転校してきた美少女が異星人だった件

島原大知

本編

教室の片隅で、友里はぼんやりと窓の外を眺めていた。煌々と照りつける春の日差しが、校庭の隅に植えられた桜の木々を照らし出している。ほんの数週間前まで、あれほど鮮やかだった桜のピンクも、今はすっかり緑の葉に覆い隠されてしまった。移ろいゆく季節のように、友里の心も日々移り変わっていく。けれど、孤独だけは変わらずにそこにあった。


隣の席では、仲の良い女子グループが楽しそうにおしゃべりに花を咲かせている。会話の内容は、先日見た人気ドラマの感想だろうか。友里にはよく分からない。そもそも、そのドラマを見ていないし、見ようとも思わない。けれど、女子たちの弾む笑い声が羨ましくて、友里は時折、チラチラと視線を向けてしまう。

「私も、あのグループに入りたいな」

そんな憧れを抱きつつも、友里にはその輪の中に入る勇気がない。自分には無理だと、最初から諦めてしまっている。根暗で地味な自分が、あんなにはつらつとしている子たちと上手くやっていけるはずがない──そう考えてしまうのだ。

なぜ自分はこんなにも臆病なのだろう。友里は溜息をついた。消極的な性格は昔から変わらない。小学校の頃、「友里ちゃんはおとなしくて良い子」とよく先生に褒められたものだ。褒められて嬉しかったのを覚えている。でも、それは本当に褒められるべきことだったのだろうか。

「良い子」でいることに必死で、いつの間にか自分の殻に閉じこもってしまった。今思えば、先生は友里の内向的な性格を心配して、そう言ってくれていたのかもしれない。

自分の性格を嘆いても、何も変わらない。そう分かってはいるのに、負の感情は尽きることがない。教室の中が騒がしくなればなるほど、友里の心は沈んでいく。


「───チャイム、鳴った……」

予鈴の音が、遠くで響く。友里は伏せていた顔を上げ、教科書とノートを机の上に広げた。隣の席の女子たちは、おもむろに自分の席へと戻っていく。

数学の授業が始まった。先生が何やら熱心に説明しているが、友里の耳には一切入ってこない。目の前の教科書のページには、複雑な数式が並んでいる。それを見つめながら、友里はただ放心するばかりだ。

「……りさん。桜田友里さん!」

ふと我に返ると、目の前に数学の先生が立っていた。眉間に皺を寄せ、困ったような表情を浮かべている。

「ぼーっとして、何度も呼んだのに気づかなかったでしょう。ちゃんと授業に集中しなさい」

注意されて、友里は慌てて頭を下げた。

「すみません……」


そう謝罪の言葉を口にする。けれど心の中では、全然反省していない。そんな自分が情けなくて、涙が出そうになる。

どうしてこんなにダメなんだろう。もっとしっかりしなきゃいけないのに。

自己嫌悪の念が、友里の心を蝕んでいく。

放課後。一日の授業を終え、友里は一人、校舎を後にした。生徒たちの賑やかな声が、後ろから聞こえてくる。きっと、みんなで楽しくおしゃべりしながら帰るのだろう。一瞬、「私も誘ってほしい」なんて考えてしまうが、すぐに自分を叱咤する。

「私なんかが一緒に帰ったら、雰囲気が台無しになるに決まってる」

そんな負の想像を繰り返しながら、友里はトボトボと歩みを進めた。

いつものように訪れた河川敷は、ひっそりと静まり返っている。川の流れる音だけが、虫たちの声だけが、ここには響き渡っている。

友里は川原に腰を下ろし、ぼんやりと水の流れを眺めやる。穏やかに流れるその姿は、どこか友里自身を思わせる。いつも一人で、誰にも構われずに、ただそこを流れ続けている。

