ワールド・ブック 〜禁忌の本を追う者〜

Mr.適当

魔術学園の謎

少年レイと魔術学園の謎①

神が世界を創ったとされている日から数千年、これと言った人類同士の争いも無く、平和な日々が続いていた。そんなある日の夕方。

貴族街を抜けて、平民達が住む住宅街の一角、セーヌ通りに建つ本屋の前で、あどけなさが残る少年の声が響いた。


「すいません!誰か店の人はおられますか?」


声の主のケインは貴族街にある魔術学園の生徒である。

可愛らしい顔立ちに見るからに高価そうな学生服で注目を集めながらも、ケインは改めて本屋と書かれた看板を確認した。

元は有力な平民が住んでいたかのような豪邸。それに見合わない本屋という看板。それらを見ながら待っていると、程なくして屋内から


「はーい」


と若々しくて張りのある女性の声が聞こえた。


「ごめんなさいね。待たせちゃって。」


成人したてなのだろうか、少し幼さを残す言葉とともに現れたのは15歳の自分よりも小柄な女性であった。

見たところの年は20歳程。だが雰囲気は幼い少女のようであった。幼さと大人らしさが混在しているような、そんな印象を受けた。

この本屋の店員だろうか、とケインが思っていると、不思議な雰囲気を持つ女性は、軽く首を傾げた。

ケインの格好は世界1と謳われるカルタゴ魔術学園の制服を着ており、肌も綺麗で顔立ちも可愛らしい。どこからどう見ても貴族にしか見えないケインを見て、女性は不思議そうに、


「今日、貴族様が来るような連絡はありませんが?」


「え?あ、いや、そうでは無くて。僕は貴族として来た訳では無いのです。あの、この本屋には魔術の本もあると聞きました。僕は魔術を学びたいんです」


女性に向かってケインは、訪問の目的を説明した。

ケインは確かに魔術学園の生徒だ。しかし国を背負える優秀な生徒では無く、落ちこぼれの身で、まともに魔術を教えてもらえてない。それどころか学園の施設ですら自由に使う事すら許されていない。当然落ちこぼれのケインが図書館を自由に使えるはずも無く、魔術を学ぶには外から学ばなければならない。しかし魔術の本など早々学園の外では手に入らない。絶望しかけていたケインはある噂に頼る事にした。それがこの本屋に魔術の本があるという噂だった。

貴族であるケインが貴族街の外に出ることは少ないので、平民と話す事には慣れていない。その説明はお世辞にも分かりやすいものとは言えなかったが女性は納得したように頷いた。


「なるほど。だから貴族様がうちに。」


「ええ。なので魔術の本を売って頂けませんか?」


「申し訳無いのですがうちに魔術の本は売っていません。」


「そ、そんな」


女性が申し訳無さそうに首を横に振る。やっぱり噂は噂だったのか・・・・と俯くケインだったが女性は意外な事を口にした。


「うちには魔術の本は置いていませんが、貴族様の悩みなら解決出来ると思いますよ。」


「え、本当ですか?」


「ええ。恐らくですが。少し中で待っていて下さいませんか?」


「は、はい!」


そう言うと女性は僕店の中に案内して奥の方へ消えていった。

ケインが待つこと数分後、


「お待たせしました。」


と、声変わりを迎えたばかりのような声とともに現れたのは先程の女性では無く、ケインと同じような体格の儚げな美少年だった。


「えっと、僕は魔術学園に通っているケインで....」


少年に向かってケインはおずおずと切り出した。


「あぁ、大丈夫ですよ。話は伺っていますから。」


「で、では、僕の悩みを解決する本って...」


「本?そんな本などありませんが。」


「ない?いやしかし、僕の対応をしてくれた女性は僕の悩みを解決出来ると。そのような本があるのではないのですか?...まさか!?嘘を?」


「嘘などついておりませんよ。」


少年が首を振る。

もしかしたら自分は馬鹿にされているのか・・・と泣きそうになるケインだったが、少年は意外すぎる事を口にした。


「貴方の悩みを解決するのは僕ですので。」


「え!?君が...あ、いや、貴方が僕の悩みを・・・?」


「ええ、そうですね。申し遅れましたが、僕はレイと言います。」


驚くケインをよそに、少年はレイと名乗った。

ケインは慌てて、


「僕はケイン。ジージス・ケインです」


と名乗り返し、目の前の少年を凝視した。


「まだ、子供....」


「これでも元・カルタゴ魔術学園の生徒ですが。」


ケインが思わず漏らした感想に少年...レイが眉を顰める。


「カ、カルタゴ魔術学園の生徒!?」


「元です。元。」


「元.......」


なぜ今は生徒では無いのだろうか?とケインが不思議に思うと、レイは感情を感じさせないような声で答えた。


「ある事件をきっかけに自主退学したのですよ。」


「そ、そうですか....」


ある事件とは何なのか気になったケインだったが、レイの方はその事について話すつもりがないのか黙ってしまったので、聞かない事にした。


その後、レイはケインを図書館内へと案内し、まるで外の世界から断絶されたような部屋で、ケインの悩みを解決する方法、そして報酬の説明した。


その説明を聞いたケインは難しい顔をした。

報酬の値段が思っていたよりも高かったのだ。

しかし、レイが話したケインの悩みを解決する方法は素晴らしい物だった。だからこそ悩むのだ。レイはケインが黙った理由がすぐ分かったようで落ち着いた声で、


「報酬の支払いは金貨でなくても良いですよ。」


自分の心を見抜かれてしまったケインは顔を赤くし、呟いた。


「お恥ずかしい。貴族といえども子供。魔術書2冊分はとても....それで、報酬の支払いが金貨でなくても良いとは?」


「そうですね。僕は元々魔術学園に通っていただけあって未知のものが大好きです。僕が満足するような未知のもの、あるいわ知識を教えてくれれば」


「はぁ、しかし、優秀な生徒ならともかく僕は落ちこぼれで...」


「そうですか」


「最近、復帰されたバートラント校長先生に個別で呼び出されて、警告された程ですし。すいません。時間を取らせちゃって。」


やはり自分には魔術の神様が微笑む事はないのだろう。そう判断したケインは諦めた顔をしながら一礼した後、目を丸くした。

常に落ち着いた表情をしていたレイが驚愕の表情をしていたのだ。

突然の変化に戸惑うケインの前で、レイは


「バートラント...何故生きている?」


とケインには良く聞こえない声量で呟き、慌てるようにケインに言った。


「報酬の代わりは僕をカルタゴ魔術学園に入らせる。でどうですか?あそこは付き人制度があったはずです。僕を付き人としてカルタゴ魔術学園に入れてくれませんか?」


「え、ええ。まぁ僕は落ちこぼれなので付き人はいないので大丈夫ですが...本当にそんなもので良いんですか?」


「それで良い、いやそれが良いんです。」


元々、諦めていたケインにとっては願ってもない申し出。付き人も本人が選んだ者ならば誰でも良い。ケインにはレイが悪人には思えなかった。レイが元カルタゴ魔術学園の生徒なのは気になるが、それで自分の悩みが解決するのならば話は別だ。というわけでケインは、


「それで良いなら是非!」


と頷くと、レイは


「こちらこそ」


と頷き返した。


その後は、詳しい話はまた後日となり解散となった。







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