第71話 進路変更

先ほどの男たちに向けていたのと同じ殺意と恐怖が入り混じった視線は窮鼠猫を噛むの言葉通り明確に相手を殺す覚悟を決めた目だ。


「違う!オレは気が付いたらこの世界に前の世界から来て、それでさっき言ったように魔王の軍勢と戦うよう言われているだけだ!君らの仲間を襲ったことは一度もない!」


俺の説明にエルフの少女の目からやや敵意が薄まった。


「本当・・・なんですか・・・?」


「ああ、約束する。それに君らを襲っている一味とは一体何なんだ?」


少女は一瞬考えこんだ。


「あなたからは邪悪な意志は感じない。だからお教えします」


少女は切り株の上に座り、一息ついてこちらを見た。


俺はも近くの切り株に座った。


「私が知る限りでは今から15年ほど前からこの世界に別の世界からの転生者と思しき人間種がやってくるようになりました」


「要は俺と同じように魔王の討伐とか言って君らを狩っていたのか?」


「いえ、冒険者としてだけではありません」


「ある者は何かのアニメだとかゲームだとかVR何とかの世界にやってきたんだと叫んでいたことを聞いたと祖母は言っていました。いったい何のことなのかさっぱりわかりません・・・」


「私が遭遇した人間種に限ってみても、ある者は王侯貴族になって人生をやりなおすと言っている者、ギルドの仲間とパーティを組んだのに追放されたけど魔法使いから特別の御柄らをもらって復讐して歓喜しながら人助けをすると称して各地の町を傍若無人に荒らしている者、悪役の貴族令嬢になれたという者、この世界で商売して成功してやるという者、食事を充実させるために色んな所へ食材を集めて成功するぞと意気込む者など様々です」


「そいつらに共通している点は我々エルフやその他の種族たちの土地を侵略して収奪したり、容姿端麗で年齢が若い者たちを次々とどこかへ拉致していくのです」


どれも俺らの世界で流行ってたアニメの設定ばっかりだな。


「私たちを襲う理由は様々ですが、いずれも共通して私たちを邪悪な存在と決めつけてそれを討伐するという大義名分を掲げていきなり襲い掛かってくるのです」


「ただ、粗暴な奴らの中には別格の力を持つものたちがいました。そいつらは若くてこの世界の人間種の服装とは違うものを着ていました」


「私の主観ですが、そいつらは私たちを単純に狩っているだけの連中とは別グループだと思います」


転生者たちがエルフたちを狩っている・・・・。


「そうだ!!こうはしていられない!!早くしないと!!」


「どうしたんだ?」


「私はハイン王国の冒険者とかいう連中にさらわれてブロッケン渓谷の施設に囚われていたんです」


「そこには私と同じくエルフの若い男女が多く囚われていました。あと、他にもあなたと同じような人間種の変わった服装の者たちが大勢いて、何かの儀式を行っているのを見ました」


「その服装ってどんな感じの?」


「この世界では見かけない紺色や黒の服装でした」


もしや。


俺はマブクロからノートとペンを取り出し、学生服の柄を適当に数点描いた。


「そうです!こういう服装を人間種はしておりました。そして皆さん何かの呪文を唱えたり、禍々しい魔力を放つ、たぶん魔石の類の岩に直接手を触れておりました。あんな負の魔力を放つ呪物に触れれば精神を蝕まれますのに危険なことを・・・」


俺と同じような学生が妙な施設にいるだと!?


さっきの変質者の件とも関係ありそうだな!


「そこで偶然、今から3日後に私の故郷の村に治安騎士団が掃討作戦をかけると聞いたのです!」


「君の故郷はどこなんだ?」


「ブロッケン渓谷から北に約200キロの地点です。けれど、追手に追われて身を隠すために森林地帯をさまよって、気づいたら今度はさっきの連中みたいなのに数度にわたり追いかけまわされてここまで来たんです」


「加えて、私たちエルフはいくつかの班に分けられて、ブロッケン渓谷の施設から定期的にどこか別の場所に移送されていったんです。そのままそこでいたら私もさらにどこかへ連れていかれるところでした。魔法は封じられておりましたが、わずかに魔力を回復して聴力増強魔法で看守の話を盗み聞きしていたら明日、私たちの班が“トウキョウ”とかいう聞いたことのないところへ移送されると聞いて、何とか封じられた魔力を他のみんなと協力して回復して牢の鉄格子をこじ開けて命からがら脱出してきたんです。施設から脱出してあとはみんなバラバラに逃げました」


トウキョウ!?


何で東京へエルフを移送するんだ!?


「鉄格子を曲げたのか!?」


冷静を装い質問を続ける。


華奢でか細い腕にそんな筋肉があるようには見えないが・・・。


「はい、本来攻撃力を倍加させる補助魔法を応用して瞬間的に筋肉を倍加して鉄格子を曲げて脱出しました。私たちエルフの魔力は強いので、封じられる魔法をかけられても時間が経てばある程度封印を解くことが可能です。かつ、皆さんの魔力を私に集中してもらい、何とか一回だけ魔法を使えるようにしたんです」


エルフの少女の証言を聞いた後、俺の脳裏にふとあの時の言葉を思い出した。



“君は余計なことを考えすぎなんだよ”




俺がこの世界に来る直前。


誰かの声がした記憶がよみがえる。


確かにそう聞こえた!


やはりこの世界には何かがある!


それにブロッケン渓谷といえばハイン王国内でもあまり情報がない地域。


ふとギルドの居酒屋でスコットさんや他のパーティのメンバーに気になって聞いたことがあるが、知らないの1点張りで答えてくれなかった。


さっきの話を聞く限り、俺がこの世界へ来た理由が分かるかもしれぬ。


「エルフさん、あなたの名前は」


「ルイーゼと言います」


「ルイーゼさん、それじゃ君の村へ連れて行ってくれ。俺はこの世界のことを色々調べて回っている」


「・・・分かりました!味方になってくれる存在は少しでも多い方がいいですから。お願いします!」


おれは銀髪のエルフの少女ルイーゼとともに急遽ブロッケン渓谷近くの彼女の村へ行くことに決めた。


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