ザワザワと風が吹き抜け、友里の髪がなびいた。ベンチの上で目を閉じれば、何もかもから解放されるような錯覚を覚える。

けれど現実は違う。目を開ければ、そこにあるのはいつもの孤独な日常だけだ。

両膝を抱え、友里は小さく体を震わせた。


「……誰か、私を助けて」

そう呟きながら、友里はただ泣き続けるのだった。

その夜。いつものように、冷え切った夕食を一人で食べた友里は、部屋で一人、宿題に取り組んでいる。音のない部屋に、ペンの走る音だけが木霊する。

窓の外を見やれば、煌々と輝く月明かりが優しく差し込んでいる。どこか現実離れしたその光景に、友里は時折見とれてしまう。

「私も、月のように煌々と輝けたらいいのに……」

そんな望みを抱きながらも、友里は自分には無理だと分かっていた。それでも、心のどこかでは奇跡を信じている自分がいる。

いつか、この孤独から解放される日が来るのではないか。そんな儚い期待を抱きながら、友里はペンを走らせ続けるのだった。

明くる日も、変わらぬ孤独な日々は続く。けれど、その目に見えない鎖が、ある日突然断ち切られる瞬間が訪れるとは、友里はまだ知る由もなかった。


新学期が始まって数週間が経った頃、友里のクラスに一人の転校生がやってきた。それは、友里の日常を大きく変える出来事となった。

教室のドアが開き、そこに現れたのは銀髪に碧眼の美少女だった。まるで、異国の地から迷い込んできた妖精のように、彼女は神秘的な雰囲気を纏っている。

「皆さん、こんにちは。私の名前はミオです。今日からこのクラスに転校してきました。どうぞよろしくお願いします」

そう言って、ミオは人懐っこい笑顔を見せた。その笑顔は、まるで春の日差しのように眩しく、教室中を明るく照らし出す。

クラスメイトたちは皆、そんなミオに釘付けになっている。男子たちの視線は、ミオの美貌に吸い寄せられているようだ。一方の女子たちは、そのファッションセンスに目を奪われている。スレンダーな体型に映える、シンプルながらお洒落な制服スタイル。それは、どの女子の憧れでもあった。

友里もまた、そんなミオに見惚れていた。ふと我に返って自分の地味な服装を見下ろす。ダボダボのブレザーに、何の個性もないプリーツスカート。友里はため息をついた。自分など、ミオの比ではないのだ。

「さて、ミオさんの席ですが……」

担任の先生が教室を見渡し、空いている席を探す。その視線の先に、友里の隣の席がある。他のどの席よりも目立つ、最前列の真ん中だ。

「そうだね。ミオさんは、桜田さんの隣の席にしようか」

先生のその言葉に、友里の心臓が跳ね上がった。

隣、だって……?しかも、最前列……。

信じられない気持ちで振り返ると、ミオがすでに歩み寄ってきている。


「隣、いいですか?」

ミオが友里に話しかけてきた。まるで、銀の鈴が響くかのような澄んだ声だ。そのあまりの美しさに、友里は我を忘れて頷いていた。

「あ、う、うん。ど、どうぞ……」

こうして、ミオは友里の隣の席に座ることになった。

「よろしくね、友里ちゃん」

隣に座ったミオが、優しく微笑む。思わず名前で呼ばれたことに、友里は驚きを隠せない。

「え?ど、どうして、私の名前を?」

「あ、ごめんね。席を聞いた時に、先生から教えてもらったの。私、名前で呼ぶのが好きなんだ。だめ、かな?」

「だ、ダメなわけないよ!嬉しい、です……」

友里もまた、精一杯の笑顔を返した。きっと、ぎこちない笑みだったに違いない。けれどミオは、嫌な顔一つせずに友里に笑い返してくれる。

ミオと一緒なら、新しい学校生活も、きっと充実したものになるはずだ。そんな期待が、友里の胸の内で膨らんでいく。

放課後、いつものように一人で下校する友里に、突然背後から声が掛けられた。

「友里ちゃん、一緒に帰ろ?」

振り返れば、そこにはミオの姿があった。満面の笑みを浮かべ、ミオは友里の隣に歩み寄ってくる。

「い、いいの?私なんかで……」

「何言ってるの。友里ちゃんは、私の友達だよ。一緒に帰るのが当たり前じゃない」

ミオのその言葉に、友里の心は高鳴った。

友達、だって……。

今まで、一人ぼっちだった私に、友達ができたんだ。

そのことを実感した瞬間、友里の瞳には熱いものがにじんだ。

「ミオちゃん……ありがとう」

こうして、二人は肩を並べて下校の途に就いた。春の日差しが、二人の歩みを優しく照らし出している。一歩一歩、踏みしめるアスファルトの感触。風に揺れる桜の花びら。どれもこれも、かつてない程に鮮やかに感じられた。

