第21話 立てこもり

「スイートピーだ」

ほまれの家で戦い?それって…。私、一つだけ心当たりがある。たぶん誉も分かっているはず。

茉奈まな達には言うのをやめておこう。気づいてないだろうし。

「戦いって…戦車とか、銃を使うのかな…」

だから香。店でやるのに戦車は入らないでしょ。


今日は珍しく、茉奈もかおり賢悟けんご君も用事があって、放課後、スイートピーには来ていなかった。

私が入って来た時にいたのは誉一人。

望未のぞみは分かったのか」

「たぶん。確かめていい?」

私は誉に耳打ちをした。誉は笑う。

「俺と考えていること、同じだ。いや、似てるな」

「まさか、とは思ったけど」

「そのまさかっていうのは多いよ。でも、可能性はそれ以外に残っていない。スイートピーには、本当に知ってる人しか来ないからな。ここが住宅街ってものあるけど」

「やっぱりそうだね。ところで、高原教室のことはどうする?どうにかして休む言い訳を作らないと」

誉は少しだけ考えた。

「まだそのことはいいよ。だって…へファイトスの予告よりも先のことだろう。俺達はあれもこれもできる人じゃないんだ。一つが終わったら次でいい」

「…分かった。そうするよ」

欲張りすぎるのは良くないもんね。私達は、目の前にあることから対処していかないと。楽な方がいいし。

「誉。スイートピーで…どうやって戦うの?」

「どうって…立てこもるのさ。ドアの鍵閉めて」

立てこもるのさって…、それ以外にできないでしょ。

お城にたいに仕掛けも無いし、武器も無い。

「そういえば、スイートピーの二階って誉の家なの?」

「違う。俺の家は右隣りの青い屋根の家だ。二階は…倉庫とかだった気がする」

「覚えてないんかい」

「だって俺、二階に入ったの…四、五年前に一回だけだぞ」

「まあいいよ」

とにかく今はへファイトス。へファイトス問題が終わったら、高原教室。この二つを混ぜたら…めちゃくちゃになるね。

後は…香が暴れないか心配。


暗くなる前に家に帰らないと。誰もいない家に一人で入るのはとっても怖い。お化け屋敷に行くのと同じぐらいだと思っている。

「ただいま」

やっぱり誰もいない。これは二、三年前からだから、ほとんど日常になっている。

誉や茉奈が少しだけ羨ましい。今この家に家族団欒なんて言葉は無いから。

夜空にぽつんと浮かんでいる月(三日月と半月の間っぽいがよく分からない)を窓から見ると、ほうっとする。夜一人でいるのは私だけじゃないって思えるから。月は人ではないけれど。

へファイトスから予告が来て四週間目になろうとしていた。


今日、誉は荷物が多かったのと、誉のお母さんが朝早くから仕事がある関係で、いつもより早く学校に行った。

私は途中途中で香や茉奈と会いながらのんびり学校に行った。

「皆…。いつもと何か違くない?」

「だよね。落ち着きが無いと言うか…」

「香。このクラスに落ち着きが無いのはいつものことでしょ」

「忘れてた。えへへ」

いつも以上にクラスの皆の落ち着きが無いっていうのが正しい。

入口近くで戸惑う私達の前に、いきなり同じクラスの武居たけすえさんがやって来た。彼はあまり女子に話しかけない人で、普段は仲良しの高妻こうづまさんと一緒にいることが多い。

「望未さん達は…今、戦おうとしてるんでしょ」

「え?」

「賢悟と賢悟の車椅子の友達と。障がい者を差別する大人と戦うんだよね?」

「…かもしれない」

誉や私達ぐらいしか知らないはずなのに、どうして武居さんが知っているんだろう…。状況がサッパリ分からない。

「僕達も一緒に戦っていい?」

へ?ちょっと待って。






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