1.3


 スマホがポケットの中で短く震える。

 画面を見るとユージからメッセージが届いていた。


  ユージ:終わったら遊びに行こ


 ユージは、高校を入学した時に知り合った気の合う唯一の友人だ。


 新学期が始まる前に普通科に変えることを知っていたのは、ユージと学校と春一の保護者だけ。


 簡単に「おーけー」と返すと同時にユージから追加のメッセージが届いた。


  ユージ:声楽に編入生がいてさ、女子だったわ


 返信欄に「あっそ」と入力しかけたところで、俺は送るのを止めた。


「俺は……ピアノを捨てたんだ―—―」


 ふーっと息を吐きながら椅子の背もたれに身を任せ、それからというものの、宙を見て時間が経つのをひたすら待つばかりだった。




「おーい、ハルっ! お迎えに来たぞ」


 教室の入り口から顔を出したユージが大きく両手を振って、大声で俺を呼んでいる。ユージ、やめてくれ、目立つ。


 騒がしいユージと合流し、俺は歩きながら「お前、声がデカい」と不機嫌さを滲ませた。


「だって、音楽科は始業式の日くらいしか、ゆっくりできないこと知ってるだろ?」


 ユージの声は、どことなく弾んでいて、喜んでいるようだった。


「俺は普通科だし、いつでもゆっくりできる」


「それは、それ。僕は、練習と勉強で忙しくなる前にハルと過ごしたいだけさ」


 進行方向を見つめたまま、ユージはサラリと言う。予想していなかったユージの言葉に、面食らって、俺は返事のタイミングを失った。


よくもまあ、歯の浮くようなことを言えるもんだ。


「もー、相変わらずハルは、つれない奴だなぁ」


 一重の瞳を細くしながら、ユージはクククっと笑う。トレードマークの八重歯がチラリと覗いていた。


「ところでユージ、これからの予定はアテでもあるのか?」




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