第14話 第二の破壊神
1
何事も思い通りに行かない。特にそれが敵との戦いなら。
クサナギとチビ、そしてセシリアは、地面のくぼみの前に立っていた。
王国に戻り、準備を整え、第二の破壊神の元に来た。だが既にその姿は消えている。活動を開始したと言う事だ。
「セシリアちゃん。何処に居るかわかるか?」
「いいえ。ぼんやりした方角しか……」
「セシリアに無理なら我にも無理だ。これは、面倒な事態になった」
三人とも全くのお手上げだ。
まさか破壊神が暴れ回らず、逃げ出すとは想定外であった。
「ま、とにかく方角はわかるんだ。まったり行こうぜ。だらだらとな」
クサナギは言って歩き出す。
「クサナギ。方向が逆ですよ?」
それを見てセシリアが指摘した。
二体目にして前途多難である。チビなどは溜息を吐いていた。
2
木々が生い茂る森林地帯。三人はその中を進んで行く。セシリアの指し示す方角へと、周囲への警戒を怠らず。
すると暫くして急に景色が──開けて人工物が現れた。
「村だな?」
「ええ。ここは村ですね」
セシリアがクサナギに返事をした。
二人の考え通り村である。木で出来た家々が並ぶ村。その規模はさして大きくはないが、村である以上人は居るだろう。
つまりは聞き込みが可能なはずだ。だが、そう簡単には行かなかった。
「お?」
クサナギの頭の直ぐ側を矢が掠めて飛び、木に突き刺さった。
破壊神の物ではないだろう。しかし攻撃であるのは確かだ。
「よく村に顔を出せたな! クサナギ!」
それを射た者が出て来て言った。
野太い声の男。壮年だ。弓を手に持ち背に矢筒を背負う。
そしてクサナギに
「勇者よ。知り合いか?」
「いや全然」
だがクサナギはチビにそう答えた。
事実だ。彼とは初対面である。そもそも、クサナギはこの近辺に来たことはない。出会うはずもない。
「とぼけるな! 貴様の悪行は! 村の者なら誰でも知っている!」
ともあれ怒りは本物のようだ。果たして何故そこまで怒るのか?
「あの、クサナギが……いったい何を?」
セシリアが聞くと男が答える。
「村の食料を盗みさり! 家の壁に巨大な穴を開け! そこから動物の糞を投げ込み! 村のシンボルの像を破壊した!」
男の言葉が真実であれば、確かに相当な悪行である。
セシリアが隣のクサナギに向け疑いの眼差しを送ってくる。
「いや誤解! んなことはやってねえ!」
「勇者よ。日頃の行いのせいだ」
そこにチビまでが冷徹に言った。
もっとも彼の指摘も一理ある。確かにクサナギは暴走気味だ。
「あまつさえ一枚の盆を手に、全裸で変なダンスをする始末……!」
「それは……確かにやりそうだな」
「チビてめえ!」
「怒るな。冗談だ」
チビは冷静だ。いつも通りだ。
だがクサナギにとっては堪らない。
──と、その時だった。村の中に笑い声が響いた。
そして家の陰から現れる。全裸で盆を着けたクサナギが。
「気に入って貰えたかな? 勇者よ」
「なにいいいいい!?」
クサナギもこれには驚愕をした。
現れたのは確かにクサナギだ。ほぼ全裸だが確かにクサナギだ。
村人の困惑を見る限り、悪行の犯人は彼であろう。
「てめえだな? 俺をはめたのは」
「ご明察。俺は破壊神グロウ」
「なんでこんなことしやがった、あーん!?」
「お前のイメージを壊したまでだ」
だって破壊神なんだもん──恐らくはそう言いたいのであろう。
クサナギが怒るのは当然だ。
一方、チビはやるべき事をする。
「そこな者! 即座に避難せよ! この場所は間も無く戦場となる!」
チビが言うと村人は逃げ出した。これで周囲を気にせず戦える。
もっとも、怒っているクサナギが──周囲を気にするかは疑問だが。
「てめえ。覚悟は出来てるんだろうな? ぎたぎたのボコボコにしてくれる」
「できるかな? この美しいボディを?」
「て言うか服を着やがれこの野郎!」
クサナギが指摘すると一瞬でグロウの体を鎧が包んだ。
どういう仕組みか全く不明だ。が、危険な相手には違いない。
「これで良いかな? 勇者クサナギ君」
「言い分けねえだろ! ぶちのめしてやる!」
クサナギは言うが早いが地を蹴り、ニセ勇者の顔面を殴打した。
3
殴られて遠くまで飛んだグロウ。彼は森林の木へとぶつかった。
そこへクサナギが即座に追撃。殴りつけ、蹴り上げ、放り投げる。
しかし何か変だ。クサナギは──感触の違和感を感じていた。
「ふ。きかんなあ。蚊でも刺したかな?」
「んの野郎。馬鹿にしやがって」
クサナギはしかめ面で着地した。
グロウもどさりと地面へと落下。
だが破壊神グロウの言うとおり、彼はまだダメージを受けていない。
「どんな手品だ?」
「ああ? 何の事かな? 単にお前が雑魚なだけじゃねーか?」
「ぐぬぬ。ムカツク面をしやがって」
「お前と同じ顔だろう。ほれほれ」
変顔を作る破壊神。挑発だ。クサナギにだってわかる。
わかっているがやはりクサナギだ。これに耐えるのは辛い物がある。
「ほっぺにグルグルかいちゃおーっと」
顔に落書きをするに至っては、クサナギに我慢出来るはずもなく。
「だったらてめーをグルグルしてやる!」
結局また格闘戦になった。
一方、チビとセシリアの二人はその様子をじっくり観察する。
「どう見るセシリア?」
「わかりません。クサナギの実力は本物です」
だが冷静に見てもわからない。何故攻撃が効いていないのか?
