42 余裕の笑み
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――謁見の間。
そこへ国王直属の近衛騎士達に引きずられるようにして連れて来られたハインツ子爵は、床に放り出されて足を滑らせた。
「ひっ……」
床に打ち付けられたハインツ子爵は痛むのか少し頬を引き攣らせてフラフラと起き上がり、困惑したように周囲をぐるりと見回した。
「ハインツ。貴様は自分がなにをしでかしたのか、わかっているんだろうな?」
そんなハインツ子爵へと、国王シュナイゼルは厳しい眼差しを向け詰問する。
「……さあ? なんのことやらさっぱり。国王陛下、私はただ愛し合う若い二人を引き裂くことが出来なかっただけでございまして、はい……へへっ」
ところがハインツ子爵は国王シュナイゼルからのその問いに、まるで媚びへつらうかのように手を擦り合わせてへらりへらりと気色の悪い作り笑いを浮かべるだけで。
己の非を決して認めようとはしない。
そういったハインツ子爵の舐め腐った態度に、国王シュナイゼルは額に青筋を立てて怒りを表す。
「ハインツ、私を舐めるのもいい加減にしろよ? 前にした約束通り、今すぐにでもお前を縛り首にして城門へと晒す事も出来るのだぞ?」
「いやいや、それはおかしいですな国王陛下? 私はあの子の出自について、一切口外はしておりません。やった事と言えば……マリアベルの婚約破棄を承諾したくらいのもの。たったそれだけで縛り首とは、いやはやそれは流石に……」
『その程度の理由で貴族を縛り首には出来ぬだろう?』と、ハインツ子爵は薄く笑う。
その表情や態度はどこか落ち着いていて、なにかしらの裏があるのではないかと感じさせた。
「以前ここに呼び出した時は『命だけはどうか許してくれ』と恥ずかしげもなく泣き喚いて命乞いをしていたのに、今回はえらく落ち着いているな、ハインツ子爵。それはどうしてだ?」
ふと感じたその違和感に、国王の側で静かに控えていた宰相が口を挟む。
「……いえいえ宰相様、今回も私はとても怯えております。ほら見てください、こんなに手が震えて……」
これみよがしに震える両方の手を持ち上げて、宰相にそれを見せるハインツ子爵。
確かにその手はブルブルと小刻みに震えているように見えるが、表情は余裕そのもの。
「ハインツ子爵。そなたがいったい何を企んでいるのかは知らぬ、だが思い通りには決してなりませんぞ? 今回ばかりは絶対に許されぬ」
淡々とそう告げる宰相。
これ以上ハインツ子爵を野放しには出来ないと、その険しい表情や声が表している。
「それはそれは……怖や怖や、ですが宰相様、罪状はどのようにされるおつもりで? ここは確か法治国家のはず。何の罪もない人間は捌けませんぞ?」
「ハインツ子爵そなたには隣国の姫を拐かした罪があるだろう? 罪状はそれだけで十分に事足りる」
「私は金を貰い赤子を育てただけ、自分の子だと偽り国に届けはしましたがその程度で縛り首は罰があまりにも重すぎる。それにマリアベルが隣国の姫だったとは当時私は知らなかった、それを私に教えてくれたのは貴方達ですよ?」
「それを知らなかったで済まされるような問題ではない、それは紛うことなき事実だ」
「という事はあの子の出自を公表なさると? ああ可哀想なマリアベル、もうこの国で自由には生きられぬのか」
宰相に責め立てられても知らぬ存ぜぬと、のらりくらり言い逃ればかりでハインツ子爵は悪びれた様子すら見せない。
「ハインツ、貴様いい加減に……!」
そんなハインツ子爵に、国王シュナイゼルは謁見の間の玉座から立ち上がり声を荒げた。
――だが、ちょうどその時。
「国王陛下、お取り込み中申し訳ございません! 隣国アウラより、大使様ご一行が今先ほど王宮へご到着なされました!」
謁見の間に駆け込んできた伝令の騎士が、声高らかにそう告げた。
「なに、アウラから……? 大使達がこの国にやって来るのは来月のはず、だが」
「どうして急に……」
「どうする、何の準備もしとらんぞ?」
隣国アウラからの急な来訪の知らせに、ざわつく謁見の間。
「……仕方ない。ハインツ子爵は一旦地下牢にでも入れて閉じ込めておけ、この話はまた後だ」
国王シュナイゼルは宰相に指示を出す。
本当は早くハインツ子爵を罰してやりたいが、今はそうも言っていられない。
「はい陛下、かしこまりました。ですが……」
「ああ、このタイミング……これにはなにやら裏がありそうだな」
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