弟S氏の性癖と職業

緒方亜矢子

第1話

弟S氏は幼い頃からビビりで泣き虫でよくいるダメな長男だった。勉強も鳴かず飛ばずで荒れていた小・中学校にいたからとはいえ、決して優等生ではなかった。

S氏は高望みしていた高校に周囲がびっくりしたが合格してしまった。しかし、高望みゆえの悩み所謂「落ちこぼれ」街道まっしぐらの高校生活を送った。

大学受験の時S氏は俺は公立大学しか受けないと言って、国立の教育大学を受験した。びっくりは二度あるもので、S氏は大学も合格してしまった。

すっかり人生を舐めたS氏は丙午の年に生まれ、平成の大量採用があったとはいえ、教員採用試験にも合格してしまう。

彼はいなかの単科大学で青春時代を過ごす。

無事卒業が叶い、S氏は市内のとある小学校に赴任した。

公務員であり、教諭という安定した生活を得たS氏は父も自慢する立派な息子の地位に立った。

私はS氏が社会人になった年に結婚し、新しい家庭を築いて順風満帆のS家であると思われた。

そんな春の日のピカピカな日。赴任間もないS氏の学校から私達の両親が呼び出された。両親は何事だろうと思いつつ小学校へ向かった。

待っていたのは校長と教頭とS氏。何事かと言えば、S氏が教え子とラブレター交換をしていたという事実。両親にすれば寝耳に水だ。S氏は小学生のお気に入りの教え子に恋心を抱いてしまった。

両親の目の前でラブレターが読み上げられた。そのときの両親の恥ずかしさたるや想像に難くない。

S氏は1年の休職を言い渡される。そのニュースで我が家の空気はどよんと暗くなる。

S氏は休職処分だが、病気で休職するには医師の診断書がいる。医師からは病気でもなんでもないS氏の診断書は出せないと言われ、期限が来たら失職という危機に晒された。

家族駆けずり回るが診断書は手に入らない。

と、私はその時自分が精神科に通っていることに気づく。最後の手段と精神科にS氏の相談。主治医は診断書を書いてくれると言った。ただし、患者ではない人の診断書は書けないから、一度S氏を連れてくるようにと言われた。

かくしてS氏は診断書を手に入れ、病気による休職に入った。

S氏は悪びれず実家で給料の数割をもらいながらダラダラとすごし始めた。家に一円も入れることなく母の用意した食事をとり、洗濯してもらい、部屋の片付けさえもしてもらってぼーっと一日を過ごす毎日。

時には鬱屈してはいけないと私達夫婦にドライブに連れていってもらい、ガソリン代も食費もすべて私達持ち。

そんなある日母が私に相談してきた。実は...と出した冊子が所謂ロリコン本。年端も行かない少女達が際どいポーズを取らされているエロ本。こんな本がS氏の部屋に沢山あるんだけど...と困った母の声。あいつ聖職と言われる教職に就いていながら、教え子に性的興奮を感じていたなんて、と怒りで頭が真っ白になる私。しかも隠そうともしていない。S氏の性癖はうっすら分かってはいた。幼女の出るアニメを好み、かなり年下の女の子と文通しているのも知ってはいた。しかし、こんなえげつない本に血道を上げるとは…。ここは私に任せてと母に言い、エロ本全部集めて紐で括り本の上に「小学校教諭であるあなたが読む本ではないと思う。しっかり反省せよ」という紙を置いてわざと見つかる場所に置く。

おそらくS氏は気づいたと思う。特になんということもなくすぎる日々。

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