。古い魔族が使用した物です」
「うむ。我もある程度なら読めるが、これはセシリアでなければわからん」
セシリアとチビ曰く、これは言語。その言語が暫くは跳び回る。
だがセシリアが両手を拡げると、その手に文字達が集まって行く。
「おー。で、魔王はなんだって?」
「お待ちください。解読しています」
その状態でセシリアは暫く、瞑想をする様に目を閉じた。そして文字の光が消えた後、今度はゆっくりと目蓋を開く。
「一つだけわかったことがあります。しかし本当に、聞きたいですか?」
セシリアはそこでクサナギに言った。
含みがありそうな表情をして。
「うむ。聞きたい。楽出来るかもだし」
だがクサナギは怯まない男だ。二つ返事でセシリアへと返す。
するとセシリアは溜息を吐いて、クサナギのほうに向き直り言った。
「破壊神の狙いは貴方です。魔王を倒した勇者の貴方は彼等の最大の障害になる。第二の破壊神が貴方に化け、狼藉を働いたのもそのため。仮に貴方が何もしなくとも、破壊神は貴方を襲うでしょう」
「それは……まーじかー」
流石のクサナギも、ガッカリした。期待とは真逆の結論である。
しかも整合性がとれている。確かに市民は未だに無傷だ。
「勇者よ気を落とすな。我々が……やるべき事はなにも変わらない」
「ありがとよチビ。まーしゃーねーか」
クサナギも結局納得をした。
そんな訳で、目的を達成しクサナギ達はその場を後にする。ドアを出て巫女達に見送られて。
「竜の巫女ってみんな美人だな」
「不謹慎ですよ。勇者クサナギ」
その途中クサナギが呟くと、セシリアに強めにたしなめられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます