41 国王からの召喚状

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 ラフォルグ侯爵は王宮から届いた召喚状を手に、額に手を押し当てて深い溜息を零した。

 

 召喚状、それは国王陛下からの呼び出し。

 そしてこれは十中八九、オズワルドが教会前で起こした騒ぎについてだろう。

 

 これが手元に届いたならば、直ぐに王宮に向かい息子の不始末を弁解し謝罪しなければいけない。

 ただこれに応じて王宮に行けば、お前は何をしていたのかと皆に責め立てられるのはもう確実で。

 

 正直行きたくはない。

 だが行かぬ訳には行かないと、ラフォルグ侯爵は重苦しい気持ちで馬車に乗り王宮を一人目指した。


 病を患う前は、ラフォルグ侯爵も王宮で騎士として日々働いていた。

 けれどまさかこんな形でまた王宮に来ることになるなんて、数日前までは予想すらもしていなかった。


 フラフラと社交界で遊び呆ける息子の事を、馬鹿だとラフォルグ侯爵も薄々は勘づいてはいた。

 が、ここまで馬鹿な真似をするとは流石に考えてもみなかった。


 多少のヤンチャくらいなら侯爵も若気の至りと見過ごすが、物事には限度というか。

 貴族の世界にもやっていい事と悪い事がある。

 

 そしてオズワルドは一番やってはいけない事をしてしまった。

 王家の不興を買い、教会を敵に回す。

 最悪の場合異端とされて、処刑されても何も文句は言えない。


 馬鹿な息子にしっかり者の令嬢が嫁いできてくれる、そう安心して出席した結婚式。

 そこでラフォルグ侯爵はあの惨状を見た、その結果最近安定してきていた病状が一気に悪化。


 実際こうやって立って歩いているのも今はやっとで、出来る事ならば領地に戻り再び療養したい。

 

 だが状況はそうも言っていられない。

 このままでは最悪爵位の降格等の処分が予想出来る、でもそれだけはどうしても避けたい。

 

 先祖代々受け継いできた侯爵という爵位、それを受け継げた事をラフォルグ侯爵は誇りに思っていた。


 それを自分の代で失うなんて。

 そんな不名誉だけは御免被りたい、今までこの地位を大事に守ってきた先祖達に顔向けが出来なくなってしまう。

 

 そして久方ぶりの王宮に感慨に浸る間もなく、眼前には謁見の間に続く重厚な二枚扉。


 ……もうここまで来たら覚悟を決めるしかない。




◇◇◇


 


「それでラフォルグ、今回の騒動どう責任を取るつもりだ。お前自身がやった事ではないが嫡男が仕出かした事だ、当主であるお前にも当然その責任は発生する」


「……現在嫡男は屋敷の地下室に閉じ込めて反省を促し、廃嫡にしようかと考えております」


「廃嫡を考えている? お前はまだ嫡男を廃嫡にしていなかったのか、少々危機管理能力に問題があるようだな」


「っ……一人息子の為、決断が遅くなりました」


「それと教会側からの苦情についてはどうするつもりだ、どうやって責任を取る」


「後日教会には直接謝罪に……」


「謝罪だけで済むと思っているのか!? お前の所の嫡男が暴れたせいで教会内にいた者達は一時恐慌状態に陥ったと枢機卿猊下からも報告も受けているんだぞ!」


「それは本当に申し訳なく」

 

「それに騒動を目撃した国民達からも多数の苦情が国に寄せられている、貴族の横暴が激しいとな。いたいけな女性に寄って集ってお前達は好き勝手したそうじゃないか?」


「いえ、それは……」

 

「これは貴族全体に波及する一大事、お前達のせいで貴族に対する心象が一気に悪化した」


「皆々様におかれましては、どう謝罪したらいいか皆目見当もつかない次第で」


「ああそうだ、ラフォルグ侯爵は今日の新聞の一面をもう見たか? 今回の件、面白おかしく取り沙汰されているぞ……酷いもんだ」


「っそれはまだ……」


 宰相や大臣達、多方面から今回の不手際を指摘されてラフォルグ侯爵は今や針のむしろ。

 オズワルドのやらかしが想像以上の大事になってしまっていて、弁解の余地もなし。

 

 そして延々平謝りで、ラフォルグ侯爵の顔色は段々と悪く紙のように白くなっていく。


 ――そこへ。

 

「教会や国民達からはそなたや子爵の爵位の降格や取り上げ、厳罰等などの声が上がってきている」

 

 その一部始終を黙って見守っていた国王は、ふと思い出したようにラフォルグ侯爵にそう告げた。


「そ、れは……」


「私としては爵位の降格と教会へ賠償金の支払いが妥当かと考えている。その位はしないと国民感情もきっと落ち着かないだろう」


「そんな、国王陛下っ!」


「……これでも長年国に騎士として仕えてくれたお前に留意している、お前の騎士仲間からの嘆願もあったしな。それに今回の一番の被害者であるマリアベル本人からも『侯爵様は私を守ってくださった』としてあまり重い罰は下さないようにと、王子を通して私に伝えてきた」


「マリアベルさんが?」


「それとハインツ子爵も今王宮に呼び出していて、あちらは爵位と領地を取り上げるつもりだ。それに加えてあちらには厳罰を科す。今回領地で療養していて何も知らなかったお前とは違い、あちらは最初から知っていたからな」


「なっ、最初から!?」


 大きく目を開きラフォルグ侯爵は驚いた。

 普通それを知っていたなら親なら止めるだろうし、そんな男と娘の結婚を認めたりなどしない。


「ああ、最初からだ。ハインツの奴は初めから知っていてそれを容認していた、お前とは訳が違う」


「なんて馬鹿な真似を、ハインツ子爵……!」


 あまりの事実にラフォルグ侯爵はぐったりと項垂れ、ふらりとよろめいた。


「だからラフォルグ、お前は早く嫡男を廃嫡して家門から追い出してしまえ。そして静かに余生を領地で過ごせ。爵位は降格させるが領地までは奪わん」


「っ……陛下、ご配慮ありがとうございます」


「ああ、この程度しかしてやれなくてすまない」


 深々と臣下の礼を取るラフォルグ侯爵に、国王シュナイゼルは言葉少なに謝罪した。

 ハインツ子爵をもっと早く処罰して全てを公表していれば、もしかしたらこの事態は防げたのかもしれないのだから。

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