最強のチート能力は何かを考えてみよう

司尾文也

どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワーは最強なのか?

 主人公最強系の作品を書きたい!


 そう思って、例えば「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」というチート能力を主人公に与えたとしよう。


 しかし、ここで問題が発生する。


 「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」は、果たして最強のチート能力だと言えるのだろうか?


 もしその能力に対抗できる敵が現れたら、最強のチート能力とは呼べなくなってしまうのでは?


 それは嫌だ! 最強がいい! 最強じゃなきゃ嫌だ! という最強をこよなく愛する人々の想いを背負い、ここでは様々なチート能力と、それに対抗する手段を考えていくことにする。


 対抗する手段が思いつかなかったチート能力こそが、最強のチート能力であると定義できるわけだ。


 そして、最強のチート能力が何か判明した暁には、正真正銘の主人公最強系の作品が書けるというわけである。


 ただし、考察には独断と偏見が大いに含まれるため悪しからず。


 ではさっそく、先述した「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」は最強チート能力であると言えるのかどうか考えてみよう。


 まず考えるべきなのは、どんな敵でも一撃で倒せるというのはどういうことなのかという点だ。


 チート能力というのは大抵の場合概念が絡む。その概念にケチをつけてしまうと能力そのものを否定することになってしまうので、ここではこの能力を使用し、一撃で倒せない者はいないと考えよう。


 即ち、とんでもなく防御力が硬くて、圧倒的パワーに耐えられる敵なんかは存在しないものとして考えるということだ。


 だが、この場合、相手もチート能力持ちならどうなるだろう。「どんな攻撃だろうが無効にする無敵の防御」を持った敵が相手なら「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」も無効になってしまうのでは?


 概念が絡むチート能力には、この手の矛盾が付き物だ。じゃあ結論なんかでねぇじゃねぇかと投げ出してしまうと趣旨に反するので、ここではこの答えの出ない疑問にどうにかこうにか答えを出してみよう。


 そもそも、圧倒的パワーを拳によって発揮するとして、それが攻撃として成立している以上、拳は自壊していないということになる。その圧倒的パワーによって生じる反動に耐え切っているということだ。


 つまり、「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」を放つ際、その拳は「どんな攻撃だろうが無効にする無敵の防御」を纏っていることにならないだろうか。


 そう考えると、無敵の防御というのは無敵の攻撃の下位互換であると言えなくもない。両者が衝突した時、少なくとも防御側に勝機はないだろう。ならば無敵の防御は圧倒的パワーが最強チート能力ではないと証明する材料にはならない。


 では「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」を攻略できる能力は存在しないのだろうか。


 いや、そう結論付けるのは早い。


 どんな敵でも一撃で倒せるといっても、それが圧倒的パワーによるものであるとするならば、攻撃が当たらなければ問題ないということである。


 よって、「どんな攻撃でも回避できる超反応」的なチート能力があれば、攻略自体は可能ではなかろうか。


 ただ、問題はどうやってダメージを与えるかだ。圧倒的パワーを扱えるということはその反動に耐え得る肉体を持っているということ。ただの回避力では、その頑強な肉体に傷をつけられそうなイメージは湧かない。


 とはいえ、別に正面から戦う必要もないのだ。防御を突破できないのなら、搦め手を使えばいい。ここでは圧倒的パワーにしか言及していないので、毒の類が有効な可能性は大いにある。


 毒針は刺さらなさそうなので、毒ガスでも浴びせればいいのだ。ガスを一度吸い込んでしまえば、パワーでどうにかすることはできまい。


「あらゆる毒を無効にする」というようなチート能力を持っていれば話は別だが、それは圧倒的パワーというチート能力の攻略とは別問題だ。


 よって結論としては、「どんな敵でも一撃で倒せる圧倒的パワー」を持った人物は毒で倒せそうなので、最強チート能力とは言えない。


 もしこの能力を持った最強系主人公を書きたければ、毒無効の能力も一緒に持たせよう。そうでないとアッサリ攻略されてしまいそうだ。

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