第58話 武銃術
ブラッディデーモンの高速飛行の勢いを利用した渾身の突きが魔女にまっすぐ襲い掛かった。
ギンゥゥゥッッッッッッッ!!!!!!
鈍い金属音と少量の火花が飛んだ!
魔女がいた場所にそれはすでになく、デーモンがまっすぐ伸ばした腕の先には固い洞窟の壁にめり込んでやや切っ先が欠けてしまったダガーナイフ。
ナイフの柄から骨を伝ってしびれるような衝撃がデーモンの伝わり、不快な表情を瞬時に数メートル先の横へ移動していた魔女へと向けた。
魔女は腕を組み、ニタニタした表情を浮かべる。
「良いのか、ご自慢の魔力を使わずに白兵戦を仕掛けて?」
「スピードは兄譲りか・・・。しかし、有り余る魔力を持ちながらさっきから魔法を一切使わぬとはな」
「フッ、あいにくお前と違って魔法なしでもオレは翼で飛べるんでね。ご心配なく」
魔女は白い歯を少し出しながらケラケラ笑う。
「われの“回天冥獄陣”を防ぐ目的か?」
魔女のニヤニヤ顔にやや怒りをこらえながらデーモンは叫ぶ。
「いかにも、兄貴のみならず強大な力を持つ者たちが皆お前になすすべもなく消された理由をオレは調べた。お前の奥義は“相手の魔法を逆用する“魔法だろ!ならば魔力をゼロに制御すればキサマなどただの道化に過ぎんわ!」
デーモンの発言に魔女はニヤニヤしながら目つきだけが真剣な表情に変わった。
デーモンが切っ先の欠けたダガーナイフを投げ捨てた。
次いで腰に付けた鞘もベルトから外して投げ捨てる。
両の拳をボキボキ鳴らして中国拳法家がする型のような構えで瞬時に手刀を作った手を素早く払うように動かした。
「殴り合いでけりをつけるつもりか!?」
「我は魔界随一の拳を持つブラッディデーモン!!!!」
「異世界より伝わりし我らが奥義、とくと見せてくれるわ!!」
ブラッディデーモンはそう叫ぶと、腰に付けたホルスターから何かを抜いた。
両手に握られているのはブローニングM1935ハイパワーピストル。
第二次大戦直前の1935年にベルギーの名門銃器メーカー・FN(ファブリック・ナチオナール)社によって完成された本銃はドイツ軍の制式軍用ピストル・ルーガーP08用に開発された9mm×19パラベラム弾を使用する軍用ピストルである。
銃器設計の天才にしてM1911A1ガバメントピストルや、現在でも全世界の軍隊で有力な歩兵支援用重機関銃として第一線の地位にある50口径12.7mmM2重機関銃を開発したジョン・J・ブラウニングの遺作として知られる本銃は元々フランス軍の制式拳銃トライアルに提出されるためにブラウニングの跡を継いだFN社の技師たちによって完成された。本銃は本来、短機関銃(サブマシンガン)に用いられていた複列弾倉(ダブル・カーラムマガジン)を拳銃として初めて採用することで13発装填することができる。
当時主流の単列弾倉(シングルロー・マガジン)が約7~8連発であった時代にその倍近い火力(ファイアパワー)を持つ本銃は本国ベルギーの他、リトアニア、ペルーで採用され、当時の中華民国でも採用された。
第二次大戦中はベルギーを占領したドイツ軍にも採用され、連合国、枢軸国双方で幅広く使用された拳銃であり、また、9mmパラベラム弾が戦後NATO諸国の標準軍用拳銃弾薬として採用されるきっかけになったのは本銃の影響が大きかったからだとされている。
「まさかその構えは!?」
魔女の顔から笑みが消え、真剣な表情がデーモンを射抜く。
「ファファファ!では・・・、試合(ころし)あおう!」
デーモンが叫んだ直後。
その姿がその場から消えた!
瞬きする間もなく魔女の目の前に現れ、銃口を突き付けるや躊躇なく引き金を絞った。
タタタッタン!!!!
発砲音が洞窟内に響いて反響していく。
乾いたあっけのない音と真鍮製の薬きょうが落ちる
だが、魔女は寸でのところでそれらをかわしていた。
魔女が被る大きな魔女帽には複数の穴が開いており、やや焦げたフェルトのにおいが須藤の鼻腔にまで達した。
素早くデーモンの背後に回り込もうとする魔女。
だが、デーモンの素早さは魔女とほぼ同じ。
須藤は目の前にステータスをオープンして両者の力を表示させてみた。
「両名ともスピードは測定不能!見えぬ!俺でも奴らの動きが見えぬ!」
デーモンは両手に持ったハイパワーを後方に回り込んで鈍器のような感じで魔女に殴りかかり、至近距離で魔女の顔面か心臓などの急所を狙おうとしている。
魔女はそれを即座に巧みな腕のさばきで受けてかわす。
腕の力だけではなく、常に体を横にして余計な力が自分の正中線にかからないよう腰の回転と足運びを連動させる動き。
一切の無駄のない動きは舞い散る木の葉をつかめないごとし。
至近距離で発砲されても魔女の体には銃弾が当たらない。
デーモンは突きの要領で拳銃を魔女の頭部や心臓に向けるが、瞬間に魔女は空手の上げ受けやうち受けの要領で払う。
魔女が払った直後に必ずデーモンの持つハイパワーが火を噴く。
確実に殺す殺意を持って引き金を絞っている。
次々と拳法の突きや変則的な腕の動きで魔女に鉛の殺意を撃ち込まんとする。
デーモンが腕を絡めて魔女の腕を取り、立った状態で固め技をかけんとする。
そのまま銃口を魔女の顔に向けるが。
腕が絡んだまま魔女は宙返りした。
着地と同時にテンプルにありったけの魔力を込めた左拳を打ち込む。
ドッッッッッッッッ!!!!
拳を食らったデーモンが派手に吹き飛び、洞窟の壁に激突する。
突きを見舞った魔女が鋭い目でドヤ顔を須藤に見せつける。
「ふはーっ!兄より身のこなしは上のようじゃな」
「じゃが、武銃術の腕は兄より未熟。まだまだじゃな」
土煙の中から両手にハイパワーピストルを持ったまま離さずに立ち上がるデーモンの憤怒の表情が浮かび上がった。
「ペッ!オレの兄をてめえのドぐされ魔術の試し打ちの的にしやがったクソ魔女め!!武芸に秀でているとは聞いていたがとことんむかつく女狐だぜ!!」
「そうそう忘れるところだったわい、今日はわしがおぬしを倒しちゃダメなんじゃ」
「何を世迷いごとを言っている!?」
デーモンのしかめっ面をよそに魔女は得意げに須藤を見た。
「ここにいる小僧、こいつが我が奥義を習得する」
デーモンは後ろを一瞬振り返りすぐに前を向いた。
「血迷ったか“銀龍の魔女”よ!貴様ならまだしもそのような小童(こわっぱ)がオレを倒すだと!?」
「そういうわけじゃ小僧、わしに代わってこいつを倒せ。ギリギリ殺さぬほどのところまで追い詰めればおぬしに術を授けられるからのう」
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