第66話 須藤、ハイン王国城下町へ帰る
「なんじゃ~小僧。もう帰るのか?もっとゆっくりしていけばよい物を・・・・」
ガトリングの家。
右手で持ったカップから立ち込める香ばしいドリップコーヒーの香りを楽しみながら魔女ガトリングはやや抜けたような声を出した。
ガトリングは家に須藤と帰ってから、回天冥獄陣についてのレクチャーを一通り終え、コーヒーを嗜んでいた。
「ああ、もうすぐ北部地方の討伐が再開される。遅れると仲間の魔導士さんたちに怒られるからな」
「ん~、まあよい」
ガトリングはしかし、やや考えた後、神妙な表情になった。
「小僧、教えた通りおぬしはたしかに我が“回天冥獄陣”を習得した」
「しかし、だ」
「まだおぬしはそれを完全に使いこなせるまでは至っておらん。相手の魔力を封じて逆手にとれるからといって無茶なことをすれば一発で詰むぞ。気をつけることじゃ」
「はい、短い期間でしたが俺にこんなすごい技を教えてくれたことに感謝します」
そう言って須藤は荷物をまとめてガトリングに手を振り、急いで駅馬車の停留所へと向かった。
須藤が石造りの建物が連なる住宅街の通りの角を曲がって見えなくなった後、ガトリングの右肩に真っ黒なカラスがどこからともなく飛んできて止まった。
はたから見ると鷹狩の鷹を操る熟練の鷹師のようだ。
「どうだグノーシス。何かわかったか?」
ガトリングがカラスに話しかけると、カラスは流ちょうな人間の言葉で返答した。
「ややこしいことが起こりそうな気配ですマスター。ハイン王国の上層部に不穏な動きが・・・」
「どういうことじゃ?」
「ハイン王国の第一級魔導士同士で何らかのいさかいがあった模様です。しかも事件が起きたのはブロッケン渓谷付近」
「ブロッケンじゃと?あそこは王国の連中が色々ややこしいことをやっておると噂の・・」
「そこにどういうわけか王国の第一級魔導士が侵入した模様です。それを察知したハイン王国上層部に動揺が広がっているようで・・・」
「ブロッケンに侵入した魔導士とはどんな奴じゃ?」
「推測ですが、“異世界“からひそかにこの世界へ派遣された”桔梗“の手の者かと・・・」
ガトリングとカラスはしばらく会話したのち、カラスは彼女の肩から飛び去った。
「ひゃっひゃっひゃっ!こりゃ面白くなりそうだわ!」
「あれから数百年経つというのに・・・・“魔道”に手を染める連中は絶えないのう・・・」
「“冥龍”様も“あっち”へ戯れで行かれてから大分経つが・・・、何を考えておられるのか・・・」
ガトリングはそそくさと自宅へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すまねえな、ハイン王国との連絡街道の途中でがけ崩れが発生した。そのせいで道がふさがっちまって復旧までどうなるか分からねえ」
オホロシュタット駅馬車中央駅。
多くの人がごった返しているのはいつもの通り。
だが、客の様子から何らかのトラブルがあったであろうという推測は見事に当たってしまった。
漸(ようや)く順番が回ってきた券売所の係り員の表情は疲れているのがすぐわかった。
「すみませんお客さん、ハイン王国までの街道で大規模な土砂崩れが起きて、今馬車が不通なんすよ」
「すぐに帰りたい。何か他に手段は?」
「いちおう4つ先の町までなら街道は無事だから馬車は来ているだろけど・・・。ただ、がけ崩れだから馬でそこまで行くのは無理だ」
「どうすれば?」
「神明の森を抜ければ4つ先のハウゼンドルフまで行けるが、あそこは入りくんでいて馬はまず通れねえ。行くなら徒歩でそこを抜けることだな」
仕方ない。
これ以上帰りが遅くなるとハイン城のみんなが心配するし。
「悪いがその“神明の森”からその隣町のハウゼンドルフまでの地図を見せてくれないか?」
俺は駅馬車停留所の役人に地図を見せてもらい、やむなく徒歩でそこまで行くことにした。
ついでに地図は安価で買えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます