第20話 出発

「まあ少年に魔導士さん、お互い緊張しすぎずにいこうや」


巨大な革ケースを荷台に放り込んだ後、鎖帷子に日本の兜とよく似た顔までは覆わない鉄兜をつけた中年男が馬車の客車部分へと乗り込んだ。


6頭立ての長距離横断用馬車は客車と荷台に分かれており、荷台には行商人が向こうの受取人に宛てた札付きの荷物の他、郵便や客車に持ち込めない長物の武器等が積まれている。


俺とベルリオーネさんは先に馬車の客車部分に先に乗り込んで、馬車の進行方向に座っている。


後から乗り込んだスコットさんは俺と向かい合わせに座った。


「それにしてもスコットさん、あなたの得物は何なのですか?」


俺は窓際の席に座りながら、向かい合わせに座るスコットにさりげなく聞いてみた。


「ありゃハルバートさ。槍と斧が合体したような武器さ」


「スコットさんはいつごろから冒険者に?」


「今から25年前、丁度駆け出しの僧侶だったころ、君と同じようにコンスタンチンにギルドでスカウトされてな。それ以来の腐れ縁で奴とは冒険し続けたもんさ」


「魔王が侵攻してきて俺も色んなパーティで戦ってきたさ。昔から君みたいな別世界からの転生者は結構いてね」


「俺以外にも転生者がいるんですか?」


「ああ、大体この世界の住民の姿のまま前世の記憶を残してやってくるのもいれば、君みたいに記憶だけでなく外見も前の世界のまま転生してくるのもいる」


「わしは30回以上そういう連中と旅したがな、けれど・・・」


「けれど・・・・」


「魔法が使えるとかステータスとかで有頂天になる者がとにかく多くてな。戦死する者や敵の捕虜になっていまだ帰ってこない奴が多い。特に手っ取り早くレベル上げをするとかで難易度の高い敵がいる方面へ一発の破壊力の高い使い捨ての攻撃用マジックアイテムとかを大量に買い込んで突入する愚か者も多くいた」


「当然わしらは止めはしたが、多くが何か向こうの世界のゲームとおんなじだとか言ってわしらの忠告を聞こうとしなかったよ。案の定そういった連中は誰一人帰って来ず、ほぼ絶望視されている」


「・・・・・・・」


俺がスコットさんの話に黙りこくった後、ベルリオーネさんが話しかけてきた。


「それはそうとスドウ様、いきなりの実戦の形になって申し訳ございませんでした。けれどこの砦攻略はちょうどいい機会と思いましたので・・・・」


「えっ、何?」


「ほら、魔法の使い方を教授すると言っていたのに私も忙しかったり先日のトラブルとかで教える時間がなくてすみません」


「魔法ね・・・。もしかしてこういうふうにするのかな?」


俺は馬車の窓を開けてそこから右手を出し、先日の黒魔女との戦いで感じ取ったイメージを集中する感覚を頭の中で描く。


「試しに火の攻撃はこんな感じか・・・・」


頭の中で火球が生成されていくイメージを映像のように浮かべた。


「フレイムボール!!!!!」


ブバッッッッッッッッ!!!!!!


瞬間。


窓から突き出した右手のひらから火球弾1発が放たれ、遠くを流れる川の中州に命中して火柱を上げるのが見えた。


いきなりの火の玉に馬車を引いている6頭の馬が悲鳴を上げて暴れる。


ヒィィィィヒヒヒヒヒヒッッッッッッッ!!!!!!!!


馬車は急停車し、間髪入れずドアが開いた。


「お客さん困りますよ!!!!馬が暴走するとこだったじゃないですか!!!!!いきなり車内から攻撃魔法なんか放たんでください!!魔物でも出たんですか!?」


馬車を操縦する御者がカンカンになって怒鳴った。


俺は謝って事なきを得たが、もう一度やったらここで降ろすと怒鳴られた。


「スドウ様、いけませんよここでは・・・」


「すまん」


「けれどどこで魔法の打ち方を覚えたんですか?あれくらいできるなら私が教えなくとも十分ですよ」


「先日の黒魔女との戦いとか、魔法ってこんな感じかって頭の中でイメージしていたら何となくできるようになってた。多分ベルリオーネさんが先日俺に言っていた魔法に関する哲学講義みたいな話もイメージづくりに役立った気がする」


「その通りです、スドウ様!!!イメージを頭でいかにうまく描けるかで魔法仕えるかが決まるんです!!!魔法とは芸術(アート)であり、いかに素晴らしい光景を心の中で描けるかで威力も力も決まるんです!!」


ベルリオーネさんはとてもうれしそうに話始めた。


魔法の使い方に関することを話すと彼女はいつも嬉しそうになる。


スコットさんはスキットルを取り出して一口飲んだ後、ウトウト居眠りをしはじめた。


攻略予定の砦近くにある前線拠点まで半日。

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