6 家族にも婚約者にも恵まれなかったけれど
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「思い返しますと。オズワルド様との出会いはナンパというヤツだったのだと、私は思うのです。そして彼は不誠実な男だったのです!」
「え……今さらそれに気付いたのか!?」
「へ? 気付く……?」
「……夜会で女性のドレスにワインを溢して弁償するその流れで、後日会う機会を作る。なんて、昔ながらのナンパの遣り口だろ?」
「えぇ! そ、そうなのですか!?」
「そうなのですかって、マリアベル……もしかしてなにも知らなかった?」
そう私に教えて下さいましたのはレオンハルト第一王子の側近の一人、クロヴィス・ルーホン。
まだ若干十九歳という若さながら宰相様の補佐をされており、将来有望だと周囲から期待される方。
そして第一王子レオンハルト殿下の婚約者エリザベス公爵令嬢の、実のお兄様。
ルーホン公爵家の後継者なのですが、とても気さくな性格の方なのです。
それになんと光栄な事に、私の友人なのです。
そんなクロヴィス様は私が婚約者に婚約破棄された事を何処からか知ってしまったらしく。
心配して、わざわざ私の部屋まで訪ねて来て下さいました。
なんて友人想いのとても良い方なのでしょう。
「そ、そんな手法知るわけありません! 知っていらしたのなら、どうしてあの時私に教えてはくださらなかったのですかクロヴィス様!」
「いや、だって……『素敵な殿方に運命的に出会った』と言ってすごく幸せそうにしていたから。『それナンパじゃね?』なんて言い出せなかったんだよ……ごめんなマリアベル、こんな事になるなら言ってあげればよかったな……」
「あ……いえ、こちらこそすいません、なんかもういっぱいいっぱいで……クロヴィス様が悪いわけじゃ、ありませんのに」
「あ、いや……こっちは全然大丈夫だけど。マリアベルがそれだけ俺を信用してくれているという事だし、逆に嬉しい……」
クロヴィス様は、友人である私を心配して来てくれただけ。
なのに何も悪くないクロヴィス様に、八つ当たりみたいな事を言ってしまうだなんて。
「ほんと私、ダメダメですね。四つも年下の友人に八つ当たりをするなんて、もう恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいです」
「まあ、そうだな……結婚の三ヶ月前になってコレじゃあ……そりゃ余裕が無くて当たり前だよ。だから俺の事は気にすんなマリアベル。話ならいくらでも聞くし、もっと俺を頼って?」
結婚まであと三ヶ月という所にきて、妹に婚約者を寝取られた。
そして私から婚約者を奪った妹のお腹の中には、婚約者の赤ちゃんがいて。
私を捨てた婚約者は妹と結婚する。
そして味方になってくれる筈の両親は、姉の私が我慢すべきだと言う。
私に起きてしまった現実を箇条書きにしていきますと婚約者と妹の行いはなかなかに酷すぎだし、両親も酷い。
私が貴方達にいったい何をしたというのでしょうか、ここまで酷い事をされる謂れはないはずです。
「ありがとうございますクロヴィス様、私は素敵な友人に恵まれてとても幸せです」
「え? あ、うん、友人……」
「私は決めました。もう恋はしません、そして恋人なんて一生作りません。それに結婚なんて絶対しません! 特に爵位が上の方とは! オズワルド様のバカ! 愛してるって、君だけだって……言ったくせにっ! 妹と浮気するなんて……」
「え!? いや、ちょっと待てマリアベル! その男がクズだっただけで諦めるのはまだ早い! と、俺は思う! 他にもさ、目を向けて見よう!? あと爵位は関係ないと……」
「いえ、私はもう一生独身でいいのです……こうなったら侍女としての高みを目指します!」
「え……まあ、それも選択肢の一つだとは思うけどさ。こんな事で一生を左右する決断はしないほうがいい! だってマリアベルの事、本当に好きな男が結構意外と近くにいたり! 君が気付かないだけでさ、ほら……」
「クロヴィス様のおっしゃる事は理解できますが、私はもう疲れ果ててしまいました。もう恋愛も結婚も懲り懲りです!」
枯れるまで沢山泣いたはずですのに、これまでの事を思い出すとまだ涙が出てきてしまう。
「……うん、そうだね。あ、じゃあ実家のご両親には? 会いに行ってきたんだろ? ちゃんと相談はした?」
「クロヴィス様、それ……本当に聞いてしまわれます?」
「あ、もしかして家で何かあった……?」
「実家で両親には『妹は妊娠しているんだから彼を譲って上げなさい』そして『それに貴女は姉なんだから我慢しなさい』と言われてしまいました」
「うわ、それはまた……なんというか、酷い」
両親は元々可愛いらしい容姿の妹リリアンにはとても甘くて、贔屓ばかり。
もちろん私もそれを知っておりました。
けれどここまで来ますと流石におかしい。
容姿はリリアンに比べれば地味かもしれませんが、私も両親の娘。
ですのに、姉の婚約者を寝取ったふしだらな妹を叱るどころか。
『姉なのだから貴女が我慢すべき』
なんて酷い言葉を娘の私に言うだなんて。
「なので両親とは絶縁して参りました! もうあんな人達のこと、親とは思いません」
「マリアベル……」
そしてクロヴィス様は『辛かったな』と言って、ずっと側で私の話を聞いてくださいました。
なんて優しい友人なのでしょうか?
私は親にも妹にも婚約者にも恵まれませんでしたが、仕事や友人達にだけは恵まれたらしいです。
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