第75話 魔女たちの邪演
「“地獄の黒”を味わいなさい!!デュンケルハイトヴェレ!!!!」
法眼夏美は暗黒系の攻撃魔法を放った!
音のない黒い光は見ている者に嫌が応にも本能的恐怖を呼び起す。
ベルリオーネこと冥龍穂香は瞬時に俊足魔法を唱え、それを高速移動でかわす。
左右上下にに不規則に移動し、的を絞らせない動き。
周囲が真っ暗になった空間の中を彼女は恐怖に身じろぎもせずに素早い身のこなしで無音で迫りくる黒い炎をかわしていく。
「けっ、地獄から召喚した炎をよけるなんてやっぱ第一級魔導士に選ばれるだけはあるねえ~」
獄炎魔法デュンケルハイトヴェレは地獄の黒い炎を召喚して放つ火炎系攻撃魔法の上位互換種。
本来地獄魔界の悪魔かモンスターの類しか扱えないそれは人間が扱えば魂ごと焼き尽くされてしまう危険極まりないもの。
だが、それを涼しい顔つきで扱うシュヴァルツこと法眼夏美から動揺する雰囲気は全く見えない。
「あくまでだんまりを決め込む腹積もりのようね」
「けれど、その頑なさがいつまで通用するかしら?」
「デュンケルフェアグニューゲン!!」
法眼がニヤリと不気味な笑いを浮かべながら何かを唱えた直後、周囲の真っ黒な空間から得体の知れない何かが伸びてきた。
それは真っ黒なヘビをかたどったおぞましい触手の数々。
「しまった!!」
暗黒結界魔法ウンハイルフォルにより、ベルリオーネこと冥龍穂香の周囲は暗闇に包まれ、その空間には今彼女と術者の法眼の2名しかいない。
瞬く間に背後からヘビのような職種に全身を縛り上げられた冥龍穂香は全身を締め付けられながら同時にまさぐられる感覚に身もだえる。
「つっかまえた~♬やっぱ奇襲は強敵に対抗するのにベストってのは桶狭間の戦いの時からの鉄板ね♬」
「我が闇の力はあなたの精神を蝕んでいく。いつまで耐えられるかしら♬」
「い、いや!」
触手が耳の穴に侵入し、瞬間、冥龍の体がのけぞった。
ベルリオーネの精神に言いようのない闇が忍び寄る。
この人に従えば無上の快楽が無限に押し寄せてくるような感じが脳の中から湧き出してくるような魔悦が彼女の心に襲い掛からんとしていた。
冥龍穂香は必死でこらえる。
何だ?
「・・・し・・がい・・なさい・・・」
「こんなに気持ちいいのに何を我慢しているの?」
ダメだ!!
「あなたの心の中の一番大事なものをわたしなさい。人形になればあなたは無限の快楽と安楽を得られるのよ」
この闇の悦楽の波動に飲まれては!!!!!!!
苦悶に耐える表情の中、冥龍穂香は何かを唱え始める。
「ぐう!真正解放・ヴァールハイトシュヴェアート!!!!!!!」
冥龍が叫んだ直後、巨大な青白い両刃の剣が出現し、ベルリオーネの体に絡みついた触手と周囲を墨一色に塗り切ったかのような暗黒の空間を華麗に切り裂いた。
空中に持ち上げられていた冥龍は元居た白いビルの外、黒は黒でも自然の夜の星空がある場所にうつ伏せに倒れこんだ。
先ほどまで締め上げられていた喉を抑え、咳き込む。
「クフフフフ!私の暗黒魔法まで耐えきるなんてさすがは特務課程に選ばれただけのことはあるじゃん!」
「法眼・・・・夏美!今日という今日は許しませんよ!!」
「ヒュー♬いつものベルちゃんらしからぬ、・・・・いや冥龍穂香!前々から色々聞きたいことが山ほどあんのはこっちの方なんだよ小娘!!!!」
「とっ、言ってもあなたと単独で戦っても正直勝てるかわかんないのは事実」
「だから~、助っ人を要請しちゃった☆」
コッコッコッコッ!
冥龍の方向から見て右側後方の白い建物の影から何かの足音!
直後に冥龍の背筋に走る悪寒!
「何!?この気配、何者!?」
異様な殺気!?
気配を消しているようだけれど感じる!
これは第一級の暗殺者(アサシン)のもの!
それもめったにいないほどの技量を持つ何かが来る!
「お~、わりかし速かったじゃん♬」
「誰だ!?」
「こんなこともあろうかと思って助っ人を呼んどいて正解だったわ♬」
!?
「遅くなりました、ミスシュヴァルツ」
華麗なヴィクトリア朝風の正統派メイド服に茶色のショートブーツを履いた瀟洒なメイドが建物の暗い影から姿を現した。
「クラウディア・・・・・さん!?」
ベルリオーネこと冥龍穂香は即座に目の前のメイドのステータスを脳内へ分析表示した。
攻・防・素早さ・魔力レベルいずれも平均値をはるかに上回る数字。
中でも素早さは何の補助魔法もかけない状態で既に冥龍穂香が俊足魔法を駆使した最大値(マックスパワー)に匹敵する。
第一級魔導士クラスの者が俊足魔法を駆使すればそれの速度はスピードが売りのジョブクラスである武道家(モンク)や盗賊(シーフ)を上回り、モンスターの中でも最速として恐れられるデーモン族などとも互角以上になるほどである。
ベルリオーネこと冥龍穂香は戸惑う。
人間種で魔法なしにあの速度とは・・・!?
恐らくレアジョブである暗殺者(アサシン)クラスの、それも相当な手練れ。
16歳かくらいにしか見えぬ華奢なメイドがなぜあれほどの速度を・・・!?
冥龍穂香の脳裏にふと執事長コンスタンチンのことが思い浮かんだ。
クラウディアさんはコンスタンチンの指揮下にあるメイド。
須藤さんのお世話をしているという点以外は私にも周囲にも不自然なまでに普段何をしているかについて語ったことがない。
以前からコンスタンチンの行動には疑問があった。
カマをかけて情報を聞き出そうと思ってものらりくらりと話題を変えて要点をそらす回答しかしてこない。
それにクラウディアさん。
何かいつもの彼女とは違う!?
冥龍は彼女の顔をよく見た時、その異変に気づいた。
「あの目は!?」
冥龍の視線がクラウディアの目と合って即座に異様なものを感じた。
クラウディアの目に光沢がない。
それに体から出る禍々しい波動。
「まさか!?」
冥龍が叫んだ直後、クラウディアはまっすぐ突進してきた!
走りながら同時に太もものガーターベルトに仕込んだ鞘から瞬時に2本のダガーナイフを抜き、右手は順手、左手は逆手でそれを持った!
いずれもヴェトナム戦争で米軍特殊部隊を中心に愛用された対人用(マンハント)ナイフ・ガーバーマーク2サヴァイヴァルナイフだ。
冥龍は即座に金属杖を構え、迎撃体制に入る!
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