第20話 戦いが始まる

「だって、へファイトスの手紙には、スイートピーを爆破させるとか書いてあったんでしょ?予告するぐらいだったら、もっと脅迫してくるんじゃないかな。なのに…へファイトス本人は、手紙を送って、SNSに動画あげただけじゃん」

「…そうだね。へファイトスはほとんど行動していない」

「勇気が無いのかな。かおりちゃんはどう思う?」

「忘れている、とか?」

「それは無い。馬鹿か香」

「何か恐れている、とかもあるのかな」

優太ゆうた君がいつの間にか板チョコを食べていた。


「あら。三好みよし君。久しぶり。最近はどう?」

「まあいいですよ。興津おきつさん、どうしてここに?」

三好さんは入口を遮るように立っている。興津先生は中に入れなさそうだ。

「ちょっとどいてくれない?私、中に入りたいんだけど…」

「今はやめて下さい」

「どうして?」

「話し合いをしているんですよ」

「誰が?」

望未のぞみちゃん達です」

興津先生は目を見開いた。それを見てぎょっとしている三好さん。

「私の勤務先の学校の生徒なの」

「そういえば奈女田誉なめた ほまれ君って知ってますか?車椅子に乗っているんですよ」

「もちろん。私にクラスの生徒だもん」

「誉君のいるクラスが、望未ちゃん達のクラスと別行動でかなり嫌がってました。高原教室のことです。それで、五人で行くのやめようって話してましたよ」

「そうでしたか」

あんなに仲が良いのに、同じクラスには絶対なれなくて、一緒に校外行事に参加することもできない。三好さんは障がい者と健常者(障害が無い人)の間の壁を恨むように興津先生を見ていたのかも。

もちろん、実際に壁なんかある訳無いけれど。

「望未ちゃん達と誉君って仲が良いんですか?」

「はい。俺も一緒にいると楽しいです。いっつもわちゃわちゃしてて。本当に仲良しですよ」

興津先生は曇りガラスがついているドアの向こう側をじいっと覗いた。楽しそうな声がもごもご聞こえる。楽しそうに動いている影が見える。興津先生の目は輝いていた。

「お、興津さん!どこに行くんですか?」

「今から北校に行く。ついでに話をして来る!」

陸上でもやっていたのかな。興津先生の足はやけに速い。

「今からって…午後の七時じゃ、学校閉まってませんか?」

「まだ開いているよ。急げば間に合う」

興津先生は風のように去って行った。

三好さんは暗闇の中に一人立っている。寂しそうにひっそりとではない。嬉しそうに堂々と立っている。

興津先生が去って行った方向を一瞬見た後、カランコロンと音を立てて再びスイートピーの中に入って行った。


「三好さん。さっきはどうして外に出たの?」

茉奈まなは不思議そうだった。いきなりドアの方をちらりと見たと思ったら、いきなり外に行ったからね。驚くよね。

「えっと…。夜風を少し浴びたかったから」

「風だったら扇風機の方が涼しいと思うよ。風力調節できるし」

「優太君。そういう意味じゃないんだよ」

「そうなの?」

そうなの?って私に聞かないでよ。困るから。

「そうだよ」

夜風と扇風機って全然違うよね。そうであってほしい。

それ以上は誰も追求しなかった。

三好さんがごまかした(たぶん夜風を浴びに行ったというのは嘘だ)っていうのもあるし、全てに突っこむ訳にも行かないからね。それは嫌だなあ。香が笑う。

「三好さん。髪の毛に人参くっついてますよ」

半月型の人参が三好さんの髪の毛にヘアピンのようにくっついていた。どうして今まで気がつかなかったんだろう。

「この人参のかけらはきれいですから。ね。落ち着いて下さいよ。三好さん」

「毎日きれいにあらっているのに〜」

三好さんは悲しそうな顔だった。


次の日。誉が衝撃的ななことを行った。いつものように言った。

「そろそろ戦いが始まるかもしれない」

「え?」

「どういうこと?」

「誉…。お前、おかしくなったのか?」

「戦いって…。どういうことなの?説明してよ」

なんてバラバラな反応だ。(順番は、香、茉奈、賢悟君、私です)香の反応少なすぎるよへ。思いつきってことか。

「いつやるかは…まだ決まっていないけれど、最大でも二週間後だ。覚悟しておいてくれよ」

覚悟って…早すぎるよ。

「どこでやるの?その戦い」






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