第74話 拉致の現場

俺がマブクロに蓄えておいた魔力回復聖水と、体力回復薬でエルフの少女はすっかり元気になった。


「すまないな、回復薬の類しかなくてあいにく食料は飴玉くらいしかないんだ」


「いいえありがとうございます。おかげで私も本来の魔力を取り戻せましたし、これで飛んでいくことができます」


「あっ、そう言えばまだお名前をお聞きしておりませんでした。よろしければお名前を」


「須藤兵衛、須藤でいい」


「それではスドウさんと呼ばせていただきます」


「それじゃルイーゼさん」


「ルイーゼでいいですよ」


「君の故郷はどのあたりなの?」


「ここから丁度ブロッケン渓谷の近くなので私の飛行魔法ならすぐです」


「私、あんまり魔力に自信がなくて、飛行魔法は結構体力も魔力も食うので魔力を完全回復した状態でないと昔墜落しちゃったことがあって・・・」


「心配ない。俺も少しは飛行魔法を身につけた。少しの距離なら飛べる」


「あっ、でも大丈夫ですよ。私もだいぶ飛行がうまくなりましたし、私の体につかまっていただければ2人くらいなら一緒に飛べますよ」


俺は彼女に甘えて彼女の故郷まで飛ぶことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あっ、あそこです!!」


「よかった、もうつい・・!!」


「ちょっ!!スドウさん!?」


俺は彼女の手を取り、急いで急降下する!


着地するとすぐに目立たない藪の中に隠れた。


「いった~、どうしたんですかいきなり!?」


「しっ、あれを見ろ!」


ルイーゼは遠隔透視魔法を駆使して藪の木々を透視して須藤が差す方向へ目を凝らした。


彼女の目に飛び込んできた馬車のホロ布に記された紋章。


それは。


「あの紋章はまさしくハイン王国の国内治安騎士団の物・・・・。何で彼らが・・!?」


兵士の甲冑にも同様の紋章が記されている。


兵士の中には人間種だけではない者も混じっている。


「アール!それにルニエールも!」


エルフたちが手かせをはめられて数珠つなぎになって大型馬車の荷台に乗せられていく光景を見てルイーゼは小声で叫んだ。


「あっちの道はたしかブロッケン渓谷への道。奴らみんなをブロッケンへ連行する気だわ!」


ハイン王国の国内騎士団がエルフを連行しているだと!?


一体どういうことなんだ!?


「敵の数はどれくらいだ!?」


俺は脳内にステータスをオープンし、ハイン王国の騎士団と思われる連中のデータを探知する。


「敵の数は約52名。軍隊単位で言うと一個小隊か。構成員は人間種30名。デーモン種12名!?オーガ10名!?」


そして、俺の目の中に見慣れた人物の顔が飛び込んできた!


「嘘だろ・・・・、スコットさんじゃないか!?」


須藤の発言に同じ方向を魔法で遠視したルイーゼは須藤が指さした男を視界に入れて動揺する。


「スドウさん、まさかあの男を知っているんですか!?」


「どういうこと何だルイーゼさん!?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


多くの若いエルフの男女が手枷と足には鎖をつけられ、数珠つなぎに歩かされて鉄格子の付いた護送用の大型馬車へと連れ込まれていく。


「おやっさん、今回の村はなかなかの上玉ぞろいですね!」


荒い鼻息を鳴らしながら黒く屈強な体躯を持つオーガが鬼が持つような全鉄製の棘付き金棒を片手でいじりながら得意げに軽量の甲冑を着た中年の人間種の男に話しかけた。


「ああ。だが、今回はまったく手こずらせやがって!かなり周到な結界で村全体を隠していたから見つけるのに苦労したぜ。まさか我がブロッケン研究所の近くにあるとは・・。妙に魔力のあるエルフはこれだから捕まえるのに苦労するぜ。灯台下暗しとはこのことだな」


