第82話 オーガの最期

「本気で頭が逝っちまったか?ハルバートの錆にするのもいいが、もう一度メテオフラッシュを決めてやる!さっきの出力は60%。今度はこっちも本気の100%で行くぜ!」


くさい息を吐き散らしながらブラックオーガは怪気炎を上げる!


ハルバートを地面に突き立て両手を合わせてこちらに魔力を集中させ始めた。


「おめでとうクソガキ!!“冥性鉱”にパワーアップした上に“神性銀”を打ったあとでメテオフラッシュで消し飛ぶのはお前が最初だ!!」


御下劣な笑いが周囲に響く中、須藤はニヤリと笑い、オーガと同じように魔力を集中し始めた。


不敵な笑みを浮かべる須藤を見て、オーガは対抗するかのようにさらに魔力を高めていく。


「何をやっている?オレ様と同じように攻撃魔法を放つ気か?面白い!!魔力の力比べとは無謀な勇気は誉めてやろうじゃないか!!」


「悪いなデカブツ。俺はそんなバカの力比べをする気はない」


「はっ?何いっとんじゃ貴様!!!!」


「見せてやるよ、俺の全力を!!!」


前のゴロツキどもで試し打ちは済んだ。


後は出力を上げて放てば!


「宇宙(そら)のかなたに冥龍との契約に寄りて魔の深淵をすべて無に帰せしめよ!」


俺を中心に半径1キロにも及ぶ巨大な青白い魔法陣が展開された!


「なっ、なんだこれは!?おいガキ!これは一体何のマネだ!?」

「見たところ攻撃魔法でも補助魔法の類でもないようだが・・・」

「御大層な魔法陣をおっぴろげてオレにハッタリをかけてるつもりか?ぎゃはははははは!!!!」


「ルイーゼさん、隠れてろ!」


近くに偶然会った大岩の影に隠れたルイーゼは須藤の展開する魔法陣に困惑する。


「何なのこの術式?こんな複雑なの見たことない。これはどちらかというと“つながってはいけない世界”との扉を開くのに似てる・・・」


「ハッタリが!!メテオフラッ!!!!」


オーガが出力100%のメテオフラッシュを今まさに放たんとするよりも早く須藤は叫んだ!


「秘儀・・・・・・・・・、“回天冥獄陣”!!!!!!!!」


巨大な魔法陣が光り輝いた!


「フラッシュッッッ!!!!ってなあ!?」


鋼のような筋肉の付いた両腕の先端に集束していたオーガの強大な魔力が見る見るうちに縮小していく。


そして、それらの魔力が須藤の魔力の波長と同じものに変わっていくのをルイーゼは感じ取っていた。


「なっ、何!?オーガの魔力周波数がスドウさんのと同じになっていく!」


「なああああ!?てっ、てっめえなにしやがった!!!!?」


自信満々な表情から一転、オーガの表情に脂汗が流れ始めた。


「どうしたんだデカブツ?妙に焦っているようだが?」


「かっ、体が動かん!!?クソガキ何をしやがった?」


「魔力やら呪術に使う呪力を強化したのがお前の運の尽きだったな。おかげでおまえはもう俺の手の中で踊る人形に過ぎない。要はお前の生殺与奪の権利は今この瞬間から俺のモノになったというわけだ」


「例えばこういうふうにな」


須藤は軽く指を動かした。


するとオーガの右腕が曲がってはならない方向へと曲がり始める。


「いでででででででえ!!!!!や、やべでぐれ!!!!!!!!」


巨体が崩れ落ち、地響きを立てながら両ひざを地面に着いて苦し気な表情を見せるオーガ。


「クソッ!!ここは一旦引くか!!」


オーガは遠隔移動魔法を唱えた。

だが、全く発動しない。


「はあっ!?どうなってやがる!!?」


「魔力はドーピングで強化されてもおつむは進化できていないようだな。お前の魔力は既に俺の支配下に入ったんだよ!強大な魔力が逆に仇になったな。冥途の土産はそっくりそのままお前に返してやるよデカブツ!」


「これぞガトリング直伝の秘奥義“回天冥獄陣”!」


「“回天冥獄陣”だと・・・?まさかあの伝説の魔女ガトリングの技か!!!!?」


「ご名答。さすがはこの世界のことに詳しいようだな。では俺の質問に答えてもらおう」


「ケッ、調子に乗るなよガキ・・・・、っていじゃいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」


ボギッ!!!!


後ろ手にまわった右腕が不自然な方向に曲がった。


右腕が派手に折れたのは外部からもはっきりわかった。


悲鳴を上げるオーガに先ほどまでの横柄な態度はない。


「たすけで!!!!助けてください!!!!なんで言います!!言うからこれ以上はやめで!!!!」


「では聞く。お前の正体は何だ?」


「い・・・・・、言えない・・・!」


ブギッグギッ!!!!


「いやあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


恥も外聞もないオーガの叫び声が木霊し、周囲にいる兵士やモンスターたちは我先にと逃げ始めた。


「もう一度聞く。お前の正体は何だ!!!」


「わっ、私は猪頭徹(いのがしらとおる)と申します!!!!警視庁の警察官です!!」


「警視庁だと!?ということはお前は日本の警察官なのか?」


「はっ、はいそうです!」


「で、なぜ日本の警察官がこんなところにいる?それにモンスターがなんで日本の警察官をやっているんだ!」


「おっ、表ざたになっておりませんが、既に地球のあらゆる国には人間に成り済ましたモンスターがいるのです!」


「地球にモンスターが!?なぜだ!?何故モンスターが地球にいる!?」


「わっ、我が教祖様が地球を改革するために地球と異世界の扉を開かれたのです!!」


「教祖様とはいったい誰なんだ!!?」


「しっ、“始原の暁”、私が所属する宗教団体の開祖です!私はその信者です、はい!」


「“始原の暁“!?さっきもお前はその名を言っていたな?聞いたこともない宗教団体だ。一体それは何だ!?」


「知らなくても当然です!“始原の暁”は政財界その他すべてに跨(またが)る秘密結社です!ゆえに一般市民はその存在を知る者はわずかです!!」


「その教祖の名前は!?」


「本名は我々信者であっても知りません!ただ、表の顔は一般財団法人文化振興協会理事長・大道院公麿という方であることは分かっています!けれどわたしらにもそのお方の真の正体は分かりません!もし詮索しようものなら消されてしまいます!だからこれ以上のことは知りません!」


「おかしなことを言うな!一般何たら財団とか要は民間人ってことだろ!なんで警察官がそんなのに服従しているんだよ!?」


須藤の発言にオーガは少しニヤリとした。


「フッ、やっぱりお前は何にも分かっていないんだな。何度も言ってやったようにすでに政界も経済界も芸能界もすべて教祖様が支配しておられる。もちろん我々公務員の世界もだ!」


「お前自分の立場が分かっているのか?」


「ぐぎゃあああああ!!!てめええええええ!!!!逮捕してやるううううう!!!!!!!!!!!」


「一般の中学生をこんな訳の分からない世界へ転生させておいてそんなことを言える立場なのか、おまわりさんよう!」


「わっ、分かった!!!!やめてくれえええ!!!!!!!!」


須藤は冥獄陣の力をやや弱めた。


「オレは我が“始原の暁”の計画に基づき、下部組織の日本政府の極秘政策である“新世紀教育改革法”の現場監督官の一人だ」


「“新世紀教育改革法”とはいったいなんだ!?聞いたことがない」


「オレも詳しくは知らん!だが一つだけはっきりと上司から聞いた!!お前のような政府に都合の悪い人間や引きこもりニートなどの生産性のない奴をガキのうちにこの“異世界”へ転生もしくは転移させるプロジェクトだとは聞いている!!」


「・・・他に知っていることは・・・?」


「もうありばぜん!!!ありません!!!!!本当です!!!!!!お願いします命だけは助けてください!!!!!!!!!!!」


須藤は“回天冥獄陣”を解いた。


地面をのたうち回っていたオーガが生き絶え絶えにうつ伏せになって辛うじて息をしている。


だが、“回天冥獄陣”が解かれた直後、しおれた表情だったオーガの目に凶暴さが瞬時によみがえった!


「こンンンのおオオオオクソガキいいいいいいいいい!!!!!!!!お前は殺す、ころしてやるうううううう!!!!!!!」


「どのみち“始原の暁”のことを知った以上生かしちゃおけねえ!!!でなきゃオレが殺されちまう!!!!!」


不自然な方向に曲がった右腕をぶら下げながら極限の苦痛に耐えるオーガ。


立ち上がった後、近くにあったハルバートを左手1本で持ち、なに振りかまわず須藤へ突進する!!


須藤は後ろを振り返り口を開いた。


「忠告しておくが、俺がさっきまでなぜおまえの周囲をぶらぶらしていたと思う?」


「世迷いごとをほざくな死・・・!!」


カチッ!!

「ね!!へっ!?」


オーガが目に見えない何かが腰と右ひざに当たった感触がしたのが彼の最期の記憶になった。


シュルウルルウウルルルルルルルウルルルルルウル!!!!!!!!!!!


カッ!!!!!!!!!!


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!


「ぐおおおおおおおおお教祖さまあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


須藤は防御魔法を全開にした。


こちらに吹き込んでくる爆風の中で目の前で巨体が跡形もなく蒸発していくその瞬間を自らの網膜に焼き付けた。


須藤が開発した魔導機雷がさく裂した瞬間だった。


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