3.2
土曜の午後ともなると、
商業ビルやオフィスビルに囲まれ、乗換のできる駅でもあるから、当然と言えば当然か。
吹き抜けになっている金時計の上の2階、ガラス張りになっている柵から、チラリと見えるピアノは、以前と変わらない様子で鎮座している。
悪いけど、俺じゃないやつに弾いてもらってくれ。
混雑した駅ビルを抜けて、美雪さんに頼まれたアクセサリーを受け取り、俺は、ミニマルな箱の入った小さい紙袋を下げて改札に向かう。
その途中、視界の隅、ストリートピアノのほう、黒じゃない色の塊に違和感があった。
見上げてみると、背中しか見えないが、子供が泣いているように思えたから、不審に思い、階段をあがる。
「おい、そこのちびっ子、どうした?」
「……ぅう、えっっぐ」
「お前、もしかして迷子か?」
小学校入りたてか年長か、それくらいに見える男児は小さく頷いた。
「それなら、駅員のとこに連れてってやるから、ほら行くぞ」
俺はちびっ子と目線も合わせず、上からぶっきらぼうに言い放つ。
「……まいごのときはうごいてはいけませんって、ままがいってたの。だから、その、えーっと、……ま、まいごに……うぅ……ひっ…ぐぅ」
おいおいおいおい、俺が子供をあやすのは、無理に近い。
あぁ、もう。泣くな、面倒だから。
傍からは、茶髪ピアスの高校生が泣かせてるように見えるだろ?
俺が困り果てているところに、再びストリートピアノと目が合った。
泣かせたまま放っておくのは、なんか違うことくらい、この俺でも理解するさ。
でも、俺、ピアノしかできないんだよ。
以前よりも重たく、ぬるりとした鍵盤蓋を開け。ちびっ子に近づいた。
そして、俺はしゃがみ込み、ちびっ子の目線に合わせる。
「おい、ちびっ子。ピアノは弾けるか?」
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