第3話 星

3.1


 土曜というのに、授業がある。やれやれな学校だ。


「叔母さん、そういや、今日は和田の爺さんが、調律に来る。」

 すっかり家主に言い忘れていた春一は、叔母の美雪みゆきに睨まれるかと思い、ヒヤリとした。


「春一、あたしのことは『美雪さん』と呼びなさい。で、何時に来てくれるって?」

 昨晩、午前様の美雪は、どこか眠たそうに訊く。


「たぶん13時」


「えー、あたし、出かける予定なんだけど。春一が、学校から帰ってきたらいいじゃないの? というか、あんたピアノ弾くの止めたくせに、もう調律頼んだの? どういうこと? 壊れない程度だったら、もっと後に頼んだらいいでしょ?それに、あんたのお母さん、夏美姉さんにはピアノのこと言ったの? いつまで黙ってるつもりよ。ったく」

 美雪の疑問は止まらない。


「和田の爺さん、カレンダー空けて待ってたから頼んだ。断っても説明がめんどい」


 和田の爺さんが、いつも頼む時期に予定を空けて待っててくれるだなんて、知らなかったし。だから、断れなかった。


「ってか、美雪さん。学校終わってからは、間に合わねぇし」

 何か言いかけている美雪をよそに、「よろしく」と言って俺は逃げるように家を出た。


 これ以上、返事をしていても学校に間に合わなくなる。それに、マシンガントークなところは、母さんにそっくりだ。


 八坂美雪やさかみゆき:最後まで人の話を聞きなさいよ

 八坂美雪:帰りに宇治小春うじこはる駅にある『Rigolettリゴレット』っていうアクセサリーショップでおつかいしてきて

 八坂美雪:楽しみにしてたんだから、ちゃんと受け取ってきてよね?


 学校に向かう途中、美雪さんから大量のメッセージが届き、俺はこの上なく、面倒だった。

 ついでに教えるが、返信をしたら、それはそれで、この上なく面倒だ。


 それに、不本意だ。

 宇治小春うじこはる駅に行けば、嫌でもあの気に入っていたストリートピアノが目に留まる。


 ユージ曰く「言い忘れたハルが悪い」だそうだ。


 俺のこと『打楽器の次に好き』と言っていたユージはどこいった? 冷たい。

 深く踏み込んでこないところがユージの良いところで、顔が広い所以でもある。



 授業も終わり下校していると、窓の空いた教室から風に乗って、マリンバの音が聞こえた気がした。


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