15 いつも不幸でいて欲しい
15
名はオズワルド・ラフォルグ。
この男はラフォルグ侯爵家待望の嫡男として生まれ、何不自由なく与えられて大切に大切に育てられた。
そんな風に育てられたからなのかはわからないが、なんでも自分の思い通りになると思っている節があり世の中を少々舐めていて。
我儘なお坊ちゃま。
それがオズワルドという人物を説明するのに、一番適した表現だろう。
そんなオズワルドの家は由緒正しき騎士の家系で、これまで多くの騎士達を家門から輩出してきた名門。
そしてそれはオズワルドの父ラフォルグ侯爵も例に漏れず騎士で、病気で現役を退くまでは王城で王の護衛をしていたような優秀な人物である。
だが息子のオズワルドはといえば、驚くほど不真面目で騎士になる為の試験に数年落ち続けているような落ちこぼれ。
だから本当に血の繋がった親子なのかと、周囲が本気で疑うほど人としての出来が悪かった。
そんなラフォルグ侯爵家の嫡男オズワルドに連れられて、リリアンは王都にあるラフォルグ侯爵家の屋敷に遥々やってきていた。
「まあ、なんて素敵なお屋敷でしょう……!」
「リリアンおいで、屋敷の中を案内してあげよう」
「はい、オズワルド様!」
オズワルドに案内された屋敷は辺境にあるみすぼらしい子爵家とは違って、広く豪華だった。
それに侯爵家の屋敷には使用人も沢山いて、常に至れり尽くせり。
そしてリリアンの為に用意された部屋は。
リリアン好みに改装してくれているし、置かれた調度品はどれも一級品ばかりで使いやすい。
それに部屋の奥にある衣装部屋を開ければ、リリアン好みのドレスや装飾品で埋め尽くされていて。
リリアンはうっとりと幸せそうに微笑んだ。
「オズワルド様! このドレスに宝石って……」
「もちろんここにある全てはリリアンへのプレゼントだよ? 君は私の妻になるんだ、だからこのくらいは持っていないと困るからね?」
と、言ったオズワルドは得意満面で。
「ありがとう! リリアンはとっても嬉しいです……オズワルド様大好きっ……!」
「君に喜んで貰えて私も嬉しい、ああ私の可愛いリリアン……」
そんな二人はまだ日が高いというのに雪崩込むようにベッドに入り、時間を忘れて今日も睦み合う。
全て完璧だった。
全部リリアンが望んだ通り。
そこには一寸の狂いもなくて、リリアンは過去最高に幸せな気分だった。
それにもうすぐここの女主人に自分がなれると考えると、リリアンの気分は更に良くなった。
……だけどなにかが少し物足りない。
どうしてだろうと考えれば直ぐに答えは出た、この幸せを自慢する相手がここにはいないのだ。
欲しいものが手に入っても、それを自慢して優越感に浸れなかったらリリアンはつまらない。
だからオズワルドが屋敷にいない隙に、王宮まで姉マリアベルに会いに行った。
そして初めてきた王宮はきらびやかで、広いという言葉では言い表せないほど広くてリリアンは見惚れた。
それに王宮には美しいドレスを身に纏った令嬢達や、辺境では一度も見たこともないような素敵な男性達が沢山いて。
リリアンは腹が立った。
こんな素敵な所に可愛いリリアンではなく、あの地味な姉がいるということが。
姉マリアベルの居場所は直ぐにわかった。
そして妹だと伝えると、若い騎士は部屋まで親切に案内してくれてリリアンは余計に腹が立った。
自分を差し置いて、お姉様がこんなに居心地のいい場所にいるなんて許せない。
姉マリアベルにはいつも不幸でいて欲しい。
そして久し振りに対面した姉マリアベルは、生意気にもリリアンの事を冷たくあしらった。
だから自分の立場をわからせてやろうとしたら、素敵な男性が姉を助けたのだ。
オズワルドはリリアンのワガママは何でも聞いてくれる、けれど容姿は普通で好みじゃない。
それにリリアンは、オズワルドの事が好きだから結婚するわけじゃない。
妊娠してしまったから、仕方なくオズワルドと結婚するだけで言うほど好きじゃなかった。
でも姉を助けに来た彼は目を見張るほどの美男子で、とても好みの顔だった。
「あんな素敵な人に地味なお姉様が守られてるなんて絶対に許せない、お腹の子どもさえいなければ奪うのに……」
姉から奪った純白のウェディングドレスを前にして、ぽつりと溢れ落ちた本音は行く宛もなく寝室の闇に消える。
それはオズワルドとリリアンの結婚予定日まで、残り二週間を切った日の事だった。
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