第17話 へファイトスの支持者

「後…車のライトの形は鋭かったって言ってた曇りガラス越しにぼんやり見えたって言ってる人もいた」

「…鋭い形のライトの車って…ライトが丸い形をしてる車よりも、多い気がするけど」

望未のぞみさんの言う通りかもしれない。あー。有力な情報だと思ったのにい。悲しいよ」

賢悟けんご君。丸い形じゃないってことは、三角や四角だってそうだよ。

「車…。あ、相沢あいざわ君。車の色は…車のライト見た人が言ってた?ぼんやりとでも、ライトの周辺ぐらいなら見えているかもしれないよ」

ナイス、かおり。たぶん車のライトの形より、色の方が重要な情報かもしれない。丸以外の形のライトって情報よりは。

「色?ええっと…白とか言ってた気がする。黒とは言ってなかった。どちらかと言うと、明るい色みたい。薄めの」

なるほど。そっちの方が分かりやすい情報だ。

「へファイトス…何がしたいんだろう」

三好さんがぼそっと言った。茉奈は今日のメモをじいっと見つめた。

ほまれが言うみたいに、へファイトスは私達が知ってる人かもしれないよ。たぶん。」

私としてはそう思い込みたくなかった。


休日が終わって平日。学校に誉と行こうとしたら、スマホの着信音が鳴った。誉からだ。内容は…『ヤバい』。

何がヤバいのか分からない。ってかこれだけ送るのやめてよ。

私はスマホを放り出して、誉の家に向かった。ピンポーン。

「よう。望未。って言ってる場合じゃなくて…」

「どうしたの?誰かに…脅されたりしたの?」

「まさか。ちょっと見てくれ」

そう言って誉が見せたのは今朝撮られたらしい映像だった。

おそらく防犯カメラから撮られているものだ。

駅前の、いつもと変わらない風景。が、いきなり変わった。

ドォンという爆発が起こり、カメラの映像が全画面煙色になった。三秒程したら、煙は小さくなったけれど、まだ火は残っている。

「誰かが駅に爆弾を仕掛けたんだ。たぶん…へファイトスの支持者かもしれない」

「ヘ…へファイトスの支持者?どういうこと?」

「よく見てみろ。炎の中にある物を」

「これって、人権のポスター?北校にもある。差別、偏見は必要無いっていう文章と俳優が載ってる奴…」

ポスターはみるみる燃えていき、真っ黒になった。って待って。

「これってへファイトスの仕業じゃないのかな」

「違う。奴は、やたら予告だけする。わざわざ一ヶ月後に店を閉めないと爆発させるって言う奴が、予告もせずに駅で派手に爆弾を仕掛けたりはしないよ」

「…そうだね」

「おはようございます。奈女田なめたさん…いますか?」

「今母さんなら掃除してますよ。すぐに来ますから」

城田さん《しろた》さんが大きな段ボール箱を抱えてやって来た。

「ねえ。城田さんはへファイトスって知ってますか?」

「名前ぐらいは聞いたことあるけど…分かんないや」

「そうですか」

城田さんは忙しいからね。ネット見てる暇、無いのかな。

あ、誉のお母さんがやって来た。

「城田さん。急に注文しちゃってごめんなさいね。」

「いいえ。気にしないで下さい。どうぞ」

うん。もう学校に行こう。をは誉の車椅子のハンドルを握り、ゆっくり回転させた。そしてそのまま出て行く。

「君達はこの店の子なの?」

「いいえ。私は違います」

「俺はそうです」

?何この会話。城田さんと同じ服を着ているから…農協の人かな。

宇戸うとです。初めまして」

「あの〜宇戸さん。すみません。これ以上話が長引くと、俺達は確実に遅刻しますので、失礼させていただきます」

「本当にすいません」

あの後、超スピードで学校に向かった。

「あの宇戸さんって…あまり関わりたくないな」

「話長そうだもんね」

失礼だったけど、今は遅刻しないことの方が大事だ。


誉と別れ、私は教室に向かった。賢悟君が話しかけに来た。

「どうしたの?望未さん。元気無いように見えるよ」

「賢悟君…。えっと…その、スッキリしなくて」

「俺もそんな感じ。大人って怖いなぁって思ってる。今」

だから賢悟君は先生達といつも関わろうとしないんだ。

「大人ってさ、平気で嘘をつくし、子供を甘く見る。で、自分達はこの世の全てを知ってるってぐらいに威張ってる。本当はこの世のほんの一部ぐらいしか知らないのに。だから、怖くて信じられない」

たぶん賢悟君は、小さい頃から自分が好きなピンク色やかわいい物を周りの大人に否定され続けて来たんだろうな。

賢悟君が、差別が無くなることなんて無いのかなって言った理由が、今になってはっきりと分かった。

「おーい。二人とも。何の話してるの?授業始まるよ」

大庭おおばさん。知らせてくれてありがとう。私と賢悟君は隣の席だから、すぐに授業を受ける体勢に変われる。

「…大人の言ってることって信じられないよ」

賢悟君は木代きしろ先生が来た時にそうつぶやいた。


休み時間になったら、香がいきなり賢悟君の机の前にやって来た。

茉奈は慌てている。香、どうしたんだろう。

「ねえ。相沢あいざわ君は、かわいい物とか…ピンク色が好きなんだって?私と正反対だね。私はかっこいい物とか、黒が好きなんだ」

新山にいやまさん…。そうなの?」

いきなり話を振られたら、やっぱり驚くよね。

「そうだよ。だから、カヌーやってるのも…女の子っぽくない、ダンスの方がいい、とか言われたことがある」

香。私はカヌーが女子がやってるイメージの少ないスポーツってことより、どうして香がカヌーをやり始めたのかの方が気になるよ」

確か…七か八歳の時から始めたらしいけど。

「相沢さん。これは、私の考えなんだけど…。かわいい、とかかっこいいっていうのは、性別で決めなくていいと思うの。自分が好きな物は好き。それでいいんじゃない?」

阿久根あくねさん…」

「だって相沢さん。差別好きじゃないんでしょ?」

「……うん。好きじゃない。嫌い」

「結局さ、先入観だけで物事を判断するなんてできない…よね」

「そうだね、望未ちゃん。私、車椅子の人って変な人ってイメージがあったけど、誉君に会ったら、全然そんなこと無いって分かった」

茉奈は嬉しそうに言った。香は笑っている。

「さ、爆破予告まで後三週間しか無いんだから、早くへファイトスを見つけ出しちゃおうよ。相沢君も!」

「え?まあ…。うーん。いいよ」

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る