ずっと一人で生きてきた。けれど、もう違う。

隣を歩くミオの存在が、友里の心をこんなにも豊かにしてくれる。

これからは、ミオと一緒にいれる。

その確信が、友里の歩みに小さな弾みをつけるのだった。


放課後の下校時、友里とミオは公園の近くを歩いていた。ブランコに腰掛け、ミオは友里に切り出した。

「ねえ友里ちゃん。私、あなたのこと、もっと知りたいな」

「え?私なんか、大したことないよ」

「そんなことないよ。友里ちゃんは、とっても不思議な子だと思う」

「不思議、って?」

「うん。いつも一人で過ごしているのに、孤独そうじゃないの。むしろ、凛としているというか……強さを感じるんだ」

ミオの言葉に、友里は思わず目を見開いた。自分でも気づいていなかった、内なる強さ。それをミオは、見抜いてくれたのだ。

「私……ミオちゃんと出会って、本当に良かった。ミオちゃんのおかげで、私、変われる気がするんだ」

そう言って微笑む友里に、ミオもまた柔らかな笑顔を返した。

「私もよ。友里ちゃんと出会えて、本当に良かった」

穏やかな春風が、二人の髪をそよがせる。まるで、これからの日々への期待に胸を膨らませるかのように。

それから、友里とミオの仲は日に日に深まっていった。教室では隣同士の席に座り、休み時間にはいつも一緒に過ごす。放課後は、毎日のように一緒に下校するのが日課だ。

ミオの明るさに触れるうち、友里もすっかり打ち解けていた。ミオといると、友里はまるで別人のようだ。かつての自分では想像もつかなかった、楽しげな表情を浮かべている。

「ミオちゃんって、すごいよね。転校初日から、みんなに好かれて」

ある日の下校途中、友里はそんな感想を漏らした。自分には真似できない、ミオの社交性。いくらかの羨望を込めて、友里はそう語る。するとミオは、真顔になって言った。

「それ、全然すごくないよ。私は、ただ演技をしているだけ」

「え……?」

予想外の言葉に、友里は目を丸くする。

「私ね、本当は人見知りなの。だから、明るく振る舞うことで、そこを隠しているの」

「そんな風には、全然見えないよ」

「それが演技だからね。でも、友里ちゃんの前では、素の自分でいられる。友里ちゃんといると、ホッとするんだ」

そう言って、ミオはそっと目を閉じた。穏やかな表情で、まるで友里との時間を噛みしめるように。

その姿を見た友里の胸に、じんわりとした暖かさが広がっていく。

「私も、ミオちゃんといると、ありのままの自分でいられる。今まで、こんな風に心を開けた人はいなかったよ」

二人は視線を合わせ、微笑を交わした。特別な存在として、互いを認め合う。言葉にしなくても、その心は通じ合っているのだと、友里には分かった。

こうして、かけがえのない親友を得た友里。けれど、その幸せな日々も、ある出来事によって大きく揺らぐことになる。

ある日の放課後、いつものようにミオを待っていた友里は、彼女の姿が見当たらないことに気が付いた。

「おかしいな……ミオちゃん、どこ行ったんだろう」

教室を出て、廊下を歩く。ミオのあの銀色の髪が、どこにも見えない。

「ミオちゃーん!」

大声で呼びかけてみるが、返事はない。次第に不安が募ってくる。

(もしかして、私に嫌われちゃったのかな……)

一瞬、そんな考えが脳裏をよぎった。ミオにとって、友里はただの通過点だったのかもしれない。そう思うと、胸が押しつぶされそうになる。

「……違う。ミオちゃんは、そんな子じゃない」

自分に言い聞かせるように、友里は首を振った。ミオとの友情を、こんな簡単に疑うべきじゃない。

きっと、なにかの用事で呼び出されたのだ。そう考えれば、ミオを探すべき場所は一つしかない。

そう直感した友里は、一目散に走り出した。向かう先は、学校の裏庭だ。人気のない、ひっそりとした場所。そこなら、誰にも邪魔されずに用事を済ませられる。

息を切らせて裏庭に辿り着いた時、友里の予感は見事に的中していた。

そこには、ミオの姿があった。

しかし。

彼女は一人ではなかった。

ミオの目の前に、得体の知れない"影"が立ちはだかっていたのだ。


裏庭で目撃した、信じがたい光景。

友里は息を呑んで、その"影"を見つめていた。

人の形をしてはいるが、明らかに人間ではない。全身が漆黒に染まり、吸い込まれそうなほどの闇を纏っている。そして何より、オーラとしか表現しようのない、異様な気配を放っているのだ。

