第16話 お金と破壊神
1
青々とした森林を抜けると、突如として出現する禿げ山。自然ではない。人間の仕業だ。ここザレッド鉱山は鉱石や魔石を掘り出すために作られた。
非常に大規模な魔石鉱山。そして労働者達が住まう街。クサナギが訪れてきた場所とは一線を画す壮大な地形。
三人はこの場所にやって来た。当然、破壊神を屠るために。
しかし主たる目的はあるとして寄り道の禁止をされてはいない。
「お兄さん! どうだいこの魔石!? お土産に一個買っていかないか!?」
「ほー。まあ確かに綺麗だな。よくわからんけど値段も安いし?」
クサナギは商人に呼び止められ、フラフラと露天に歩いて行った。
商品は、簡素な机の上に並べられた魔石の原石達。それぞれに値札が付けられており、一見するとお手頃にも見える。
「勇者よ。それは偽物だ」
「クサナギ。バカをやらないでください」
だがチビとセシリアに叱られた。
おそらく二人が正しいのだろう。しかしクサナギにも能力がある。
「バカじゃないぞ? 良いか見てやがれ……」
クサナギは言いながら商人の──左腕を掴んでねじり上げた。
「偽物で稼いだ金を差し出せ。でなければ破壊神のエサにする」
そしてドスの利いた声で脅迫。これぞ、クサナギの真骨頂だ。
商人に抗う術などはない。直ぐクサナギに金を献上する。
「はっはっは。どうだ、俺の手腕は?」
クサナギはどや顔で言い放った。
だが二人組は不服そうである。
「どうだではない! それはカツアゲだ」
「今更言っても仕方ないですが……」
チビはキレ、セシリアは呆れている。
とは言え先立つものは必要だ。
それに勇者は一つ勉強した。この土地の商売のやり口を。
2
坑道は人の手で掘り抜かれ、補強された採掘用の穴だ。そのため人が入って歩けるし、明かりも所々灯っている。
三人組はその入り口を降り、坑道の内部を進んで行った。
「しかしこんな地下に敵が居るのか?」
「ええ。彼等の気配を感じます」
「勇者よ。少しは黙って歩け」
「話してないと死ぬ程気が滅入る」
頼りない地盤。暗い地下の穴。職場環境は最低の下だ。
しかし、セシリアが感じるのならば破壊神は進んだ先に居る。
だが直ぐに問題が発生した。
「行き止まりだなー」
「行き止まりですね」
誰から見ても土の壁があった。
クサナギが見てもセシリアが見ても、何の変哲も無い壁である。
もっともクサナギには手段がある。通路が無いなら作れば良いのだ。
「チビ。例のアレを」
「正気か勇者よ?」
チビはクサナギに言われ取り出した。口の中から、普通のツルハシを。
つまりは穴を掘るという事だ。チビは非常に不満そうだったが。
「道がないのなら掘れば良い! そして掘り出した魔石を頂く!」
「勇者よ。魔石の方が目当てだな?」
「当然だろ? 役得って奴だよ」
本来掘り出された魔石などは鉱山の管理者に買い取られる。二束三文の適正価格だ。しかしクサナギには中抜きはない。
王国からの許可証があるのだ。必要なら法律は無視される。
「さあじゃんじゃん掘るぞ! チビ! お前は……」
「土を運び出す」
「流石は相棒」
なんだかんだ連携は取れている。クサナギはツルハシを振るうだけだ。
「ぎゃはははははは! ここ掘れにゃんにゃん!」
勇者クサナギの持つ力ならば坑道の土などゼリーも同じ。
瞬く間に坑道は掘り進み、原石が次々と産出する。
「お金! お金! お金! お金!」
クサナギの目はお金マークである。呆れるセシリアはいつもの事だ。
と──その時であった。
「お?」
ツルハシが何かに当たった。クサナギの力でも掘り抜けない、銀色の金属のような物。
そこでクサナギはその周囲を掘り物体の確認を試みる。
「なんじゃこりゃ?」
