31 物騒な言葉を口にする王子様

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 クロヴィスがマリアベルを連れて王宮に戻ってくると、レオンハルト第一王子が住まう銀獅子宮のエントランスホールには同僚の侍女を始め多くの人々二人の到着を待ち構えていた。

 

 そんな中でもレオンハルト第一王子が居ても立ってもいれないという形相で、マリアベルの姿が見えるなり慌てて駆け寄って行く。


「マリアベル! 大丈夫だったか!? みんな君を心配して待っていたんだよ……」


「あ、レオンハルト殿下……私は問題ありません、クロヴィス様が傍にいて守ってくださいましたから。ご心配をおかけして誠に申し訳ございません」

 

「レオンハルトすまない、俺が付いていながらマリアベルを危険に晒してしまった。もっと上手く動けていれば、こんな騒ぎにならず済んだかもしれないのに」

 

 友人が大事にしている特別な侍女を自分を信頼して預けてくれたのに、必要のない危険に晒してしまったとクロヴィスは申し訳なさそうに謝った。

 

 あの場で先王、いや枢機卿猊下が教会から出てきてクロヴィス達の味方をしてくれなければ今どうなっていたかわからない。 

 最悪の場合、ラフォルグ侯爵夫人やハインツ子爵に押し切られて強制的にマリアベルは侯爵家に連れて行かれていた可能性がある。

 

 それにもしそうなっていたら。

 マリアベルがオズワルドとの結婚から逃げられないように、既成事実を作られていたかもしれない。

 と、クロヴィスは顔を曇らせた。

 

 ただクロヴィスが本気を出してマリアベルを守れば、そんな事には決してならないのだが。

  

「いや、今回の事はクロヴィスが悪いわけじゃないよ。どう考えてもオズワルドとか言う奴が悪い。お前が送った者から報告を受けてどんなに腹が立ったことか……!」


「確かにあの男には腹が立つ。マリアベルの婚約破棄についてもそうだが、たかが侯爵家の嫡男というだけで好き勝手に振る舞いやがって! 絶対に許さねぇ……」

 

「出来ることならば私もその場に駆け付けてやりたかった。だが私が行けば確実に騒ぎになり、教会に迷惑を掛けてしまっていた。だからクロヴィス、マリアベルを守ってくれて本当にありがとう。あ、それとアイツら殺す? 父上に頼んで影使わせて貰ったら今すぐにでも……」


 レオンハルト第一王子もクロヴィスが悪いわけじゃないと報告を受けて知っているので責めたりなどしない、逆によく守ってくれたと感謝の言葉を口にする。

 レオンハルト第一王子にとってマリアベルはまるで本当の姉のように慕う特別な侍女で、もしその身になにかあったらと報告を受けてからずっと気がきではなかった。 

 だから無事に戻って来たマリアベルの姿に、安堵の表情を浮かべ少年らしく喜んだ。

 ただ最後にちらっと物騒な言葉を口にしたが、レオンハルト第一王子もそれだけ腹が立っているということだろう。

 

「レオンハルト、別にお前に感謝される為にやったんじゃない。俺はマリアベルを傷つけられたくなかっただけだ」


「……ふぅん? だからあんな場所で公開プロポーズしたんだねクロヴィスは」 


「えっ……! あ、あれは! そのだなっ……」


 レオンハルト第一王子に指摘されて焦るクロヴィス、自分が『マリアベルと結婚する』発言を人前でしたことをすっかり忘れていたらしい。


「それでどうなのマリアベル!? クロヴィスのプロポーズ受けるの? 私としては二人が結婚してくれたら嬉しいけど、君がどうしても嫌っていうならどうにかしてあげるよ?」


『まぁだいぶ外堀埋められてきてるから、クロヴィスから逃げるのは大変だけどね』と、最後に小声でレオンハルト第一王子は付け足した。 

 

「……あれは私を助ける為にクロヴィス様が咄嗟につかれた嘘ですわ、レオンハルト第一王子殿下」


「えっ、嘘? え……」


 その言葉に困惑するレオンハルト第一王子。

 なぜならそれが嘘な訳がないと、ここに居る皆は知っているのだから。

 

 クロヴィスがマリアベルの事を好いているのはもうこの銀獅子宮では知らぬ者はいない周知の事実で、婚約破棄をされてフリーになったマリアベルにいつクロヴィスはプロポーズするのかと皆ずっと気になって見守っていた。


 なのにそれをマリアベルは嘘だと言う。


「はい。一介の侍女でしかない私などではルーホン公爵家の後継者であるクロヴィス様の妾くらいにはなれましても、流石に結婚はして頂けないと思いますよ?」


「ちょっ、マリアベル!? 妾って、なに言って……」


「それに私はクロヴィス様より四つも年上でございますし、いくら伯爵家の養女にして頂けましても私の身体に流れる血はあの両親の、ハインツ子爵家のモノでございますから……あんな醜態を見た後で私なんかと本気で結婚なんて……」

  

「マリアベルあれは嘘じゃない!」


「っ……え?」


「あれは本気で言ったんだ、俺はお前と結婚する。というかその……結婚、して欲しい」


「でも……えっ、はい? あ、こちらこそよろしくお願いします……? あら?」


 なんだかすっきりとはしない返事だが、承諾を得られたらしいとわかったクロヴィスは満面の笑みを浮かべ人目も憚らずマリアベルに抱きついた。


「マリアベル、俺……絶対に幸せにするからっ!」


「えっ、えっ、あ……はい?」


 そんな二人を見た銀獅子宮のエントランスホールに集まった者達は、やっとクロヴィスの片思いが実ったとまるで自分の事のように手を叩いて喜んだ。 


「あー……いちゃいちゃしてる所わるいんだけどさ、母上がマリアベル呼んでるからクロヴィス、それ後にしてくれない?」


「王妃殿下が……?」


「うん、それとクロヴィスは父上が王宮に帰って来たら私と来いって言ってたから」


「……わかった直ぐに謁見に向かう」


「恐らく先の件だと思う、楽しみだね?」


「ああ、とても」 

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