第12話 目的地と違う酒場 

俺は見知らぬ少女に突如刃物を突き付けられてどこかへと連行されることになった。


俺を先に歩かせて、彼女は後ろから俺にぴったりと張り付いてついてくる。


その角を曲がれ、とか言って行先を指定してくるのでその通りにしてひたすら歩く。


周囲には多くの人がいても、みんな自分の宿とかギルドへの勧誘とかで大声を出していてこちらのことなど何も気にかけていない。


後ろの少女は無言で俺を連行するように淡々と俺について歩くのみ。


不気味なほど人間らしさが感じられん。


「あんたの名はまだ聞いていなかったな?何て名だ?」


「・・・・あなたに教える必要はございません・・・・・」


さっきから妙に不自然さを感じるしゃべり方。


まるでプログラムされた機械みたいだ。


ひょっとして何か精神の操作でもされているのか?


「そっちの角を左へ」


「そのまま突き当りを右へ」


にぎやかな表通りから人気のない路地へ進むよう命令される。


日中にもかかわらず暗い路地には浮浪者風の男やゴブリンが昼間から泥酔して建物の入り口付近などに仰向けになっており、酒と小便の臭いが混ざって真剣に耐えがたい。


「なあ誰かさんか知らないが、こんなガラの悪いとこに連れ込むのは趣味が悪いな」


「・・・・・・」


反応なし・・・か。


とはいえ大体こういうところには奴らのアジトがあって、そこにこいつらの主人がいるはずだ。


でもろくに戦闘訓練も魔法の訓練もまだベルリオーネさんに習っていないし・・・・。


何かあれば自分の知識と経験だけが頼りか・・・・。


何か隙があれば・・・・・。


俺は気づかれぬよう、歩きながら周囲を観察する。


腐った生ごみを入れたゴミ箱や、モップやらデッキブラシみたいな掃除用具が無造作に突っ込まれたバケツ、少し上を見上げると建物の間にロープが張られ、そこにシャツやらタオルやら洗濯物が無造作に干されている。


まるで昔、動画で見たイタリアのナポリみたいな街並みだ。


そうこうしているうちに一軒の宿屋らしき立派な石造りの建物が見えてきた。


見た感じ宿屋の様だ。


こんな陰気くせえ場所にしちゃやたら立派な宿屋だな。


不自然なまでに立派な作りの外見を見ていると、入り口には妙に気取った若い男が壁にもたれかかって突っ立っていた。


「連れてきたのかよ、マリー」


「ええ」


「はあ!?・・・こんな奴が!?」


俺の顔を見るなり、アゴを突き出して上から目線で見下してきた。


入り口で待っていた男は高校生くらい。


金髪だがなんか俺らと人種的に近い感じの雰囲気。


片耳にデカい銀色のピアスをしていて、鼻と口には銀色のピンみたいなピアスをつけている。


服装はたぶん貴族の服装をまるでどっかのホストみたいな感じに改造した品のないスーツみたいな感じ。


指にはでかい宝石が付いた指輪を2個ずつ両方の指にはめて、手を上げ下げするときに自慢げにこちらへと見せびらかしているような印象を受けた。


後ろの女と同様これまた日本語に堪能。


この世界は日本語が通用するのか、それともこの世界独自の言語はあっても日本語と同じように理解できるように転生したときに最初から仕様としてデフォルトで身に付いていたと考えるべきか?


考えていると目の前の野郎が因縁をつけるような態度をエスカレートさせてくる。


「なんだこいつ中坊みたいじゃん!マジ笑える!!こんなのが勇者クラスだって!?」


「俺はな、こっちに来てすぐシュバルツ様から賢者クラスの認定を受けてバリバリレべアップしてきてんだよクソガキ!!」


「見た感じまだろくに戦闘経験もない感じじゃん!!シュバルツ様かい被りすぎ!!!」


「ここで殺しちゃおー!!!」


「シュバルツとはお前の主人の名か?」


「だったらどうするんだよ!!!!」


いきなり殴りかかってきた。


俺はギリギリまで引き付けてかわす。


うまい具合にかわせた。


奴はそのまま俺の真後ろのマリーと呼ばれた少女に危うく拳を打ち込みそうになるも、直前で足にブレーキをかけて止まった。


体重を前方にかけすぎたせいか前に倒れかけて少女に覆いかぶさろうと言わんばかりだった。


「フランク、味方である私に拳が当たるところでしたが?」


「ワリイワリイ♬」


「ってこのガキ何かわしてんだよ!!!!」


さらに逆切れしてきた。


フランクって言うのかこの男。


年は少し俺より上なくらいな感じでやけに大人の世界を知ったような勘違いした顔をしている。


ただ、今ので分かったことがある。


直感的に思った通り、俺の運の良さが発揮されてる気がするのだ。


古い剛柔流を習っていた関係で少しは戦い方は知っているが、奴の拳はなかなかの速さだった。


それを軽々と全くかすりもせずにかわせたのはステータスオープンの時に見た運のよさがやたら俺は高かったからだとふと思った。


「このやろう!!!!!!!」


またきた。


俺は近くにあった水の入ったバケツに突っ込まれたままのモップを取り、奴の顔に槍をつく動作でぶつけた。


「ぶげっ!!!!げえええええ!!!!!!!!!!!」


殴りかかることばかり考えていたのであろう奴は防御の動作が取れなかった。


俺は何日も放置されていたであろう水につかりっぱなしだった嫌な臭いがするモップを奴の顔面に叩きこんだ。


それを奴の顔に食らわせた後、懐ギリギリまで接近し、みぞおちに右ひざを撃ち込み、さらにそのまま右足を奴の右足後ろにかけて掌底で奴のアゴを付く感じで後ろへと倒す。


ゴッ!!!!!


奴が後頭部を建物入り口にある石造りの小さい階段にぶつける鈍い音がした。


先ほどの勢いはなく、奴は伸びていた。


真新しいズボンの股から臭いのキツイ水を垂れ流している。


運も実力の内というが助かった。


接近戦を主体とする剛柔流空手の経験と運の良さがうまく合わさったからよかった。


けれど過信はできん。


後ろにいた女、マリーというらしい、は無言でこちらを見ているだけ。


パチパチパチ!!!


わざとらしく大きな音を立てて手をたたく音が俺の後ろからした。


振り返るとそこには・・・・。


「お見事お見事♬さっすが勇者様扱いされてるだけある~、ヒック♬」


きつい酒の匂いを漂わせた黒ずくめの魔女が琥珀色の液体の入った透明の瓶を片手にそこにいた。


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