14 親父ヅラ
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「さあ遠慮せず食べなさい、うちの料理長が作ったシューアラクレームは絶品なんだよ」
「はい、いただきます」
「マリアベルさんはお茶は好きかい? 実はね、今日の茶葉は私が選んだんだよ」
「はい、フォーレ伯爵様。私もお茶には愛着がございます。それと今日の茶葉はダージリンのファーストフラッシュでございますか?」
「ああそうだよ。だけど時期までわかるとは……マリアベルさんは紅茶に詳しいのかい?」
「いえ、これは私が侍女になったばかりで右も左もわからぬ頃『お茶の基本』を侍女長様にご指導して頂いたおかげでございます」
「そうか、ブリジットが教えたならば納得だ。我が妻が入れたお茶は世界一美味しいからね?」
「はい、私も同意致します。フォーレ伯爵様」
マリアベルと話せば話すほど、その聡明さを知れば知るほど、こんなに素晴らしい令嬢が婚約破棄をされた挙げ句、親から絶縁されたという事実にフォーレ伯爵は困惑した。
だってマリアベルはどこに出しても恥ずかしくない、お淑やかで聡明な令嬢だったから。
自分にマリアベルのような娘が生まれていたら社交界で自慢して歩くだろうし、何があろうと絶縁なんて無責任な事は絶対にしない。
そしてフォーレ伯爵とマリアベル、養父と養女の初顔合わせは終始和やかに進んでいく。
――そこへ。
「フォーレ伯爵、マリアベルにメロメロな所大変申し訳ないんですけど……少しお時間いいですか?」
フォーレ伯爵とマリアベルの楽しげな会話に、クロヴィスが割り込む。
「なんだクロヴィス・ルーホン。呼んでもないのに居るな、邪魔だなとはずっと思っていたが、私と娘の会話を邪魔をしに来たのか? ならば帰れ、出口はそこだ」
「……今日マリアベルに会ったばかりなのにもう親父ヅラですかフォーレ伯爵?」
「マリアベルは私の娘になったのだから、親父ヅラしても何ら問題はない。逆にクロヴィス・ルーホンお前うちのマリアベルに付き纏っているそうだな、ブリジットに聞いたぞ?」
「付き纏ってるって……そのいい方止めて貰えません? それじゃまるで俺がマリアベルのストーカーみたいじゃないですか」
「だが実際そうだろうクロヴィス・ルーホン? うちの娘に振られたのにこうやってどこにでも付いてくるとは……」
「ちょっ、まだマリアベルに振られてはいません! なに勝手に俺が振られたみたいな事にしようとしているんですか……」
「なんだ、お前まだ振られてなかったのか!? うちの娘に告白してからもう一ヶ月以上経つのだろう? なのに二人が婚約するという話を聞かないから、私はてっきり振られたのだとばかり……」
「それは、その……っていうか何で俺がマリアベルに告白したことフォーレ伯爵は知ってるんですか!?」
「あら、クロヴィス! そんな面白いこと私が夫にお話したに決まっているじゃございませんか?」
「面白いって……侍女長?」
「だってねぇ……?」
二人の話を黙って聞いていた侍女長は、クロヴィスを楽しそうに揶揄って遊ぶ。
クロヴィスの母親、ルーホン公爵夫人と侍女長は結婚前から仲の良い友人同士。
だからクロヴィスの事は生まれる前から知っていいて、私的な席では昔からこんな感じなのだ。
侍女長に揶揄われて遊ばれるクロヴィス。
そんないつも通りの会話をする二人から、フォーレ伯爵は居心地悪そうな顔をするマリアベルへと視線を移す。
「マリアベルさん? こういった話に外野がどうこう言うのは間違いなんだが……あまり返事を長引かせるのは良くないよ、彼はルーホン公爵家の嫡男なのだから」
「はい……」
それについては私も重々承知しております。
お返事を長引かせるのは良くないと、だってクロヴィス様はルーホン公爵家の後継者。
ルーホン公爵家といえば前王妃殿下のご実家で、宰相や大臣を多く排出してきたやんごとなきお家柄。
私のような者がルーホン公爵家のクロヴィス様に想いを寄せて頂く事自体が奇跡で。
そのお返事をお待たせするなんて、身の程知らずな行為でございまして。
「ちょっ、フォーレ伯爵!? 余計な事をマリアベルに言わないで下さい。俺は別に……いつでもいいんです、返事なんていくらでも待ちますから」
「……クロヴィス・ルーホン? 君も何のんびりした事ばかり言っているんだ……君の年齢と立場で、婚約者がいない今のその状態は異常なんだぞ? なのに君は……」
「あーはいはい、その言葉はもう両親に散々言われて聞き飽きました。でも俺が結婚したい相手は一人しかいないんです、だから放っといて下さい。そんなことより私はフォーレ伯爵に大事なお話があってですね……」
「そんなことよりじゃないだろ!? これはとても大事な話だ、だって我が家の娘マリアベルに関する事なのだから! まずはこの話が片づかないと私は他の話は絶対にしないからな!」
「いや、待って下さいフォーレ伯爵。私が今からお話することもマリアベルに関する事でして、養子縁組の手続きで少々問題が……」
「そんなもんは後でいい! よしわかった、君達ちょっと街にでも行ってデートしてきなさい」
「え……?」
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