対するミオは、微動だにせずにその"影"と対峙していた。まるで、それが当然のことであるかのように。

「ついに見つけたぞ。この星の、ミオ」

"影"が、うねるような声で言った。その声は、まるで複数の人間が同時に話しているかのように、不気味な響きを伴っている。

「一体、何の用?」

ミオが、低く抑えた声で問い返す。その眼差しは鋭く、"影"を射抜くようだ。

「決まっているだろう。お前を連れ戻しに来たのだ」

「私は、帰らない。この星で、平和に暮らすと決めたの」

「馬鹿を言うな。お前は我々の仲間だろう。任務を放棄するというのか?」

「私には、守るべきものができたの。それは、この星の平和。そして……」

言葉を切り、ミオは一瞬だけ目を閉じた。

「私の、かけがえのない友達」

その言葉に、友里の鼓動が高鳴る。

ミオは、自分のことを「かけがえのない存在」だと言ってくれたのだ。

「友達だと?人間如きと仲良くなれるはずがない。お前は、そんなつまらないことのために任務を捨てるというのか!」

"影"の声が、怒りに震えた。

「人間如き、だと?違うわ。人間には、私たちにはない素晴らしいものがある。優しさ、思いやり、そして……愛」

「くだらん!」

"影"が、さらに声を荒げる。

「いいかげんに目を覚ませ!お前は人間ではない!宇宙を支配すべき、我々異星人なのだ!」

その言葉に、友里の心臓が跳ね上がった。

異星人──

ミオが、地球外の生命体だったなんて。

「確かに、私は異星人かもしれない。でも、私の心はもう、人間なの。友里ちゃんとの出会いが、私を変えてくれた」

「友里、だと?」

"影"が、不気味な笑みを浮かべる。

「なるほど、あの子が全ての元凶というわけか。ならば……」

そう言うなり、"影"の漆黒の腕が伸びた。

まるで蛇のように素早く、その腕はミオをかわし、一直線に友里へと向かう。

「きゃあっ!」

鋭い悲鳴を上げ、友里はその場に屈み込んだ。

腕が、もう少しで友里の身体に届くというその瞬間。

「やめて!」

ミオの絶叫が、辺りに木霊した。

と同時に、眩い光が"影"を襲う。

「ぐわぁぁぁっ!」

"影"が、苦痛に呻きながらのたうち回った。

光に焼かれ、みるみるうちにその漆黒の身体が灰となって崩れ去っていく。

やがて、"影"の姿は跡形もなく消え去った。

「み、ミオちゃん……」

呆然と立ち尽くす友里に、ミオが駆け寄る。

「大丈夫?怪我はない?」

友里の身体に手を添え、ミオが心配そうに尋ねた。

「う、うん。なんともないよ。それより……」

「うん。話さなきゃいけないことがあるんだ」

ミオが、覚悟を決めたように深呼吸をする。

「友里ちゃん、私は……正体は宇宙からやってきた異星人なの」

「……うん。さっきので、なんとなく分かったよ」

「この星を侵略するために、スパイとして送り込まれてきたの。だけど、友里ちゃんと出会って、私の心は変わった。この美しい星を、愛すべき人間を、私は守りたいと思うようになったんだ」

