第59話 不退転の覚悟
「おっ、俺にあの戦闘力激強のデーモンをいきなり一人で殺せっての!?」
「何をいまさら怖気づいておる?おぬしがやるに決まっとるじゃろ?」
「“回天冥獄陣”の極意は自分と対等以上のパワーを持つ相手を倒し、その魔力と霊魂そのも
のを生贄に捧げることで完成する」
「“回天冥獄陣”は世のことわりを捻じ曲げる技ゆえに己より強大な、それも地獄魔界の上位種クラスを仕留めねば深淵をつかさどる冥龍は納得しおらんからのう」
「冥龍!?何だよそれ!?初めて聞いた」
「ん~、まあわれらこの世界の魔法を使う者にとっての神みたいな存在じゃな」
「ガトリングさん、あなたあの上位種デーモンを倒したのか?なんか兄を倒されたとか言ってるけど・・・」
「今から何百年前だったかは忘れたわい」
「あいつの兄はあいつ同様強大な魔力を持っておってな。我が奥義“回天冥獄陣”完成の礎(いしずえ)になってもらったのじゃよ」
「奴の兄はこの世界から見ての異世界、すなわちおぬしのいた世界から伝わった記録を基にそっちの世界の武術を会得しとってな。われも“回天冥獄陣”を完成するとともにぜひ一度お手合わせ願いたいと思っておったので・・・・」
「倒したってわけか」
「ウム。奴はおぬしの世界から伝わったテッポウと呼ばれる火薬を使った武器と、拳法を融合した武術を使っておった。弟はたしか前に奴の兄を倒した時はそれは使えんかったはずじゃが、あれから数百年の間に修行しよったようじゃのう♬」
「・・・ついでに聞くとその記録ってなんだ?」
「デーモンの兄は妙な物を持っとってな。紙ではできてなくて固くて黒い四角い本のような物じゃったが、中にペラペラした細長くて薄い黒い紙みたいなのが入っておった。奴の兄を倒した後、その居城を襲撃してその宝物庫から金貨とレアアイテムを回収しておったら出てきた。あらゆる真実を覗く魔法をかけると映像が魔法陣で流れてな。どうもおぬしの世界の未来で繰り広げられる武術家の戦いが映し出された。その中で人間の男があのデーモン兄弟と同じテッポウと拳法を合体させた技を次から次に繰り出しとったわい。おそらくあの記録を基に奴らはあの拳法を習得したのじゃろう」
「ちなみにわれもその技できるぞ♬戯れにわれも練習したからな!奴ら兄弟より上手にな♬小僧にも教えてやろう♬」
「・・・一応考えておく・・・・」
「さあ小僧、見事に奴を仕留めて見せよ!手段は選ばずじゃ」
「つまり何しても勝てばいいの?」
「いかにも!要は奴の魔力と霊魂を抽出すればよいのじゃからな!」
物騒なことを言うがまあ相手はこっちの世界でもマジでヤバイ上級モンスターだからな・・・。
でも俺勝てるかな?
ブラッディデーモンは怒りと嘲りが入り混じったような態度で須藤を見た。
「お前は魔女ガトリングの何だ?」
「俺は・・・・」
「ワレの弟子じゃ、ブラッディデーモンよ。よろしゅうな」
「フン、昔から好きモノで有名なお前のことだからこいつを俺にぶつけてきたところで今更驚きもせんが」
「この小童、死ぬぞ?」
「なんじゃ?脅しておるのか?」
「脅しではない、警告だ」
「お前ほどの力量を持つ魔女ならこの小童の魔力は見抜けるはずだ。多少の力はあるようだが本気でオレを仕留められるとでも思っているのか?」
「問題ない。おぬしを倒せなければこの小僧の人生はこの洞窟で終焉する、ただそれだけじゃ」
「おい、ガトリングさん、なんだよそれ!?」
「小僧、世の中にはぶっつけ本番でも結果を出さねば生き残れないこともあるのじゃ」
「もしここでくたばるならおぬしはそれまでの人間だったということ。あきらめろ」
「ふざけんな!!俺を騙しやがったのか!?」
「だましてなどいない、禁術と呼ばれるだけの必殺奥義を習得するにはそれなりの覚悟とリスクを許容するのは当然じゃろうて」
「小僧、我についてこの洞窟に入った瞬間からおぬしに退路はもはやない。前にしか進む道はないのだぞ。魔法・魔術の世界とはそういうモノじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「遺言を伝えるのは済んだか小童?」
「こんな小童に我が武銃術を使うまでもない」
「だが、オレも魔界の貴族階級。倒す相手にもそれ相応の敬意を持って葬ろう!」
ブラッディデーモンはそう叫び、両手に持ったハイパワーピストルを腰の左右に付けたホルスターに収めた。
そして、両腕を胸の前でクロスし、一瞬周囲の空気が無風になった。
「グオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
!!!?
