第10話

「お久しぶりです。また動けるようになるとは思いませんでした」

身代わり人形として高弘の姿を使っていたので、再び動かす時も高弘の姿だった。懐かしそうに笑う姿を見て心が傷んだ。

「なんて……呼べばいいのかな。高弘と呼ぶのは失礼だよね」

ういは身代わり人形に抱きつき雅だよと言った。

「みやび?彼の名前は雅なのかい?」

「そう。雅は雅って名前嫌?」

ういは悲しそうな顔をしながら雅の顔を見る。雅はういに笑いかけて嬉しいと呟いた。

「ありがとう。とても素敵な名前だよ。自分には勿体ない名前だよ」

雅と名付けられたのを喜んだ。やっと自分だけの名前をつけてもらったから。

「お家に帰ろう、雅」

ういは雅の腕を撮って連れていこうとする。雅は多槻をちらりと見てどうしたらいいのか不安になった。多槻はそれを見て手を振ってまたねと言った。

ういが帰ってまりあが茶器を片付ける。多槻はお客用のお菓子の残りを片付ける。

「由貴が帰ってきたらあげよう。これ由貴好きだったよね」

ものすごくにこにこしている多槻をまりあは不思議がった。

「なんだかものすごく嬉しそうね。ういちゃんが来たから?」

多槻は無言で首を振って目を瞑る。少し昔の事を思い出しながらまりあの方を見て笑った。

「あの人形がまた動いて名前をつけてもらったのが嬉しいんだよ。片割れはりんなの想いで壊れてしまったからね。その事は反省してる。僕が1人でやってしまって結局みんなを不幸にしたから。だから平和になった今、ういに連れ回されるのは楽しいと思うから」

「ういちゃん本当に振り回すわよ。元々あの子普通だったのに魔力が増えれば増えるほど不思議になっていってる」

「能力に語彙力がついていってないんだよ。そしてその能力を理解するだけの魔力が僕達にはないんだよ。多分ナツメよりういは力が強い。でも無意識にういは能力にセーブをかけている。双子だから何かあるのかもしれない。でも、あのふたりには希望を託したい」

「そこに由貴は?」

多槻は満面の笑みをまりあに向けた。

「もちろんいるさ。あのさんにんは新しい時代の子供達だから。未来を創る子供達だよ」

「由貴もまだ幼いのに。ういちゃんやナツメくんより力ないし。ういちゃんはみことより力強いんでしょ?」

不安そうにまりあは語る。多槻は頷いた。

「ういの力は未知数だ。どうなるか分からない。それは親でもある第一神のみことが一番知っている。だからこそ……」

その時扉が開いて由貴が帰ってきた。泣いてるのでまりあは慌てた。

「どうしたの?」

まりあの言葉を首を振って遮り、顔を洗いに行ってくると言う。

「由貴、お母さんを無視するんじゃない」

「無視してない。何もないもの。ただ涙出ただけだもの。特別なことなんてない。だから気にしないで」

洗面所に走って顔を洗って由貴は自室にこもった。

「……ナツメくんと喧嘩したのよね。ああいう時はどうしようもないわね」

母親としてまりあは溜息をついた。どうしようもないなぁと思っていたら、多槻が震えていた。

「ナツメが?いくらりんなの息子であっても由貴を泣かすのは……」

まりあはふうと息を吐いて茶器を洗う事にした。親馬鹿は放って置いた方がいい。

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子供達の地図 ナツメ・うい 櫻井あやめ @Raimuchan

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