17 反則
17
「クロヴィス様。とても素敵なドレス、贈って頂きありがとうございます」
「あ、うん。とても……よく似合ってる」
「お褒め頂きありがとうございます、エリザベス様と侍女長様がお手伝いをしてくださったのですよ」
「そうか……」
王宮までお迎えに来てくれましたクロヴィス様は、私を見て赤面されるどころか表情が硬く顔色があまりよろしくありません。
それに目も碌に合わせては頂けなくて、言葉数も少なくあまり気が乗らないご様子。
馬車の中は終始重苦しい雰囲気で、やって参りましたのはクロヴィス様行き付けのカフェでございます。
カフェは大変高級感のある店構え。
流石は公爵家の後継者クロヴィス様行きつけのお店だなと思いますと同時に、私一人ならば不相応に感じて入る事を戸惑う雰囲気。
ですが本日はクロヴィス様とご一緒ですので、意を決してお店の中へと入りますと店内は少し混み合っておりました。
「いらっしゃいませ。直ぐお席の準備を致しますのでこちらで少々お待ち下さい」
「ああ」
私達の入店に気付かれましたお店の方が、直ぐにやってきてそう案内して頂けます。
甘い香り香りが漂う店内、入ってすぐのショーケースには可愛らしいケーキや焼き菓子が美しく並べられておりまして眺めておりますと。
直ぐにお席にご案内して頂けました。
クロヴィス様に店内をエスコートして頂きまして、着いた席はなんとカフェの二階にある個室。
大きく開いた窓からは美しい中庭が見えまして、私が想像していたカフェとは少々違っておりました。
「あのクロヴィス様? カフェに個室なんてあるのですね、私少々驚いてしまいました」
「一階だと騒がしいからな、俺はいつも個室に案内して貰ってる。マリアベルは……もしかして嫌だったか?」
「いえ、少々驚いてしまっただけでございまして。ここは景色も良くとても気に入りました」
「そっか、それならよかった。ここのケーキはどれも美味しくてオススメだから、マリアベルが気に入ったならまた一緒に二人で来よう?」
安心したようにクロヴィス様は、今日お会いしてから初めて微笑まれます。
「クロヴィス様のオススメなら間違いないですね、離宮に持参されましたチョコレートマフィンとても美味しかったので!」
「あのチョコレートマフィンが気に入ったなら、また買ってくるよ。今度は離宮じゃなくて俺の家でティータイムをしよう」
「あ……はい」
そしてクロヴィス様オススメのケーキや焼き菓子が、続々とお席に運ばれ参ります。
全て見るからに美味しそう、けれどメニュー表を見て私は注文する事を戸惑いました。
だって普段私が侍女仲間達と利用するカフェの五倍以上高いんです、ここのお店。
やはりクロヴィス様は公爵家の嫡男様、住む世界が違いすぎて私が隣にいるのは不釣り合い。
楽しいティータイム。
クロヴィス様とお話すると私はいつも楽しくて、時間を忘れてしまいます。
なのできっとクロヴィス様とお付き合いすれば、毎日が楽しいでしょう。
……ですが。
「クロヴィス様、大事なお話がございます」
「ん? 話ってなに……」
「婚約破棄されて傷付いた私に優しいクロヴィス様は同情されて『好き』だとあの時おっしゃったのでしょう? ですがもう私は大丈夫ですので、嘘をつかれなくていいのです」
「嘘……」
きっとこのまま一緒にいる時間が増えれば、私はきっとクロヴィス様を好きになる。
だからその前に。
「私には女性としての魅力があまりないという事実はちゃんと理解しております。ですからクロヴィス様のような方が私を好きになるなんて事は絶対にあり得ないのですよ」
「は?」
「ということでございましてクロヴィス様、元の友人に戻りましょう?」
お迎えに来られましてからずっと浮かない表情のクロヴィス様、そんなのは当たり前なのです。
好きでもない年上の女性と二人きりでデートなんて、きっと若いクロヴィス様にはつまらなかったでしょう。
ですのでここは人生の先輩であるこの私が、この不毛な関係を終わらせてあげるのです。
その関係に限界を迎え傷つけ合うその前に。
それにまた捨てられるなんて御免ですし?
「……マリアベル、言いたいことはそれだけでいい?」
「はい、これで以上でございます!」
「そっかあ……全然俺の気持ちがマリアベルに伝わってなかったと言う事が今すごくわかった」
「いえ、しっかりと伝わっておりましたよ? クロヴィス様、今日お会いしてから全然楽しそうじゃありませんでしたし……私と目も合わせてくれませんでしたし!」
「いや、それはちがっ……!」
「……何が違うのです?」
「今日のお前綺麗過ぎて……直視出来なかったんだよ! 元から好みの顔なのに、更に綺麗になるとかそれ反則……」
「えっ、えぇ?」
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