「ミオちゃん……」

「だから私、仲間を裏切ることにしたの。この地球で、友里ちゃんと一緒に、平和に暮らしていきたいって、心から思ったから」

「……ありがとう、ミオちゃん。私、ミオちゃんのことが、大好きだよ」

友里は、ミオの手を握りしめた。

異星人だろうと、何だろうと、ミオは紛れもなく、友里の親友なのだ。

「私もだよ、友里ちゃん。あなたと出会えたこと、心から感謝しているわ」

涙を浮かべ、ミオもまた友里の手を握り返す。

かけがえのない、大切な友人。

それぞれの胸に、友情の温もりを感じながら。


こうして一件落着かと思われた、そのとき。

再び、"影"の気配が二人を襲った。

「まさか……また来るなんて!」

身構えるミオ。

一方の友里は、背筋に冷たいものを感じていた。

「にゃははは!愚かな裏切り者め!私を倒したくらいで安心したか?」

「な、なんで……はず……」

動揺を隠せないミオ。

「こんな度胸試しのような攻撃が通用するとでも?我々の技術力を甘く見るなよ」

不気味な笑い声が、あたりに木霊する。

「私一人やっつけたところで、何の意味もない。私たち異星人は、もっと大勢でこの星に潜伏しているのだ」

「そんな……!」

「観念しろ、ミオ。こんな価値のない星に未練を残すな。さあ、私と一緒に帰るぞ」

「……いや、私は帰らない。地球を、この星の平和を、私は絶対に守ってみせる」

毅然とした態度で、ミオは言い放った。

「そうか。なら、その覚悟、確かめさせてもらおうか」

"影"が、再び腕を伸ばす。

だが、その狙いはミオではない。

「友里ちゃん、危ない!」

ミオが友里をかばうように抱きかかえた、その瞬間。

鋭い衝撃が、ミオの身体を襲う。

「……かはっ」

ミオの口から、血がこぼれ落ちた。

「ミオちゃん!ミオちゃん!」

倒れ込むミオを、友里が必死に支える。

「に、逃げて……友里ちゃん……」

「いやだ!ミオちゃんを置いていくなんて、絶対にいやだ!」

友里は、決して手を離さない。

薄れゆく意識の中で、ミオは思う。

こんなにも温かい手。こんなにも強い絆。

私は、本当に幸せ者だ。

「友里……ちゃん……」


かすれた声で、ミオはかけがえのない親友の名を呼んだ。

「負けない……もう、誰も傷つけさせたりしない……!」

友里の瞳に、かつてない強い意志が宿る。

ミオを守るため。

この星の平和を守るため。

友里は、"影"に立ち向かう覚悟を決めた。


人間の少女の身で、宇宙からの侵略者に立ち向かうなど、無謀だと分かっていた。

それでも、友里にはミオという守るべき存在がいる。

たとえ、どんな強敵が相手だとしても、友里は戦い抜くことを心に誓うのだった。


「ミオちゃん、しっかりして!」

倒れ伏すミオを抱き起こし、友里は必死に呼びかける。

「友里ちゃん……ごめんね。私、もう……」

「何言ってるの!私たちは親友じゃない!一緒にいるって約束したじゃない!」

友里の叫びに、ミオの瞳から涙がこぼれ落ちる。

「ずっと……一緒にいたかった……」

かすれた声で、ミオがつぶやいた。

「うん、一緒にいられるよ。ミオちゃんが死んじゃったら、私……私……!」

涙が止めどなく流れ落ちる。

あんなに優しかったミオ。

あんなに大切な親友が、こんな理不尽な形で奪われていく。

「私は、負けない……ミオちゃんのために、絶対に……!」

震える声で、友里は誓った。

ミオの無念を晴らすため、友里は"影"との戦いに身を投じる。

たとえ、命を落とすことになっても。


「愛だの友情だの、そんな感傷に耽っている暇はないぞ」

"影"が、不気味な笑みを浮かべる。

「さあ、お前もミオの後を追うがいい」

再び"影"が腕を伸ばす。

鋭い切っ先が、友里の胸元を狙っている。

だが、友里は怯まない。

「私は、ミオちゃんの分まで生きる。この地球で、ミオちゃんが愛したこの星で!」

宣戦布告のように、友里は叫んだ。

その瞬間、友里の胸が光り出した。

「な、なんだ!?」

"影"が、眩しさに目を細める。

「これが……人間の、絆の力……」

呟きながら、友里はミオの手を握りしめた。

ミオの手から、温かなエネルギーが伝わってくる。

「ミオちゃん……」

ミオもまた、最期の力を振り絞り、友里に力を送っているのだ。

「うおおおおっ!」

友里の身体から、まばゆい光が放たれた。

「ぐわああああっ!」

"影"が、光に飲み込まれていく。

「こ、こんなはずでは……ぐあ゛あ゛あ゛っ!」

苦悶の叫び声をあげながら、"影"はその姿を消していった。


「やった……ミオちゃん、やったよ……!」

歓喜にわく友里。

しかし、ミオはもう、目を開けることがなかった。

