第2話

S氏は悪びれることも神経を尖らすこともなく、毎日をダラダラとすごした。友人がいるのかどうかさえ分からないが、S氏は外に出ることもほとんどなく、実家の三畳一間の部屋で茫然自失としながら生きていた。

そうこうしているうちにS氏は1年の年忌を終えた。

S氏は2年目の春を迎え、市のハズレもハズレ、遠い島の小・中学校共同の学校に小学校教諭として島流しになることが決まった。S氏は実家から出るのは初めてだったが、赴任することにした。島には郵便局もコンビニもなく、当然美容院だのというものもなく、髪を切る時は島から実家に帰ってくる時のみだった。また島と本島を結ぶ船便は1日に1往復しかなく、それもちょっと波が高くなったら欠航してしまう状態だった。

S氏は地元の漁師に好かれ、新任教師として馴染み、毎夜宴会に駆り出されという、それまでの茫然自失休職教師とはまるで違う生活を送り始めた。S氏は海が凪いだ日、ぼーっと帰ってきてひとしきりゴロゴロして、何をするでもなく、時折散髪をするだけで島に帰って行った。島の漁師衆からたまに島で採れた鰤などを持って帰ってきて、私はそれを知人に配って回った。

そんなS氏が3年島で過ごした末に私達夫婦に突然切り出した。「俺帰ってこようと思うんだけど」私は必死でS氏を説得した。「あんたみたいな人はもうちょっとしごかれて来た方がいいって」S氏はそれを遮って言った。「俺結婚しようと思ってて」私達夫婦はどビックリしてしまった。

S氏は実家に帰ってきても、電話するではなく、デートに出かける訳でもなく、ただゴロゴロしていただけだったからだ。しかも筋金入りのロリコン。

しばらく時間が止まった。

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