第80話 死闘・メテオアシュペーア

ヒュン!


フッ!!


ズッ!!!!


すさまじい速度で一気に間合いを詰めるクラウディア。


両手に保持したガーバーマーク2サヴァイヴァルナイフで繰り出す高速の突きと斬撃の連撃は一分間に何回繰り出しているのかすら分からない!


激しい戦いの最中ゆえ、冥龍穂香側は知るよしもないが、クラウディアが持つガーバーマーク2はガーバー社が作ったものではなく、密かに彼女のために組織が作らせた特注品であった。

前線でも研ぎやすいよう、研ぎやすさ、さびにくさ、切れ味のバランスが良い工具鋼を選び、岐阜県関市にある熟練の熱処理職人に焼き入れさせ、刃は激しい斬撃や突きでも刃が欠けにくいよう日本刀と同じ蛤刃(コンベックスグラインド)であえて鈍角気味に研がれていた。


それ故、細身の華奢な刀身とは裏腹にクラウディアが繰り出す人外の衝撃力を伴う攻撃にも刃こぼれ一つしない。


瞬きを3回する間に既に距離1メートル付近まで間合いを詰めてきたクラウディアに冥龍穂香の背筋が凍った!


「ぐっ!!!!!ヴァッサークラフトレーゲン!!!!!」


とっさに杖先端から激しい勢いで水を放ち、クラウディアがひるんだと同時にバックステップで間合いを開ける冥龍穂香。


岩石をも砕き鉄板をも貫通する奔流がクラウディアを直撃した!


が、自らに向かって発射された水柱に沿ってヘビがうねるように体をくねらせてそれを完璧にかわす戦闘メイド。


一切のダメージを受けず、体をひねった回転を載せてより速度を増し、冥龍穂香に斬りかかるクラウディア!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


この世界は基本、何でもありである。


魔法にも決まった原理や名称は存在しない。


各々(おのおの)勝手に名称をつけることが多く、魔法使い、魔導士によって魔法の流派や名称規則もさまざまである。


ベルリオーネこと冥龍穂香の魔法は代々伝わる家系の魔法に師となった人物や独学で学習したものなどがあり、名称も英語読み、ドイツ語読み、日本語読みと複数ある。


魔法使い、魔導士、魔女。


魔法を生業とする者の名称は複数あるが、それも決まったしきたりなんぞない。


各々好き勝手に何を名乗ってもよい。


ただ己の信じるままに。


己の気の向くままに。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ギンッ!


ズッ!!!


「グッ!」


体の回転を利用した鋭い突きと斬撃!


冥龍穂香はそれを金属杖をバトンの如く回転して薙ぎ払った!


だがすべてを受け流し切れず、彼女の頬と左方付近に切り傷を負った。

熱を帯び、継続的な痛みが増してくる。


一気に間合いを詰めたクラウディアは着地してクラウチングスタイルになった後、即座に再び突進する!


息つく暇すらないガーバーマーク2(特注モデル)の両刃が冥龍の胸元に迫った!


心臓を正確に狙ってきたのを再び杖で払う!


金属と金属がぶつかり合う鈍い音とともに散った火花が穂香の手に当たった。


彼女の表情がわずかに歪む。


「さ~て、ワタシも加勢させていただくとしますかー!!」


法眼夏美の目が妖しく光り、両手に黒い炎のような魔力を凝縮させ始めた。


その時。


「そろそろ調子に乗るのもいい加減にしましょうか!」


間髪入れず冥龍の愛用する金属の先端の赤い宝玉が光った!


今までにない宝玉の輝きにクラウディアと法眼の表情が一瞬で変わり、2名とも即時防御態勢に入った!


出来るだけ冥龍との間を開けるべく、バックステップの要領で即座に後退する法眼夏美。


高速移動するのを急に止め、バックステップで即座に後退するクラウディア。


両名とも左右に不規則に動くことで的を絞らせぬよう動く!






冥龍穂香は目をつむり、全魔力を杖の先端に集中する。


「怒りに震えし深淵の理(ことわり)よ!正邪の区別なき始原の主の激流を呼び覚まし、流星となりて我の叫びに答えよ!」








「メテオアシュペーア!!!!!!!」








「!!!!!」


冥龍の愛用する金属杖の赤い宝玉が鋭く光った!




ヒュルルルルルルルルッッッッッッ!!!!!

ヒュルルルルルルルルルルルルルルルッッッッッッ!!!!!!!!

ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ヒュルルルルルルルルッッッッッッルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





何かの轟音とも激しい雨とも分からぬ音が上空から聞こえてくる!


迫撃砲の砲弾音よりも鋭く、質量の大きく重い音!


500kgから1t爆弾が無数に落ちてくるときに似た、死と破壊をもたらす不吉な音がクラウディアと法眼の2名の頭上へ吸い寄せられるがごとく正確に襲い掛かった!


「・・・・・・!!!!!!!!!!」


「あっひゃ~ん!!!!私でもムズイふざけた魔法つかいやがってえええええええ!!!!!!」


2名の頭上に向かって襲い来る無数の青白い巨大な光の矢の数々。





ドググオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!


ボグバアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!





地面に落ちた瞬間、それらは爆ぜて無数の連鎖的爆発を引き起こし、あたり一帯を無の世界へと変えていく。


近くの白いビルや研究棟の窓ガラスが爆風で派手に砕け散り、光の矢が命中した研究棟がすさまじい爆発を起こしながらさらに溶けるように“消滅”していく。吹き飛ばされた警備兵のオーガやリザードマン、ゴブリンがビルの壁や木々に叩きつけられていく!


叩きつけられた衝撃でそれらが持っていたAKMやPKM汎用機関銃の引き金が不用意に絞られ、7.62mm×39弾と7.62mm×54R(リム)弾が周囲に死の雨をまき散らしていく。


「おいっ!!にげっぶげげげげげげげ!!!!」


ドチャッッッ!


バチャッッッ!!


「だずげ!!!」


流れ弾であるゴブリンの体にぱっくり風穴があき、うつぶせになってびくついた後動かなくなった。


「たすっ!!!けべっ!!!!!!!!」


さらに青白い光の矢はモンスターの一部に着弾し、それが突き刺さったモンスターは悲鳴を上げる間もなく“消滅”した!


燃えるのではない。


魂そのものを発火させる特殊な熱ゆえに肉体を持つ生物はそれを喰らうと存在その物がなかったかの如く“消滅”するのだ。


周囲に流れ弾を大量に浴びたモンスター兵どもの死体と、光の熱線を喰らって消滅したモンスターの持っていた装備品や銃器のわずかに燃え残った破片で地面は埋め尽くされていった。




冥龍穂香の奥義の一つにしてその第一の型・流星槍弾(メテオアシュペーア)。


宇宙の理(ことわり)と自身の魔力の根源を一体化し、宇宙のエネルギーを己の望む形で召喚して放つ攻撃魔法の極致の一つ。


通常の魔力の数百倍の濃度を誇るエネルギーを召喚する為、攻撃魔法を防ぐ防御魔法の一切が効かないため防御不可能。


当然、魔法攻撃を軽減する補助魔法も何の役にも立たない。


それ故、とにかく逃げ惑う以外このすさまじい攻撃魔法から逃れる方法はない。


これでも対個人に標的を絞るために相当魔力をセーブしている。


本気でやれば国全体を吹き飛ばすことも可能であるとされている。


すさまじい威力ゆえに習得は困難を極め、並の魔導士や魔法使いなら宇宙の理(ことわり)の深さに魂を取られて逆に術者側が死に至る禁術の一つである。

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