1.4
「和田楽器店に行くから付き合いたまえ!」
ユージは、くるりとこちらを向いて声高らかに宣言した。
よりによって、和田楽器店か。
「マリンバのマレットの修理が終わったから、できれば今日中に取りにいきたいんだ」
ユージが追い打ちするかのように、続ける。
「あぁ、もう。わかったよ」
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※マリンバ…木琴の一種
※マレット…弾くときのスティック
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和田楽器店は、この街に昔からある個人商店の楽器屋で、五十鈴附属高校の生徒はもちろん、ユージのマリンバもお世話になっているところだ。
俺の家のグランドピアノは“お世話になっていた”ところ。
店の扉を開けると、扉についている大きなカウベルがいつもの調子でカランコロンと鳴りだし、来客を告げる。
ユージは、奥にあるカウンタ―に、一目散に向かっていってしまった。
ひとり置いて行かれた俺は、楽器や消耗品がところ狭しと並んでいる店内をそろりそろりユージの後を追う。
店の奥の方から、ユージと和田の爺さんの話声が、かすかに聞こえた。
「お爺さん、僕のマレット生まれ変わった?」
「佑二くん、いらっしゃい。できてるよ」
和田の爺さんは、相変わらず元気そうにハキハキと身体を動かし、ユージのマリンバを取りにカウンターの裏方に歩いて行った。
「おい、ユージ」
俺は、佑二の背後から肩越しに顔を覗かせた。
「一緒に行こうと言っておきながら、店に入ったら俺のこと、置いていくのか?」
「ハル、拗ねないで」
いや、拗ねてない。
「僕は、打楽器の次に君のことが好きだから、安心してくれ」
ユージの言葉に、いくつか思い浮かんだ返事を、俺は飲み込んだ。
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