第26話 へファイトスはここにいる

もしかしたら、いい人なのかもしれない。私は少し信じてる。

妹のために頑張る優しいリーダーのことを。

有元ありもと…有元 ひかる

私は、誉と優太ゆうた君とかおり以外の三階にいる七年C組の同級生と、ほまれ喜多きたさん、興津おきつ先生と三好みよしさんを小さく手招きで呼び集めた。

「あの人達どうする?」

賢悟けんご君が困った顔でいる。私も困っている。

「リーダー…有元さんは悪い人じゃないのかもしれないよね」

「でも他の人が悪い人かもしれないよ、ねえ望未のぞみちゃん」

いきなり私に振らないでよ、茉奈まな

「それは言えるかもしれないね」

「とにかいう有元さんは逃がしてあげよう。三好さん。おっきー。賛成ですか?」

「誉君。私のことは興津先生って呼んで下さい。まあいいですよ。三好さんはどう思いますか?」

三好さんは堂々と言い放つ。どう考えているのか私には分からない。

「ここは見逃しましょう」

そして私達は再びひもでしばられたリーダー達の方を向いた。

(たぶん)隊長の誉が優しい顔をして言った。

「有元さん。逃げていいよ。俺ら、警察に通報したりしないからさ。今回だけは見逃す。二回目は無いものと思え」

「…分かりました。皆、解散しよう。もう二度と会うことは無い。それぞれで生きていこう」

「リーダー…。俺は、学校にも行ってなくて家にも居場所がありません。それでも…解散するんですか?」

西尾にしお。俺とはもう会うな。これ以上悪い奴になって悪いことをするんじゃない。少しでもいいことをしていい奴になれ」

皆人それぞれ事情があるんだね。

 「俺は全て親の言いなりで生きてきて、リーダーと会って初めて自由を知ったんですよ。ありがとうございます」

「それは良かった。保谷ほや…」

彼らも彼らで苦しかったに違いない。私はそう言う人達をこれ以上苦しめることはできないよ。

「またどこかで会いましょうよ。リーダー」

「マサ…。会えるかもしれないな」

そう言って有元さんは静かになった。

誉が賢悟君と茉奈に頼んだ。

「他の一階や二階にいる人はスイートピー②から出てほしいって言ってくれないかな。ここからは…大事な話をしなければいけないから。二人とも。お願いしますぜ」

「いいよ」

「分かりました」

高妻こうづまさんが三階の入口から出て行く前に私は思い切って言った。

「ありがとう。高妻さん」

「どういたしまして。あ、そうだ。望未さん!

僕のことは高妻じゃなくてたつで呼んでいいよ。一麻かずまも、武居たけすえって名字で呼ばれるより一麻って名前で呼ばれたいって言ってた。

じゃあまた学校で!」

そう言って走り去る高妻…じゃなくて竜君はかっこ良かった。

「望未も名字ばっかり呼んでないで、名前で呼べよ」

「三好さんや誉のお母さんの名前は知らないもん」

誉は沈黙した。うん。よく分からない勝負に私が勝った。

茉奈は心配そうに私や誉を見ている。三好さんや興津先生はずっと窓際にいる。香と優太君は何かを投げてキャッチボール中。

誉が周りをぐるぐる見回してから、声を上げた。

「へファイトスはここにいます!」

「え⁉︎」

「誉君。どういうことなのかよく分からないんだけど…」

「へファイトスがここに…」

「どうなってるの⁉︎」

三階にいる皆がわめく。賢悟君は静かにしていて、何も言わなかった。ただ窓の外をぼんやりと眺めている。

「この市の障がい者を支援する施設や団体に脅迫状を送りつけ、差別発言とも言える発言をして来たへファイトスがここにいるんですよ。これは本当です」

誉は推理を言う探偵みたいに話を続ける。私には、誉の目に何とも言えないような感情がこもっているように見えた。

有元さんもゆっくりと誉を見上げる。他の四人は有元さんと誉を交互に見ていた。

香と優太君がキャッチボール(投げているのはボールじゃないけど、遠くにいて投げているものが分からない)をしていて誉の話をあまり聞いていないのが残念だ。元々香はまじめに聞くような人じゃないけど。

誉がじっくりためている間に、三好さんと興津先生は有元さん達を三階の部屋の外に追いやってしまった。

「へファイトスの正体は…」

誉はそう言いながら黒い布がかかっている棚を指差した。



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