16 十人人並み
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装飾の為に結ばれましたリボンだけでも、明らかに高級品。
その高級感溢れる大きな包に少々躊躇いながらも、リボンを解いて蓋をそろりと開けますと。
高貴なご令嬢方が着ていらしても何ら遜色のない銀糸で彩られた青のドレスや靴、それに宝飾品まで中に収められておりました。
そしてその上品なドレスのデザインや色合いは驚くほど私好みでございますし、ドレスや靴のサイズは寸分違わずぴったり。
どこのどなたが私に贈られたのだろうと中をよく見てみますと、クロヴィス様のお名前が書かれたメッセージカードが。
そしてメッセージカードには。
『明日はこれを着てきて欲しい、だがもし気に入らなかったたら捨ててくれて構わない』
と、書かれておりました。
「あら、品の良いドレスですこと。意外とクロヴィスお兄様も見る目がありますのね? 感心致しましたわ」
そう評価しますのは。
クロヴィス様の妹君であり、レオンハルト第一王子殿下の婚約者であらせられますエリザベス公爵令嬢。
「そうでございますね、これならばうちのマリアベルに良く似合うでしょう。合格です」
そしてドレスの採点をなさいました、侍女長様でございます。
「ではマリアベルお姉様? クロヴィスお兄様とのデートの準備をいたしましょうか!」
「ええ、そうですね。約束の時間まであまり時間に余裕がございません、急ぎでドレスに着替えてヘアとメイクを致しましょう」
と、今後の方針をエリザベス様と侍女様は着々と決めていかれますが。
どうしてこのお二人が私の部屋に……?
昨日クロヴィス様から私宛に突然素敵なドレスが届き、大変驚いていました所に。
今朝方エリザベス様と侍女様がやって来られまして、現在に至るのですが。
「エ、エリザベス様? それに侍女長様もどうしてこちらに……それにマリアベルお姉様って……え?」
「ふふっ、マリアベルお姉様はマリアベルお姉様ですわ? だってもうすぐ私のお姉様になるんですもの……うふふ」
「あら、マリアベル。どうかなさいまして? 予定の時刻まであまり余裕がないのです、早く準備をして下さいな。このデートで勝負を決めますよ」
「そうですわ、マリアベルお姉様! いつもより美しく着飾って今回のデートで更にクロヴィスお兄様を魅了して差し上げましょう?」
「勝負……魅了……? あの、え……」
そして私は。
エリザベス様と侍女長様に、飾り立てられててしまいました。
「……昼間のデートならばこんなものでしょうか? 素敵ですよマリアベル。これならばあの奥手も、愛の言葉の一つや二つ囁やけるでしょう」
大仕事終えたよう充足感を表情に浮かべられた侍女長様が、私の姿を見てそう申されます。
「まあ……素敵ですわ! きっとクロヴィスお兄様、マリアベルお姉様の美しさに赤面なさるわ!」
「あの……エリザベス様? クロヴィス様が私を見て赤面など、なさる筈がありませんよ。それに私が美しいなんて……」
人より劣るとか不細工だとかは自分でも思ってはおりませんが、私の容姿は何処にでもいる十人人並み。
普段エリザベス様のような美しい方を見慣れていらっしゃいますクロヴィス様が、今さら飾り立てた私を見た所で多少は良くなったと思う程度。
決して赤面する事はないでしょう。
「なにをおっしゃっているのですかマリアベルお姉様? こちらの鏡をしっかりとご覧になって!」
「鏡を見た所で何も変わりませんよ? 私は私なのですから……」
いくらドレスやお化粧で美しく飾り立てた所で私は私で、地味な容姿は何も変わらない。
そう、思っていた。
「……ね? とっても綺麗でしょマリアベルお姉様!」
「え……あ、はい。いやでも……」
「普段マリアベルお姉様はお化粧を全然為さらないからもったいないなって私ずっと思っておりましたのよ? 絶対にお化粧映えするお顔なのに……!」
「お化粧はあまり得意ではございませんので……」
普通の侍女ならばお化粧が出来なくては駄目なのですが、私は第一王子殿下に仕える侍女。
だから誰かにお化粧をする機会も全く無く、練習をする必要も無かった。
それに加えてレオンハルト第一王子殿下は、女性のお化粧の香りがあまり得意ではなく好まれない。
だからお化粧は最低限人前に出れる程度しか、これまで一度もしてこなった。
「じゃあこれから練習ね! 私がレオンハルト様と結婚したらマリアベルお姉様には私の侍女になって貰うつもりだから!」
「え……?」
「私ね、ずっと憧れておりましたのよマリアベルお姉様に! 息をするように美しい所作で美味しいお茶を入れられる姿が、あまりにも素敵で……!」
「エリザベス様……」
「それに私とレオンハルト様の子どもの乳母にもなって頂きたいし……! なので是非クロヴィスお兄様とご結婚なさってねマリアベルお姉様!」
「え、乳母……?」
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