何だよこのすさまじい魔力!
先ほどまで全く感じられなかった魔力が次元の違いを感じるレベルで上昇していく。
俺の脳内に展開した相手の魔力を計測するステータス値も振り切ってすぐに計測不能になった。
「小僧、もはやあれほどの敵ならば古典的なステータス表示の値など物の役に立たんぞ」
「極限下で数値に頼る戦いなど無意味じゃからな!」
俺が脳内で相手を計測しているのを察したようにガトリングさんは余裕めいた言葉をかけてくる。
そんな呑気なことを言うとかやっぱり頭おかしいじゃないかこの魔女!
「これしきの相手ならクソ魔女のような芸当は使えまい!」
「見せてやろう小童!!魔界の上級貴族たる我らの魔力が人間ごとき下衆などとは次元が違うということを!!!!」
何という魔力!!!
さっきまでガトリングさんの奥義を警戒して押さえてただけってか!?
魔力を解放したデーモンから発せられたあまりの風圧に吹き飛ばされそうになる!
来る!!
俺は無意識に飛行魔法を使って洞窟上空へ飛び上がった。
高速で突っ込んでくると思ったからだ。
「フハハハハ!!!!遅すぎだ、小童!!!!」
ドガッ!!!!!!!!
「ぐへっ!!!!!!!!!!!!!」
ドガギャアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!!!!
俺は一気に急降下して地面に叩きつけられた。
一瞬で俺の背後に回り込んだデーモンの全体重が乗った重い蹴り。
それを背中に受けた際のえぐられる衝撃と、地面に叩きつけられた衝撃で骨がきしむ!!
口から本気の血反吐を吐いた。
痛みを感じる間もなくその直後、背中に微妙な熱を感じた。
まずい!!!!
すぐに立ち上がってその場を離れる
「ダァァァァァーククリムゾォォォォンッッッッッッッ!!!!!!!!」
漆黒の炎が2秒前まで俺がいた地面を直撃した。
すぐに立ち上がり上を向かずに横に俊足魔法を最大にして逃げたのが間に合った。
「いっっっ!!!」
横に飛ぶようにして数十メートル先に逃れたが、着地に構っている暇がなかったせいで肩から背中にかけて地面に叩きつけられた。
さらに固い地面にこすりつけられながら数メートル引きずられるように吹き飛ばされた。
服を着ているからとはいえ、所々突起のある洞窟の地面で体中傷だらけだ。
この洞窟の地面は硬い岩盤ゆえにそう簡単に破壊できない。
だが、俺がいた地面はまるで熱湯をぶっかけられた氷のように溶けて深く広いクレーターを一瞬で作った。
漆黒の炎は不気味なことにほぼ無音。
それでいて黒い炎を揺らめかしながら迫ってきたのがかわすときに一瞬見えた。
触れるあらゆるものを溶かすように燃やすというより消滅させる攻撃魔法。
クレーターから燃え上がる黒い炎、それは熱さより恐怖でダイレクトにこちらの精神を侵食してきた。
視界に映る恐怖が俺の行動力を鈍らせていく。
脳内に表示される俺のステータス値が下がり始めた。
これは一種の視覚から入る呪いの類なのか!?
ベルリオーネさんからも聞いたことがなかったその魔法は間違いなくこの世界とはまた別にあるという魔界の上級魔族の使う攻撃魔法だろうと推測した。
喰らえば痛みを感じる間もなく骨ごと消滅するだろう。
何よりあの黒い炎は無音に近く、炎で焼き尽くされるより無音で迫ってくる黒い光とでも表現できるそれは無限の恐怖を俺に突き付けてきた。
どうする!?
「見事にかわした。だが、その炎を見て恐ろしかろう。それは我が故郷、魔界の炎。普通の人間種ならそれを見るだけで精神を病んで発狂死する代物だ。その場で一応生きていられるだけでも十分賞賛に値する」
デーモンの表情は勝ち誇った余裕に充ちている。
正面から戦ったのではパワーもスピードも魔法力も上。
何か奇手を使わねば?
・・・・
何か忘れている気が・・・・。
そうだ!!!
俺はマブクロに手を突っ込んだ。
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