すると、出て来たのは金属で出来た爪のような物。
鋭く尖った銀の爪。その太さは人の肩幅はある。
ここでクサナギは思い出すべきだ。一体何を探していたのかを。
突如として坑道が震動し、頭上から土がパラパラと落ちる。掘り当てたのは恐らく破壊神。そして坑道が破壊対象だ。
「やばい逃げろ!」
クサナギは走り出し、途中でセシリアを脇に抱えた。
「ちょっとクサナギ!?」
「文句は後にしろ! このままだと全員お陀仏だ!」
まあ、クサナギはいくら埋もれようがなんだかんだ脱出するだろう。
しかしセシリアは巫女である。埋もれれば脱出は困難だ。
そんな訳で、チビとも合流して三人で坑道を駆け抜ける。
尚、掘り出した魔石はしっかりと袋に詰めて肩に担ぎながら。
「勇者よ。ぶれないな」
「当然だろ? 一攫千金は男の夢だ!」
「夢の無い話ですね」
「確かに!? だが世界はお金で回っている!」
チビとセシリアの苦言にもめげず、クサナギは袋を離さなかった。
そして遂に坑道の入り口に──太陽光の中へとダイブする。
「ふいー。命拾いしたー」
三人は無事地上に抜け出した。だが問題は解決していない。
離れた場所の土を突き破り、何本もの鉄の触手が生える。
「うーわ。またでっかいタイプか」
それを見たクサナギはげんなりした。
第三の破壊神バルバルド。そう考えて間違い無いだろう。
相手がどれだけ巨大であろうと破壊神なら殺さざるを得ない。
「仕方ねえ。ちょっくら行ってくる。セシリアちゃんはここで待っててくれ」
言うとクサナギは走り出す。こうして第三戦は始まった。
目標はとりあえず鉄の触手。だがそう上手く事は運ばない。
「なに!?」
走るクサナギの足の下。地面から触手が──突き出してきた。
クサナギはジャンプして回避したが、触手は更にそれを追撃する。上方に伸びた触手が今度は、尖端を下に向けて振り下ろす。
しかも触手は何本もあるのだ。クサナギもいつまでも避けきれない。
「ああ面倒くせえ! このタコ野郎が!」
しかし、そこはクサナギ。勇者である。
クサナギは触手をギリギリで避け、両手でそれを思い切り掴んだ。木のように太い金属の触手。だがクサナギは全く怯まない。
「ふにににに!」
クサナギの恐ろしい握力で、指が鉄の触手に突き刺さる。
そしてそのまま触手を引っこ抜く。いや──引っこ抜くべく引っ張った。
力と力とのぶつかり合いだ。それはどこか格闘技に似ている。
だが何にしてもクサナギは勇者。勇者が敗北するはずなどない。
「おんどりゃあああああ!」
勇者は力比べに勝利した。破壊神が大地から現れる。
破壊神バルバルドの全容を例えるのなら足の多い海星。そんな物を引っ張り引っこ抜いた。地表は最早壊滅状態だ。
「うお。予想以上にデカかった」
クサナギも流石に少し引いたが、このチャンスを見逃す手などない。
破壊神は投げられ、落下して、可哀相にのたうち回っている。
「じゃ、失礼して……砕け散れええ!」
クサナギは華麗に跳躍すると、その破壊神に向けて落下した。
足を叩きつける落下攻撃。所謂跳び蹴りと言われる物だ。それは破壊神の本体部へと、正確に直撃し破壊する。
巨大であれ、金属であろうとも、クサナギの力には抗えない。
「すたっ。決まった」
クサナギが着地をすると同時に、破壊神は金の粒子になった。
後はセシリアがそれを封印し、この戦いは終結を向かえる。
「いやー、流石の俺も汗かいた」
クサナギはそれを見て汗をふいた。
尚、この戦いにより鉱山は跡形もなく破壊されている。そのためこの地域ではクサナギを──後世まで悪魔と言い伝えた。
入手アイテム:複数の魔石、バルバルドの残渣
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