第18話 傭兵僧侶スコット
コーヒーも残り少なくなってきた。
「スドウ様、今回は不可抗力でしたが、できるだけあのシュヴァルツとは可能な限り接触を避けてください」
「あの真っ黒クロスケな魔女はベルリオーネさんの知り合いなの?ずいぶんガラがよくないと思ったけど」
「あの女は先輩ですけれど・・・・、あまり話したくない人なんです」
「話したくない?」
「・・・・結構苦手なんです・・・・。お察しの事とは思いますが・・・・」
あっ、そういうことか。
確かになんか変な性癖持ってそうだったし。
それにあの女の部下は今の所2人しか見てないけどいずれも人格に何か変なモノを感じたし・・・・。
今は深く聞くのはよしたほうがいいか・・・。
「分かった、とりあえずヤバい奴ということで俺も気を付けるようにするよ」
「ともあれスドウ様がご無事であったことは何よりでした」
「うん、正直俺自身もよく助かったと思う」
「しかし・・・・、アイテム収納袋を人を捕えるのに使うというのは盲点でした」
さっきまで俺と対峙していた黒魔女に関する話が少し落ち着き、ベルリオーネさんは仲間の確保についての話に話題を振った。
「それでは敵地攻略のための仲間を確保しに行きましょう」
仲間って要はロープレとかの序盤で酒場とかで確保できるってパターンか。
「具体的にどんな人らがいるんだ?」
「各職業があって、さらにその中でも様々なタイプに分かれます。戦士クラスの職業をれにとっても歩いて戦う歩兵科もいれば、馬に乗るのを専門にする騎兵科もいますし、こちらから解雇しない限り半永続的にメンバーにできる人もいれば、期間限定でしか仲間にならないことをポリシーにする傭兵もいます」
よりリアルサイドに近い細かい設定だな。
俺らはギルド内の交流会場に入る。
古い材木で組み立てられた内装は開放感がある天井と合わさってドイツのホーフブロイハウスを感じさせる。
各テーブルではビールやワインを片手に豪勢な肉料理をほおばる僧侶や盗賊のような連中もいれば、立ち飲み用のテーブルに書類をおいて何か交渉をしている魔法使いと立派な剣を携えた女戦士風の人もいる。
「で、ベルリオーネさんはどういう人を勧誘すればいいと思う」
「まず回復役の人を確保するのが第一です」
「おう兄ちゃん、どうしたのかね?もしかして人を探しているのか?」
鎖帷子の上に軽装の金属鎧をつけた中年のおっさんが話しかけてきた。
顔を完全には覆わない鉄兜を被るその姿はギルドの建物がひしめく表通りで自分を雇用しないか勧誘しているバイキング風の戦士たちとよく似ていた。
そして、最も注目を引くのは背中に背負った大きな細長い革のケースである。
上品な光沢のあるレザーで出来たそれは外見から柄の長い戦斧、ハルバートかスポンツーンあたりの長物武器を幅広く収納できそうな代物だった。
ベルリオーネは尋ねた。
「あなたの名前は?」
「わしの名はスコット。20年以上傭兵をしておる者じゃ」
「傭兵ですか・・・・。失礼ながら私たちは今、回復役の僧侶を探しておりますので」
「わしは僧侶と戦士の職を兼ねておる。回復魔法は最上級クラスのものまでお手のものじゃぞ」
そう言ってスコットは鎖帷子に付けられたある勲章を見せた。
そこにはこの世界での僧侶職を現す丸に十字架の紋章をかたどった勲章がつけられていた。
「僧侶職と戦士職を兼ねるなんてあまり見受けられない。本当なのですか?」
ベルリオーネが驚きの表情を浮かべる。
「職の兼業は相当な熟練者でないとできないはず」
「疑うならこいつを見てくれ」
スコットは革製のマップケースの中から何かを取り出してベルリオーネに見せた。
手帳のようだ。
それを覆う黒皮のカバーには本ギルド・ケーニヒスゲマインシャフトの紋章が刻印されている。
ベルリオーネはその手帳の身分証明欄を隅から隅まで確認する。
「大変失礼いたしました。確かに本物の冒険者の様です。それも相当の熟練者の方のようですね」
ついでにこいつもじゃ。
「ステータスオープン」
スコットはそう叫ぶと目の前に魔法陣が現れて、俺の時と同じような電光掲示板のような表示がでた。
“レベル 65”
“特殊スキルレベル:60”
「これはすごい・・・」
ベルリオーネさんが言うと、スコットは得意げな表情になった。
「その通り、お安くしとくからわしを雇わんかね?」
「ちょっと待ってくれ、えっと、スコットさんだっけか」
俺は話に割って入る。
「お聞きしたところ、相当実戦経験のあるお方とお見受けします。しかし、それほどの実力者がなぜ俺たちのような新米に雇用を持ちかけてこられるのですか?あなたほどの人ならばほかに高給の雇口があるでしょうに」
俺はあえて慎重に探りを入れる。
あの黒魔女のように何があるか分からん。
「わしも正直高い給料で雇ってくれる所に行きたいのは山々じゃ。しかしな、確か君はスドウという少年じゃろ、そして第一級魔導士のベルリオーネさん」
「なぜ俺たちのことを知っている!?」
俺とベルリオーネさんは一瞬身構えた。
「おいおい、そう怖い顔をしんでくれ。わしはハイン城で専属執事をしておるコンスタンチンに頼まれておぬしらが来るのを待っておっただけじゃよ」
「ええっ、あの執事のおっさんに!?」
「わしとコンスタンチンは30年来の知り合い、昔の冒険仲間でな。この世界に転生してきた人間の中でも今回特に有望な少年が来たからぜひ力になってやってくれと言われたのじゃよ」
スドウとベルリオーネはすこし納得した表情になった。
これほどのレベルの冒険者はスカウトしようにもめったに出会える存在ではない。
2人はスコットを仲間に加えることにした。
本来はもう1人か2人を勧誘したかったが、今日はそれほど気になる存在がいなかったので引き上げることにした。
ただ、須藤少年の心には漠然とした不安感が今もなぜか消えていない。
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