第15話 セシリアの夜


    1


 破壊神グロウを倒したその日──クサナギ達は直ぐに村を発ち、再び王国への帰路についた。

 だが流石に王国までは遠い。グロウの探索にも手間取った。その結果クサナギ達一行は現在テントで夜営をしている。


 テントは三人が立って入れるかなり大型の立派なタイプだ。今回の見張りはチビが担当。中にはクサナギとセシリアが居た。


 と、いっても会話のネタはない。静かな、静かすぎる夜である。

 テントの外で鳴く虫の声すらクリアに聞こえ、心を和ませる。


 しかし、クサナギはそんなただ中で珍しく真面目に考えていた。

 グロウが化けていた偽のクサナギ。もしもセシリアやチビだったならと。

 そこでクサナギは寝転がりながら、座っているセシリアに問いかける。


「なあセシリアちゃん。セシリアちゃんって巫女になる前は何をしてたんだ?」

「何故そのようなことを?」

「なんとなく? ま、いやなら言わなくて良いけどな」


 クサナギとて流石に人間だ。避けられていることはわかっている。

 とは言え、聞くだけならただである。玉砕はクサナギの十八番なのだ。


「そうですね……では話しておきます。竜の巫女がいかにして育つのか」


 しかしセシリアはクサナギに言った。

 そして語り始める。彼女の過去。彼女を作った彼女の世界を。


    2


 竜の巫女は魔法の才を持つ、人間の女性から選ばれる。正確には竜の巫女の候補に選ばれ、迎え入れられるのである。

 その中でもセシリアは生を受け、たった三日で巫女に引き取られた。


「本当にこの子が……巫女様に?」

「名誉なことだ。受け入れなくてはね」


 白い布に包まれた赤ん坊。セシリアをその両親が見送る。

 セシリアが二人から貰ったのはその名前くらいだと言えるだろう。


 引き取られた子供は隔絶した世界の中で生きる事になる。人生の全ては巫女になるため。それ以外は一切排除される。


 魔力と感覚を研ぎ澄ますため選び抜かれた食事。そして衣服。訓練は休みなく行われ、試験により能力を試される。

 だがセシリアはその中で誰より──完璧に巫女を体現していた。


 そしてその日は突然やって来た。

 巫女の指導者“巫女長”に呼ばれて彼女の部屋にやって来たセシリア。まだ十二歳で体は小さい。しかし既に立派な巫女である。

 老いた巫女長はそのセシリアへと、歩み寄り跪いて切り出した。


「セシリア。貴方は全ての面で……私の力を既に超えている」

「もったいないお言葉です」

「いいえ……私は事実を言っているのです」


 巫女長はセシリアの手を握った。

 その指は痩せ細り枝のようだ。しかし手には力がこもっていた。


「今日この時より、貴方を巫女長……竜の巫女の巫女長に任じます」

「この若輩にそのような大役……」

「貴方なら出来るわ。絶対に」


 巫女長の瞳は輝いていた。強い確信に満ちあふれていた。

 その巫女長が指名しているのだ。セシリアに拒否出来ようはずもない。


「わかりました。世界を守る為、私の全能力を注ぎます」


 セシリアは強く──握り返した。

 そしてこの日セシリアはなったのだ。世界を導く巫女の指導者に。


    3


 自分語りが恥ずかしかったのか。セシリアは少し赤くなっていた。


「と、まあ。そのような感じです」

「なるほどなー。俺なら逃げ出すわ」


 テントの中で二人語り合う。素敵な一時にも感じられる。

 だがそこはダメ勇者クサナギだ。ムードなど保てようはずもない。


「さすが真面目王セシリアちゃん」

「珍妙なあだ名は止めてください」


 セシリアが鋭い視線を向けた。

 しかしそれでこそセシリアだ。しんみりとされても調子が狂う。


「はっはっは。まあ、あんま気にすんな。人生、適当が一番だしな」


 言ってクサナギは目を閉じた。

 元から寝転がっていたクサナギ。これは完全睡眠態勢だ。


 セシリアは最初は呆れていたが、少しして小さな笑顔を見せる。まあクサナギは目を閉じているので完全に気のせいかもしれないが。


 その様子をテントの外に立った、チビが静けさの中で聞いていた。

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