「ミオちゃん……ミオちゃん……」

冷たくなったミオの頬を、友里はそっと撫でる。

「ありがとう、ミオちゃん。私、あなたとの思い出、一生忘れない」

友里は、ミオの瞼に優しくキスをした。

永遠の眠りについた親友に、感謝を込めて。


やがて日は暮れ、辺りはすっかり夜の帳に包まれていた。

「ミオちゃん、私ね、決めたの。あなたの意志を継いで、この星を守っていくって」

空を仰ぎ、友里は誓いの言葉を口にする。

「一人じゃ心細いけど……でも、あなたがいつも傍にいてくれる。だから、頑張れる」

星々が、まるで友里の決意に応えるように、きらきらと瞬いている。

「ミオちゃん、見ててね。私、負けないから」


こうして、友里の新しい人生が幕を開けた。

親友の死を乗り越え、前を向いて生きていく決意を新たにして。

ミオとの絆を胸に、友里は今日も精一杯生きる。


いつの日か、必ず再会できると信じて。

「あなたとの思い出が、私の生きる力になる」

星空に思いを馳せながら、友里は力強く歩み続けるのだった。


人生には辛いこともあるだろう。

けれど、ミオとの絆があれば、友里は乗り越えていける。

ミオが残してくれた勇気と優しさを胸に、友里は生きていく。


いつか、またミオに会えた時。

「ほら、私はちゃんと生きてるよ」と言えるように。


今は亡きミオへの約束。

その約束を果たすため、友里は自分の人生を全力で生き抜く決心をした。

エピローグ


あの日から、数年の歳月が流れた。

友里は無事に高校を卒業し、晴れて大学生になっていた。

キャンパスライフにも慣れ、充実した日々を送っている。

新しい友人もでき、楽しい毎日だ。

けれど、友里の心の片隅には、いつもミオのことが引っかかっている。

親友の死を乗り越え、前を向いて生きると誓ったあの日。

ミオとの思い出は、友里の心の支えになっていた。

だが、不思議なことに周りの人々は誰一人、ミオのことを覚えていないのだ。

友里の語るミオとの思い出を、みな不思議そうな顔で聞いている。

まるで、ミオの存在が消し去られたかのように。

もしかしたら、ミオは最初から存在していなかったのでは?

時折、そんな風に考えてしまうこともあった。

「いやいや、ミオちゃんは本当にいたんだ。私と、かけがえのない時間を過ごしてくれた」

自分に言い聞かせるように、友里はつぶやく。

大学の講義を終え、一人帰り道を歩いていると。

「あっ」

不意に、視界に飛び込んできた人影に、友里は足を止めた。

銀髪に、澄んだ瞳。

スラリとした体躯に、凛とした佇まい。

「ミオ……ちゃん……?」

信じられないものを見るように、友里は瞬きを繰り返す。

目の前を歩く女性は、まるでミオと瓜二つなのだ。

「ど、どうかしました?」

不審な友里の視線に気づき、女性が立ち止まる。

「あ、ごめんなさい。人違いだったみたい」

「そうですか。でも、どこかで会ったことがある気がするんです」

「え……?」

女性の言葉に、友里の鼓動が早くなる。

「私、天川ミオと言います。初めまして」

ミオ、と名乗った女性が、にっこりと微笑んだ。

その笑顔は、あの日のミオにそっくりで。

「私は、桜田友里です。よ、よろしく……!」

動揺を隠せない友里に、ミオが不思議そうな顔をする。

「初対面なのに、妙に親しみを感じるんです。不思議ですね」

「……うん。私も、そう思う」

ミオに会えたことが、嬉しくて堪らない。

けれど、ミオは友里のことを覚えていないようだ。

(ううん、今のミオちゃんは、私の知っているミオちゃんとは違う)

(また一から、絆を築いていけばいい)

そう心に誓い、友里はミオに話しかける。

「よかったら、私の話を聞いてもらえませんか。ミオちゃんにそっくりな親友がいたんです」

「ええ、ぜひ聞かせてください」

穏やかに頷くミオ。

二人は、ゆっくりと歩き出した。

新たな出会いに、胸を躍らせながら。


あの日、ミオは星空へと帰っていった。

けれど、友里との絆は、決して消えてはいない。

新しいミオとの出会いは、そのことを物語っている。

運命の再会を果たした二人が、新たな友情を紡いでいく。

かつてのように、いや、それ以上に強い絆で結ばれながら。


「今度は、私が守ってみせる。ミオちゃんのこと、絶対に」

遠い記憶の彼方で、ミオもまた微笑んでいるような気がした。

どんな時も友里を見守り続けてくれる、あの優しい笑顔で。


新たなる一ページが、ここから始まる。

かけがえのない親友と過ごした日々を胸に秘め、友里はまた歩き出すのだった。

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