恰幅のいい中年男はハルバートらしき槍を兼ねた戦斧を地面に突き立て、懐からマニラ葉を取り出し、突き立てたハルバートの斧の刃でマニラ葉の口先部分を斬り、ジッポーを取り出して擦った。


マニラ葉に火をつけ、口いっぱいに溜めてから満足げに強烈な煙を吐き出した。


「仕事のあとのマニラ葉は格別だな、ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」


「スコット様。村の娘と少年どもはあらかた捕縛しました」


青い体躯のデーモンが旧ソ連製のフルオート射撃可能な拳銃・スチェッキンを片手に男に報告する。


男はマニラ葉を取り出し、そのデーモンに投げて渡した。


デーモンはニヤリと笑って刃を指先の鋭い爪で斬り、片手のひらに火を出して火をつけてふかした。


強烈な匂いを漂わせながらデーモンの顔は恍惚の表情に染まっていく。


「くっはあ~♬あっちの世界の葉巻ってなんでこんなにおいしいんだろ♬これだから人間と取引すんのはやめられねえ~♬」


「よし、さっさと乗せろ!明日までに“異界の門”まで運べ!」


「うひうひ♬これだけ上玉ぞろいならあっちでもさぞかし儲かりますでしょうな♬」


別の茶色い体躯のデーモンが言うと、中年男はマニラ葉をふかしながらもう片手で額を掻いた。


「まあな。我が“始原の暁”が取り仕切る“スタイリッシュクラブ・バアルズヘヴン”は東京からさらに全国、さらには全世界へ展開することになって常に人手不足だ。おまけに客の要求水準はさらに“ハイレベル”になってきている。より上等のエルフを確保する必要があると向こうからお達しが来ているからな」


「おまけに教祖様が直々に管理されている“世界救済基金”への寄付額が今月から3倍になった。もっと稼がないと俺らの首が飛んじまうから何としてもエルフどもをよりたくさん狩る必要がある」


「スコットさん、あっちの世界は既に教祖様がご支配なさっているのでしょう?そんなに上納のノルマが増えたんですかい?」


「ああ、向こうの人間どもはほとんど教祖様の結界呪術で木偶人形にすることに成功しているが、反面各界の中枢にいる奴らの忠誠心をつなぎ留めておくのにも金が要る。あと、愚民どもを黙らせる娯楽を生産するにもそれなりに金が要るからな。異能の力の存在を知っている連中は反逆すれば殺せばいいが、ばらされるとややこしくなる恐れもある。金はそれを防ぐのに一番だ。それを受け取ることにより“共犯者”という心理を植え付けることもできるからな」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「どうしたんですかスドウさん?」


「あそこにいるおっさん、あれ、俺のパーティにいる仲間のはずなんだ」


「あの男・・・、確かハイン王国の上級処刑人・スコット。但し、本名は分かりません」


「何だって!?」


「表向きは金でモンスターを狩ることを生業とする傭兵(マ―セナリー)」


「けれどそれは表向きの顔。裏ではデーモン系モンスターのマフィア集団と組んで様々な非合法事業をやっていると聞いています。最近は“異世界”から送り込まれてくる得体の知れない人間種とも何かの事業をしていると聞いたことがあります。一説ではあの男自身、“異世界”からこちらの世界へ転生してきたとも言われています」


「・・・とりあえず多勢に無勢だ。それにあのスコットという人は恐ろしく戦闘力が強い。いったんここは引いて奴らがどこへ行くか遠目に監視しながら奴らを追お・・・」


「おい、誰かいるぞ!!!!」


「エルフの小娘と人間種のガキだ!!」


「まずい見つかった!!」


鋼の剣、棘付きの鋼鉄こん棒、AKM、G3バトルライフル、RPK汎用機関銃で武装した甲冑姿の兵士たちと、デーモン及び屈強なオーガたちが一斉に2人に襲い掛かってきた!



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