46 明かさされた真実
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「やあ、待っていたよ。いらっしゃい」
にこやかな表情の自称神父の枢機卿に出迎えられて、王妃アイリーンを筆頭にマリアベルとクロヴィスは教会へと足を踏み入れた。
静まり返った教会内部。
そこに一歩足を踏み入ればステンドガラスの七色の色を通して差した光が、神秘的に祭壇を彩り厳かな空気で満たした別世界が広がっていて。
この教会の中に初めて入ったクロヴィスは、感嘆の溜息を零す。
「……お義父様。突然のお願い、叶えて下さりありがとうございますわ」
「あのアイリーンちゃんにそうやって畏まられると、なんだか不思議な気分になってしまうな?」
親しげに会話をする王妃アイリーンと自称神父、その会話内容にマリアベルは首を傾げた。
「お義父様……神父様が、王妃殿下の? え、あれ? 神父様って、あれ……」
「あら、お義父様の役職は枢機卿よ。マリアベル」
「えっ。枢機卿、猊下……?」
王妃アイリーンの回答に困惑するマリアベル。
それもそのはず、枢機卿本人からは自分は神父だと自己紹介をされていたのだから。
「それとお義父様は先王で、レオンハルトのお爺様なのだけど。もしかして、マリアベルは知らなかったのかしら?」
「っえ、先王様……レオンハルト殿下のお爺様!? ちょ、神父様? 枢機卿猊下? これはいったいどういう……」
王宮のメイドではなくレオンハルト第一王子の侍女に決まったと、教会に来て報告した時も。
『それは良かったね、マリアベルちゃん』
と、言って。
この自称神父様は一緒になって喜んでくれたが、そんな話は何ひとつマリアベルは聞いてはいない。
……だけどそういえば、この間教会前で会った時は孫の世話がどうとか言っていたような気がする。
「ふ、バレてしまっては仕方ない。そう私はレオンハルトのおじいちゃんだ!」
珍しくキリッと引き締まった表情で声高らかにそう宣言した枢機卿は、してやったりとほくそ笑んでいて。
枢機卿にまんまと騙されて遊ばれていたという事に、マリアベルはようやっと気付いたのである。
その事実にふらりとよろめいたマリアベル、その身体をクロヴィスはそっと優しく受け止める。
「……もう聖職者なんですから人で遊ぶのも大概にして下さい枢機卿、それ……悪い癖ですよ?」
「なんじゃいクロヴィス一丁前に。好いた女子が目の前にいるからって……」
そんな二人の会話に。
「クロヴィス様も神父様が先王様だと知っていらっしゃったんですか!? もしかして、何も知らなかったのは私だけ……?」
「俺は王宮に小さい頃から出入りしてるから……というか、マリアベルは知らなかったのか。教えてやればよかったな、ごめん」
「いえ、クロヴィス様が悪いわけではありませんわ。ですから私に謝罪なんて、なさらないでくださいませ?」
そして引き寄せられるように、互いを見つめ合うマリアベルとクロヴィス。
その雰囲気は、砂糖菓子のように甘く柔らかい。
「ほほーう。前よりも随分といい雰囲気じゃの……」
「ふふふ、でしょでしょお義父様! なのにシュナイゼルの馬鹿はそんな二人を引き裂こうとしているんですのよ……」
「それはけしからん! あのわからず屋の頭でっかちにはあとでキツーいお灸を据えてやらねばならんな……?」
「ええ、そうですわね! ですが今は、先にこちらを……」
王妃アイリーンは、マリアベルとクロヴィスが婚約する為の書類の束を枢機卿に渡す。
貴族や王族の婚姻を許可するのは国だが、実際に結婚を認めるのは教会である。
「ふむ、だがこの書類だと……」
枢機卿はマリアベルを見る。
アイリーンからの早馬で受け取った手紙によれば、この子は隣国の姫君。
「それについてはこれから、わたくしからマリアベルに話します」
まるで意を決したように。
王妃アイリーンはマリアベルへと向き直る。
「王妃殿下……?」
「どうされました?」
その真剣な眼差しに、マリアベルとクロヴィスの二人は圧倒されて言葉がそれ以上出ない。
けれどなにかとても重要な話だということだけは、その雰囲気から理解して静かに話を聞いた。
そして王妃は真実をぽつりぽつりと語り始めた。
その話を一緒に聞いていたクロヴィスは驚きを隠せない、マリアベルがアウラの姫君だなんて。
「え……私が、ですか?」
「ええ、シュナイゼルに。国王に直接聞きましたからそれについては間違いはないはずですわ」
「本当の両親がアウラに……」
どうして自分だけがこんなに両親に愛されないのかと、マリアベルはこれまでずっと悩んできた。
妹と違い地味な自分が悪いのかと考えた事もあったが、その程度で親が子を愛さないはずはない。
でもどうしてなのかわからない、いくら考えても納得出来る答えは出なかった。
でもこれでやっと納得が出来た。
自分はハインツ子爵夫妻の実の娘ではなかったから、だから愛されなかったのだと。
「だからアウラ国の方からは、大使との婚姻によって貴女を国に連れ戻したいって言って来ているの。それが一番穏便な方法だからって」
「そう、なのですか……」
「だから……もし、貴女が……」
『本当の両親がいるアウラに帰りたいならば、クロヴィスには悪いけどこの婚約は無かった事にする』と、王妃アイリーンは言いかけた。
……が。
「私はアウラにはお嫁に行きません。実の両親には会ってみたいですが……私が住む国はここです」
「マリアベル、でも……それで本当にいいのか?」
マリアベルがそう言ってくれてクロヴィスとしては素直に嬉しいが、自分の為に無理をしているのではないかと心配になった。
「会いたければ会いに行けばいいだけの事。ですからクロヴィス様、いつか私と一緒に、アウラの両親に会いに行って頂けますか? 生涯の伴侶として」
「ああ、会いに行こう。二人で」
――そうして。
二人の婚約は教会によって認められた。
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