第63話 ビル内部

「助けてえええええええ!!!!」


悲痛な叫び声がむなしくアリーナに響き渡り、次々と若者たちが連行されていく中、ベルリオーネはただそれを見ていることしかできなかった。


ベルリオーネは苦虫をかみつぶしたような苦悶の表情をした。


“皆さんごめんなさい、でも情報屋の言った通りだ!”


ベルリオーネは脳内の情報を探り、脳内で先ほど目撃した若者たちの顔を自らのデータベースと照合する。


遠隔で目視出来た若者たちの顔はことごとく脳内のデータベースで失踪者、死亡と記された者たちばかりだった。


“全員失踪したり、不可解な亡くなり方をした人たちばっかりか・・・・”


気付かれないよう細心の注意を払いながらベルリオーネはその場を立ち去る。

走りながら魔力で脳内に先ほど視覚から得た映像を記録した。

魔力を利用することでPCのメモリのように鮮やかに先ほどの光景と音声などを刻み付けることができる。

こうしておけば忘れることがなく、しかも魔法で外部に映写機のように映し出すことができる。


証拠を一つ確保した。


“でもまだだ!まだ足りない!!”


“このビルには他にも何かあるはずだ。可能な限りそれを見つけないと!!“


今日こそは何としても見つけないと!!


ベルリオーネは一旦時間を確保すべく、透視魔法を駆使して人気のない場所を探す。


廊下の左手に倉庫らしき場所を見つけた。


かかっていた鍵を開錠魔法で開け、素早く入ってすぐにドアを閉めて中から鍵をかけた。


「ふうっ!ここは・・・・!?」


見たところ事務用品を集積してある場所らしい。


コピー用紙や文房具など、この世界では本来存在しない物が大量にある。


近くの金属製の棚に数多く積み重ねられていた小さな白い紙箱。


そのうちの一つを取って中を調べる。


日本製の黒のボールペンが大量に出てきた。


そのうちの一本を見つめてベルリオーネは複雑な表情を見せる。


ベルリオーネは部屋の隅の大量に積み重ねられた段ボールの影に隠れて極微量の魔力で透過魔法を駆使し、このビル全体の構造を把握する。


ベルリオーネの脳内に映し出されるCG上の立体映像の中で、地下に先ほどのアリーナに並ぶほどひと際目立つ構造物があることが彼女の関心を引いた。


「まさかこの場所!?」


彼女はマブクロから特殊なアイテムを取り出し、それを作動させる。


紫色の光がともった。


「やはりここは」


「丁度北の区画の地下に何かの施設がある。」


一番怪しげな場所は分かった。


目的地を頭の中に表示しながら素早く部屋を出た。


所々人工的な物体が天井に付いているのが見えた。


監視カメラだ!


だが、ベルリオーネは認識阻害魔法を駆使しているので全く気にせず素通りする。


認識阻害魔法は人間の視界から術者の存在を見えなくする魔法である。


古くは日本の甲賀忍者や伊賀忍者が使用した摩利支天法もこの認識阻害魔法の一種に当たる。

空想の世界の忍者は大日如来の智拳印のような構えをしてドロンと姿を消すが、本来姿を消すには摩利支天の印を結ばなければならないとされている。


術者の力量により他人から自らを隠す度合いや効力継続時間には差がある。


しかし、第一級魔導士の地位にあるベルリオーネは他人の視界から自らを完全に隠すことはもちろん、人間以外の機械的装置による監視をも完全に防ぐことができる。


さらに、ただ姿だけでなく自覚的には隠しにくい生命エネルギーから発する気配や、足音、においをもすべて隠すことができることにベルリオーネの非凡さがある。


大抵、姿は隠せても大半の魔法使いは匂いや音、気配は隠せないことが多い。


しかも、ベルリオーネはこの状態を最大2週間継続することができる魔力を持ち、それでいてベルリオーネはこの魔法を通常の魔法使いには不可能な極小制御状態での展開が可能である。


これにより、魔力探知にも極力引っかかりにくくしながら行動が可能である。


素早く忍者のように移動し、目的の場所を目指す。


一切の無駄のない動きで常に警備兵を察知して気づかれぬようにする。


どこだ・・・・!


どこにある・・・・・!!!!!


しばらくビルの中をひたすら進む。


そこはオフィスビルというより何かの研究施設のようであった。


ガラス越しに何かの危険物を扱うであろう巨大なグローブボックスのある部屋があった。


「これは!?」


ベルリオーネは脳内でボックス内の物質を計測する。


「プルトニウム239。こっちは・・・」


グローブボックス内のもう一つの区画を見る。


「微妙な魔力を感知。“神性銀”か!?」


出来ればサンプルを回収したいところ。


だが、じっくり見ている暇はないので素早く目に映像を記憶する。


素早くラボを去る。


さらに進むと目的地近くに着いた。


!?


「何だここは!?」


白い無機質な研究室のようなビルの廊下が一転、途中から廊下が岩がむき出しの洞窟のような通路へと変わった。


さらにその奥から何かの声が聞こえる。


反響する大きな声。


奥から大勢の人間がいる雰囲気がする。


さらに進むとそのまま崖に到達した。


先ほどからの熱気のこもった声はここからだ!


うつ伏せになって匍匐前進の姿勢になり、彼女は恐る恐る慎重に下をのぞき込んだ。




「みなすわ~ん!!!!今日は君たちの卒業式です」


中央の部隊にはやたらファンキーなアフロヘアのサングラスの男が先がラッパみたいなズボンを履いて叫んでいる。


「私たちは全知全能の御存在・教主様に絶対の服従を誓い、その命をささげ奉りますことを心よりお誓い申し上げます!!」


「よ~ろしい!!」


あれは・・・冒険者・・・?


その中にいたのは・・・。


学ランやブレザーなどを着た若者たちが起立して整列している。


だが、よく見るとその中にはこの世界の旅人の服装や鎧を着た者までおり、ベルリオーネたちと最近まで北部地方で一緒に戦っていた冒険者たちの顔も多くみられた。


「皆さんは冒険者として栄えある実績を残しました。これより我が教団の忠実なしもべとしてお仕えすることになるのです」


「皆さんは全能なる教主様がおつくりになられた人間を神へと進化させる霊薬“神性銀”に選ばれし者となりました。これからは教主様の忠実なる下僕としてお仕えしていただけます!!」

アフロヘアの男が叫ぶと、学生服を着た若者たち、冒険者たちは大声で叫んだ。

男女ともに瞳に光がない。


「はい!我々は全能なる光明教団教主様に絶対の服従を使い、その御楯として永遠にご奉仕させていただきますことを誓います!!!!」


ベルリオーネは脳内で若者たちを計測する。


彼女の脳内に若者たちから高レベルの魔力と、それを増幅させていると思われる高濃度の金属成分が体内にあることを示すデータが映し出された。

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