第76話 玉座の狼狽
ベルリオーネこと冥龍穂香と、シュヴァルツこと法眼夏美が交戦状態に入る35分前。
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ハイン王国玉座の間。
ブランデーをグラスの中で弄びながら玉座で足を組んで座る女王は執事服を着た若い部下からの報告に眉をひそめた。
「何だと!?ベルリオーネがブロッケン研究所に現れた!?それはたしかか!」
「はい、特別公共治安局局長からの入電です。間違いないかと!」
女王はブランデーのグラスを床に落とした。
赤いビロードのじゅうたんにブランデーが染みわたり、特有の濃い匂いが充満していく。
「どういうことだ!ベルリオーネはオホロシュタットにいるのではなかったのか!?」
「申し訳ございません。2日前に突如姿を見失いました」
「ぐうううううううう!!!!!!!!!なぜ報告しなかったああああ!!!!!!!!!!」
「しっ、しかし、女王陛下はベルリオーネについては監視状態のまま我々の秘密を知るまでしばらく様子を見ておけとおっしゃられたとコンスタンチン様から窺っておりましたが・・・」
「空気を読めないのかきさまああああああああああ!!!!!!!」
「ひいいいいい!!!!!おっ、おゆるしおおおおおお!!!!!!!」
「カアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
女王は口から赤というより黄色味を帯びた熱線を放った!
「うきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ジュボブブブブブ!!!!!!
若い執事は一瞬で蒸発し、焼け焦げたビロードの赤じゅうたんに黒い人影のみが焼き付いて残った。
「はあはあはあ!クソッ!我ながらぬかったわ!!あの小娘、やはり“桔梗“の一味か!?」
「あの小娘にはブロッケン研究所のことなど何一つ教えていないはず!まさか誰かが!?」
「いえ、国内治安騎士局のモールス長官によるとベルリオーネに情報をもらした者はこのハイン城内には存在する可能性は低いとのことです」
後方から突如発せられた聞きなれた声に女王は振り返った。
「コンスタンチンか!?」
執事の服装を着た年配の男がいつの間にか玉座後方の幕間でひざまずいていた。
「私の部下が報告を怠りましたこと、心よりお詫び申し上げます」
表情を変えずに淡々と話す。
「いや、私も頭に血が上っただけだ。それよりベルリオーネをどうするかが今は先決だ」
「それには心配に及びませぬ女王陛下。シュヴァルツからブロッケン研究所に異常事態発生と緊急入電があり、今しがた我が配下のクラウディアをガルーダの背中に乗せて現地へ派遣いたしました。もうすぐ着く頃です」
「クラウディアを?用意がいいなコンスタンチン。さすがはと言いたいところだが」
「あの“実験体”の調整度は順調なのか?最近“神性銀”を投与した際に精神が不安定なようだが」
「ご安心を。特別に精製した濃縮“神性銀”をさらに通常の3倍投与しております。余計なことを考える心はほぼ消し飛んでおりましょうから何も考えずにベルリオーネを死なない程度に叩きのめすでしょう」
「フッ、丁度いい。いくら第一級魔導士ベルリオーネとてシュヴァルツ、いや、“法眼審査官“とクラウディアを同時に相手にしては勝てる可能性は限りなく低い」
「おまけに“神性銀”のデータ取りにももってこいだ。何せ“あっちの世界“からの”高級人形候補生“と”木偶人形候補“両方への投与実験と並行してデータが取れるからな」
「ところで須藤のガキはどうした?」
「彼は3日前、駅馬車中央駅からオホロシュタット行きの馬車へ乗り込んだのを最後に行方がつかめておりません」
「何!?須藤のガキまで行方をくらましたというのか!?」
「それに関連して気になる情報が入っております。先ほど特別公共治安局異能課より教祖様へ献上するエルフ狩りに行っていた“エルミリア帝国”所属の“転生者”3名が神明の森付近で消息を絶ったとの連絡がありました。遠隔魔力探知により、3名とも何者かに消された可能性があるとのことでございます。ですが、魔力周波数が探知できず、魔法で殺された可能性は低いとの事です」
「ということは?」
「おそらく剣などの武器による打撃か、あるいは“銃器“によるものかと」
女王は歯ぎしりをした。
「ううぬ、早く探せ!!あのガキも何かに勘づきおったか!?」
「御意に」
コンスタンチンがその場から瞬間移動のように速やかに消えた後も女王の狼狽は続いた。
誰もいない玉座の間にまるで狼が吠えるような叫び声がこだまする。
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