第69話 狩られる狩人ども

俺はクマ目のキモ野郎をにらみつけた。


ガタガタ震えた手つきで固く握りしめたダガーナイフの刀身がさらに小刻みに動く。


こちらを殺しに来る野郎に容赦はしない。


相手が人間であろうと、俺はこの世界で戦いを積むうちに現実とは違う倫理規範を知った。


状況の最前線では暴力のみが機能する。


理由は分からないが本能的な直感からつくづくそれを日々感じる。


俺は洞窟から帰ったあと、ガトリングさんから“回天冥獄陣“の使い方とともにこれから俺が直面するかもしれない事態に備えて世の中を戦い抜く際の心得を教えられた。


聞き流してくれていい。


たまに思い出せばそれでいい。


そう言って彼女は何点かそんなことを言っていた。


今現在、俺の心にある中で最も印象的な教訓は・・・。


“自らの尊厳を犯す者は誰であれ殺せ”


俺は腰を抜かして小便をもらすひょろがりロン毛マンにガトリングさんの言葉を思い出しながら愛刀アークティスクリンゲを抜いて切っ先を喉元に突き付けた。


奴は繊維を完全に喪失しているのは明らかなほどおびえ切っている。


「お前もあのデブとおんなじか?この少女を狙う理由は?」


「けっ、お前も転生者じゃないのかよ!?」


「それはこっちのセリフだ。名前を言え!それからお前らがこの世界に来たいきさつをしゃべってもらおうか?」


ガリガリ歯ぎしりしながらヒョロガリマンは妙に頑固そうな目に苦悶と苦渋を浮かべながら口を開いた。


「おっ、オレは兵頭秀由紀。大学1年。アキバでPCのジャンクショップいったら、見たことない変な店が地下1階にあってさ!!そこで無料のVRゲーム体験できるって頭にギア装着したらいつの間にかこっちの世界へ転移してたんだ!!そんでもってすぐ、オレはとってもきれいなおっぱいのでかい女神さまからすごい力を与えられてこの世で好き勝手生きていいってことになったんだ!!」


「大学生ならなぜこの世界へ召喚されたのか理由は考えなかったのか?」


「んなこと知るかよ中坊!リア充の連中は合コンとかで女の子にもてるのにオレは陰キャとかキモイとか言って散々バカにしやがって!!!!パソコンに降臨する触手相手に世界を救う神聖天使エンジェルサンダーちゃんだけがオレを唯一理解してくれる存在だった!!」


「・・・・」


「何ため息ついてんだよクソガキ!!刀持ってるからって年上に生意気な口きくなよお前!!あんまり大学生舐めるんじゃねえよ!!殺すぞ!!」


「口で粋がっているところを見ると置かれている状況が分からないようだな。体の方は正直に小便もらしておきながら・・・・。さっきのデブみたいに汚物花火になりたいのか?」


悪臭を放つ黄色い水をズボンから垂れ流す野郎の喉にアークティスクリンゲの鋭い切っ先をあと少し手を前に動かすだけで突く位置まで突き出した。


意地を張るひょろがりの表情が一気に青くなった。


「まっ、待ってくれ、タンマタンマ!!オレが悪かった!!お願い殺さないで!!!!」


「では素直に質問に答えろ。お前の飼い主は一体誰だ?」


「オレはさっき言った通り、ジャンクショップのVRに熱中してたら、そのままエルミリア帝国って言う国を統治するすんごいきれいなデカチチの女神様に召喚されたんだ。その女神様はとてもやさしいんだけど大臣やその他の臣下に歯向かう奴らがいて、女神さまはオレにそいつらを倒してくれって力をくれたんだ。それでそいつらを見事撃退して晴れて女神さまと結婚することになったんだ!どうだうらやましいだろ!!」


「で、そんなデカチチ女神さまとご結婚されることになった御仁がなんでエルフを追いかけまわしているんだよ?」


「謀反人の大臣とかを追放できたのはよかったが、そいつは実は世界を支配する魔族の王ダークネスバアルの手先だってことが発覚した。そして、人間種以外の種族はみんなそいつの手下だって女神さまに言われてそいつらを討伐しながら最終的にダークネスバアルを倒すことになった」


「エルフを捕まえているのはそいつらがダークネスバアルに関する重要な情報を握っているから、もしくは強大な魔力を持っていてダークネスバアルにとって貴重な戦力だから真っ先に撃破しないといけないって女神様に言われた」


妙に画一的な言い方をするなこいつ。


須藤の疑問に兵頭は話を続ける。


「女神さまはエルフを討伐する際、若いエルフは男女ともに可能な限り生け捕りにして連行しろって俺を含めた討伐部隊全員に命じている。何でも若いほど魔力が強くて人間にとって危険らしいって言っていた」


「エルミリア帝国とはどこにある?」


「しっ、知らないのかよ!?ここから5万キロ離れたトイフェルラント大陸中央部にある大帝国だよ!」


エルミリア帝国。


そんな国はいまだかつて聞いたことがない。


ベルリオーネさんからもクラウディアさんからも聞いたことすらない。


それに5万キロも先からいったいどうやってここまで?


