第2章 北部地方討伐

第19話 最初の討伐依頼

鳥の鳴き声。


チュンチュンというさえずりに加え、鶏の鳴き声が響きわたるなか、目を覚ます。


ハイン城・西の塔557室。


ハイン城西側にある塔に俺は部屋をあてがわれた。


部屋はかなり広く、ベッドも大きいので快適である。


唯一の不満は土足で入らないといけない点で、靴を脱ぐのが習慣の日本人には慣れるまで違和感がある。


もし、何か畳の代わりになるようなものがあったら敷きたいものだと考えている。


ともあれ鶏のけたたましい鳴き声が目覚まし代わりとなり、窓を開けて外を見る。


日本ではあまり見ることのない電信柱のない平野が巨大な朝日とともに俺の目に映る。


こう見るとこっちの世界へ来たということ、日本をはじめ現実の世界とは別のところに来たのだと改めて感じる。


澄んだ空気は排ガスまみれの場所とはまるで違う。


空気の味の違いが分かる感じさえする。


俺が肺いっぱいに呼吸すると、上品にドアがノックされる音がした。


コンコンコンッ!


「おはようございます、スドウ様」


ノックとともに部屋に入ってきたメイドさんは清潔感のある正統派のメイド服姿。


きれいな声。


俺の身の回りの世話をしてくれるクラウディアさんはとてもやさしい。


「お着替えはこちらへ置いておきます、スドウ様」


「ありがとうクラウディアさん。ところでコンスタンチンさんはどこに?」


「執事長は用事で他国へ使いに出ております。何か御用でしたらわたくしがお伝えいたしますが」


「それじゃスコットさんを推薦していただいてありがとうございますと伝えてください」


「かしこまりました。執事長もスドウ様がご満足いただいてお慶びになると思います」


クラウディアさんは俺が別室で着替えている間、ベッドのシーツ交換や掃除などに取り組み始めた。


この光景を見る限り、ここでの生活は悪くはない・・・・。


だが・・・、なんだ・・・・、このもやもやは・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「スドウ様、それでは早速ですがギルドより魔王軍関係の討伐依頼です」


朝食の間でベルリオーネさんは開口一番に手にした依頼書とともに俺に言った。


「場所はどこなんだ?」


ベルリオーネさんは俺に依頼書に付属する地図を渡した。


「ここから北に約100キロ。ナールベルクという地方です」


「今から3年前に魔王軍が我が国から奪って今も占領している地域です」


「そんな近くまで攻めてきているのか?」


「現在、北部は膠着状態でほとんど戦いは進展しておりません」


「激戦地はむしろ西部の方ですから」


「しかし、膠着状態って言ってもたった3人でそんなとこ落とせるのか?魔王軍って言うからには相当な・・・」


「ご安心を。もちろん地域全体をいきなり制圧するわけではありません」


「まずはこの地方の最南端の内の一つ、ラッタル砦を攻略してくださいという依頼です」


「魔王軍が我が国を侵略する最前線は西部なのですが、我が国を包囲して水源地帯を奪うために北部にも侵攻してきて、我が国の水源に近いこの地方を制圧しようとしているのです」


「先に北部を制圧できれば西部とともに我が国に2正面作戦を仕掛けられます。そうなれば戦力的にも我が国が不利になるのは必定」


「しかし、北部はまだそれほど敵の精鋭がいないので、1砦を落とすくらいならば実戦経験が乏しくとも経験者と同伴であれば十分落とせると思います」


「あと、私たちのパーティだけでなく他のパーティも連合して攻めるので効率よく練度をアップできるので、北部は比較的攻めやすいところです」


「おまけに北部から東部にかけては山も多く、隠された洞窟や金鉱山なども多いですし、魔王軍とは別に盗賊団などの根城も多いですから宝などを自由に回収してよいと女王陛下から勅令が出ておりますのでやりがいがありますよ」


アイテムや金がとり放題というわけか・・・・。


悪い話ではない・・・・。


相手は悪党の集団だからふんだくってもノープロブレムというわけか。


「あれっ、そう言えばベルリオーネさん。ギルドでもう一人連れてく予定だったんじゃ?」


「一応人数には制限はありませんし、3人とはいえ昨日加入してくれたスコットさんは相当な使い手、私も含めれば大丈夫でしょう」


「楽観的でいいのかベルリオーネさん」


「ええ、今回の討伐は馬車で途中の拠点まで移動できるので割と移動が楽ですし、スドウ様の初陣にはピッタリかと」


あの黒魔女のせいで一応この世界での最初の戦いは経験したけど・・・・。


俺は腰に佩いたアークティスクリンゲの柄頭に手を触れた。


上品な青みがかった白い色の装飾はやはり持つと何か他の鋼の剣とかとは違うものを感じた。


「スコットさんはどこに?」


「南の城門口で待ち合わせです」


俺はナイフで2つ切りにしたカイザーゼンメルの間にハムと野菜と目玉焼きを載せて2個平らげ、熱したミルクにサトウキビから生成した黒砂糖入りコーヒーを3杯飲み干してから、ベルリオーネさんとともに朝食の間を出て1階への階段を下りて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る