その理由に先に気が付いたのはむしろ戦っていたクサナギだ。
「これは……!?」
「ふっふっふこれが答だ。わかったところでどうにもならない」
クサナギが抜いて斬り付けた剣は、グロウの頭を裂き腹にあった。
だがグロウはそれでも立っている。そして余裕で会話までしている。
「てめえスライムか?」
「まあ似てはいるな。故に俺を殺す事は出来ない」
これが答だ。グロウの肉体は元々半液体状であった。
当然クサナギにも化けられる。打撃や斬撃が効くはずもない。
事実、グロウは一瞬でくっつきクサナギもどきに戻ってしまった。
「ぐぬぬ」
「どうだ? 手も足も出まい! 俺の手も足もお前の真似だが?」
グロウは完全に舐めきっている。
こうなることを知っていたからこそ、自ら姿を晒したのだろう。実際クサナギにもわからない。どうすればダメージが入るのか。
しかし、見て居たチビが知っていた。
「ふん。油断しすぎたな? 破壊神」
チビは跳躍して接近すると、空中で口から火炎を吐いた。
今クサナギとグロウはゼロ距離だ。巻き込まれるが知った上でだろう。
二人は火炎に呑み込まれ──やがてクサナギがチビに抗議する。
「何しやがる! 焼け死んだらどうする!?」
「で、焼け死んだのか?」
「いや。全然」
クサナギは恐ろしく頑丈だ。この程度の火で焼けることはない。
一方、グロウはスライムの一種。彼は燃えながら悶え苦しんだ。
「ぎゃああああああ! よくも! よくも!」
「お、効いてる? チビ。やるじゃねーか」
クサナギも見て手の平を返した。
つまり、物理的でない力ならグロウを倒せると、いう事だ。
ただしクサナギは物理の申し子。炎を吐くことなど出来はしない。
そこで、セシリアが杖を掲げた。
「私がグロウの動きを止めます」
セシリアは魔法の達人である。そして魔法は物理的ではない。
「音を消す白き世界の支配者。その吐息で時間すら凍り付く。アザレシア・ライフレス・ブリザード!」
彼女が呪文を唱えると、杖から猛吹雪が発生した。
それは森林の中を突き進み、その経路の全てを氷結する。
「とう!」
クサナギは、当然回避だ。
残されたグロウには直撃する。
「うご……動け、ん」
そしてグロウは完全に凍った。
先ほどまで燃えさかっていたのに、今は偽クサナギの氷像だ。地獄から地獄とはこのことか。いや、どちらにしても地獄だが。
破壊神グロウにはまだ更なる最終的な地獄が待っている。
「いやー。仲間って良いもんだよな?」
拳をポキポキと歌わせながら接近する勇者クサナギである。
そのクサナギは右手を手刀にし、偽クサナギの頭部に振り下ろす。
パワーを溜めた緩慢な一撃。しかしグロウは全く動けない。
「奥義・スライム地獄割り!」
チョップはグロウの頭に当たった。当たった瞬間はただそれだけだ。
しかしグロウに徐々にヒビが入り──遂には光り出して砕け散る。
「うおのれえええええええ!」
結果断末魔と共に飛び散り、セシリアのナイフに封印された。
「俺の顔に泥を塗った報いだ」
それを見てクサナギは吐き捨てる。
だが仲間達の意見は違った。
「あまり普段と変わらん気もするが?」
「そうですね。私もそう思います」
結局は日頃の行いである。勇者がそれを知る戦いだった。
入手アイテム:グロウの残渣
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