第17話 玉座の間

「どうだったかしら、セレーヌ?相変わらず黒一色のコーディネイト、なかなかいい趣味よ♬」


青紫のドレスに身を包み、ブロンドに透き通るような白い肌を大胆にあらわにした女王が玉座に座って足を組み、玉座の肘掛に左ひじをつけた左手でアゴを支えながら、右手にワイングラスを持って中の液体を戯れるように揺らしている。


威厳とともに言い表せぬ緊迫感を醸し出す女王の言葉に平伏する者たち。


「はい、魔力、身体能力はまだ未成年相当ですが、予想以上に奇怪な方向に頭が回る輩だと感じました」


ハイン王国・城内玉座の間。


玉座に座る女王の前、赤じゅうたんに跪く黒ずくめの魔女とその従者2名がいた。


ニヤリと微笑んだ女王はくいっとグラスの中の液体を口に運んでわざと下品に喉を鳴らす音を立てて飲んだ。


口から赤い液体をこぼしながらニヤついた表情を変えない。


「ベルリオーネには彼をきちんと指導するよう厳命している」


「あの少年は本来処分対象」


「けれど、あの素質は我々の計画を遂行する上で使える存在」


「であるからベルリオーネは適任者。少年とほぼ同い年にして魔導士としての素質のある彼女に指導係を任せた。優秀とはいえ未熟者でこの世界のことはまだ最低限しか知らぬ彼女ならちょうどいい。下手に計画の全貌を知る者が担当してうっかり口を滑らせると勘のいいあの少年に気づかれるからな」


黒い魔女は跪いて帽子を脱ぎ、顔を床に向けながら口を開いた。


「女王様。お言葉ですがあのベルリオーネという娘、一つ気になる点がございます」


「なんじゃ、申してみよ」


「モールスも同じことを申しておりましたが、従順ではありますが今だ我らが教団の一員になろうと致しません。どこかで妙に自我を維持し続けようとしているではないかという印象をぬぐえません」


「もしや向こうでまだしぶとく我らに抵抗する愚か者どもが放ったスパイでは!?」


黒い魔女の言葉に女王はクスクスと笑い声をあげた。


口から垂れる赤い液体をぬぐおうとはしない。


「・・・もうよいセレーヌ・シュヴァルツ」


「しかし!?」


「いつものお前らしくもない。あの少年にしろベルリオーネにせよ真人間へと生まれ変わりさえすればこの世界の発展に多大な貢献をしてくれる存在だ。実に“指導”のし甲斐があるではないか?」


「反抗してくる者すらほとんどいなくなって我らは退屈気味。たまには厄介と戯れようではないか?」


女王は立ち上がり、恍惚の表情でワイングラスを持つ手を高々と上げ、何かに祝杯を挙げるような姿勢になった。


「すべては全能の教主様のために!!」


黒い魔女とその従者、男と女の2名も同様に立ち上がり叫んだ。


「御意に、すべては全能の教主様のために!!!!!!!!」


「すべては全能の教主様のために!!!!!!!!」


「すべては全能の教主様のために!!!!!!!!」


静寂を打ち破る熱気が天にも届かんばかりに天井が高い玉座の間にこだまする。

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