「いったいどうやって5万キロも離れたところからここに来た?」


「瞬間移動魔法と高速飛行艇に決まってんだろバカ!!そんなロープレの定番すらしらねえのかよガキ!!」


「お前と他2名はどうやって知り合った?」


「エルフ討伐の時、エルミリア帝国の同盟国から派遣された冒険者グループとの交流の場で知り合ってこの世界の美少女のことで盛り上がって意気投合しただけだ!深い理由はない!!」


「あっ、けれどなんか知らないが若い男女のエルフは定期的に月最低50匹以上捕虜にしろって女神さまに約束させられている」


俺は一旦ひょろがりへの尋問を止めて小太りの貴族のような服を着た奴に聞くことにする。


「そこの顔色の悪い小太り。お前は何者だ?言っとくが下手な動きをすればさっきのデブと同じ末路をたどることになる」

俺はガタガタ震える目にクマのあるキモメン小太りに話しかけた。


3人の中で一番豪華な服装を見ると貴族か何かの出って設定か?


おびえた表情でキモメンはダガーを握りしめたまま口を開いた。


「ぼ・・・・・僕は鈴木ヨリノリっていうの・・・。ネトゲと動画で毎日過ごしてた時にコンビニ夜中言ったらサー、車轢かれちゃってそれから気づいたらこの世界のミルドラ王国の伯爵家っていう貴族の家に生まれてー、テキトーに冒険して夜にはお屋敷かえってきれいな中学生くらいの子たちとイチャイチャしてー、それから人に害をなすダークエルフとかエルフとかを捕まえるようにギルドのお姉さんにたのまれてー。それから悪いエルフを捕まえる役割を与えられて頑張ってるんだ。捕虜にしたエルフの中で気に入っいたのは何匹か隙にしていい権利をもらってるし」


だらだらとうっとうしい話し方。


クマのあるキモイ面(ツラ)をしているが、不自然なまでに豪華な服を着ているわけだ。


「で、おまえらの飼い主とか所属は見たところバラバラみたいだが、つるんでいる理由はこのひょろがり野郎と同じか?」


「そ、そうだよ!兵頭と同じさ。ボクタチは人間種以外にはどんな扱いをしてもいいって言われてんだ!そんで適当に僕の転生したミルドラ王国が偶然エルミリア帝国の同盟国になって、それでそこに遊びに行ったら偶然兵頭とギルドの居酒屋で知り合っただけ。別になり合いで適当に一緒いるだけ!なあ、俺だけは助けてくれよ!!エルフ狩りをしたのはたった3回だけなんだ!!こいつとさっき君が倒した長田くんは既に10数回してる!!」


「ボクタチがこんな遠いとこまで来たのは僕らの国の周辺では若いエルフがみんな逃げ出しちゃっていなくなっちゃったんだ。だから僕らの国では魔力消費量の多い瞬間移動魔法と、僕らの国でも3台しかない高速飛行艇で大量の冒険者をこういった遠くまで運んでエルフを討伐して捕まえているんだよ!!喋ったでしょ、僕の命だけは助けて!!」


「てっ、てめえオレを売りやがるのか鈴木!!」


「それで5万キロも離れたここまでやってきてエルフを狩っていたわけか・・・。道理でこの世界に来てから若い女エルフをほとんど見ないわけだ」


「そういうお前は一体何なんだよ!?いきなり現れて何故俺らの邪魔をする!?」

ひょろがりがまた逆切れする。


「お前たちがこの世界でどう生きようと知ったことではないが、胸糞の悪いゲス野郎に明かしてやる経歴はない」


「やっ、止めてくれ!!!!金ならいくらでも出す!!若いエルフでも年増エルフでもなんでもお好みのを差し出す!!だから許してくれ!!」


俺は地面にうつぶせに突っ伏せて俺に足蹴にされている状態のひょろがりロン毛マンの頸動脈をアークティスクリンゲで切った。


ひょろがりは悲鳴の途中で口と頸動脈から派手に赤い液体を噴射して絶命した。


さっきかけておいた防護魔法のおかげで返り血は浴びない。


同時に俺に背中を向けて逃げ出した小太り貴族の後頭部にマブクロから取り出したAKMを構え、引き金を絞った。


既に照門(リアサイト)は300メートルの戦闘照準に調整されていたので調整する必要はなかった。


7.62mm×39弾を撃ち込まれた頭はスイカのように吹き飛び、頭が3分の2以上吹き飛んだ肉塊は赤い噴水を吹き出しながら糸が切れた木偶のように崩れ落ちてひたすらけいれんをしてやがて動かなくなった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る