第13話 信じられない人がいる
「え?
掃除が始まる前。
「そもままの意味だよ。障がい者に対して、恨みとか無さそうだし。興津先生は怪しくないね」
「ちょっとそれどういう意味」
「そんな片っ端から大人を疑ってたら一ヶ月経っちゃうよ。それに…興津先生を信じてなかったの?」
すごく香が怖い。後ろにカラスの群れが見えてきそう。
「ち…違うんだ。俺、小さい頃に色々あって…大人を信じられなくなったんだ…。今は、少しずつ大人を信じられるようになったけど、まだ完全に信じられはしない」
賢悟君の目は暗かった。どうしようもない悲しさや苦しさも感じられた。
「そういうことなの。じゃ、いいよ。勝手に怒ってごめんね」
「え?
「私だって全ての大人を信じられる訳じゃないし」
香は賢悟君の手を勝手に掴んで握手をすると、その手をぶんぶん上下に激しく振った。波打つように。
普段からオールを振り回している(カヌーでやってそう)香の腕は、賢悟君のひょろひょろとした腕よりも遥かに強そう。
ってか賢悟君はびっくりしながら手を振られている。
「案外あの二人気が合うんだね」
「二人ともスポーツガンガン派だし、似てるんじゃないのかな」
「そうだね」
「って言ってる場合じゃなくて、掃除もう始まってるよ」
教室掃除じゃない二人はパッと解散した。早かった。
放課後のスイートピー。誉のお母さんは困っていた。
へファイトスによって、SNS上で差別発言が広がっているらしい。
「どうしてこんなことを…」
「お母さん。
え?私達四人(賢悟君も加わった)は首を傾げた。誉がつぶやく。
「ここはあまり有名じゃねえし、お客さんも福祉関係者とか家族に障がい者がいる人とかばっかだ。そういう人達が差別発言をするとは考えにくい。でも…」
「三好さんなら、そういうことを考えてもおかしくないって思ったの?そういう人かな」
「分からない。どっちにしろ、賢悟みたいに俺も周りの…身近な人が怪しいかもって思い込んだだけだ」
そういう誉の目に光は無かった。
誉は基本自分の過去を話さない。私が誉について知っていることは…。
一、私の家の近所。
二、車椅子ユーザーである。
三、毎日学校まで車で送ってもらっている。
四、…無い。以上。
誉はきっと身近な大人から、心無い言葉を言われて傷ついたことがあるのかもしれない。私が知らないだけで。
「三好さんは、へファイトスのこと何も知らなかったわよ。私が言ったら『何それ?
「はい。そうですね」
何を言っていたのかサッパリ分からないよ。三好さん。
「彼は一ヶ月前にここに引っ越して来て、スイートピーでバイトを始めたの。家賃を払えそうにないからって、今は我が家に泊めてあげてる。だから、この辺のことはほとんど知らないと思う」
「確かに。そういえばこの前、スーパーで卵買ってきてって母さんが頼んだら、この辺にスーパーありましたっけ?って言いながら、スマホで検索してた!」
うん。この辺のスーパーが分からない人がこの辺の福祉施設のことなんて分かる訳ないか。三好さんはへファイトスじゃない。
「どうする?調べようにも調べるものが無いよ」
「香ちゃん…。まあそうなんだけどさ」
…。ああ。このままじゃ十分ぐらいシーンってなっちゃう。
ええっと…。どうにかしないと。どうにかって?うーん。
ちょうどその時、私の目にある物が入った。カウンターから風によって落ちたへファイトスからの手紙。そうか!
「へファイトスから脅迫を受けた福祉施設を調査しようよ。実際に行ってみたら、一つぐらい手掛かりを見つけられるかもしれない!」
「そうか。その手があったか。ナイス、
「いい考えかもしれない。さっそくち調査開始!」
「
賢悟君は戸惑っている。いつも香は早すぎるからね。
「香。十四〜十五個の施設が脅迫状をもらってんだよ。一つの建物につき5分かかったとして、十五回やったらどうなるんだ?」
「えっと…。七十五分かかる」
「それに移動時間を加えたら?増えるか?減るか?」
「時間がもっとかかっちゃう。一時間以上ぐらい」
「だから、調査の前に二チームに分かれるとか、考えようぜ。でなきゃ途方も無く時間がかかる」
「はい…」
誉に抑え方は上手。私も見習っておこうっと。
「今日は調査無しで、分担と場所確認しようよ。閉店時間近いし」
「茉奈が分担決めてくれる?とりあえず二つのチームに分けたいかな。それぞれの施設の位置は私が調べるよ」
私はバッグからタブレットを取り出して、地図のアプリを開いた。
賢悟君も私の隣の席でスマホを取り出した。
「俺も調べる。二人でやる方が早いでしょ」
「そうだね」
誉はというと…掃除機を持って来て香に渡した。そして床を指さす。
その後掃除機を指さしてどこかに行ってしまった。
「香。どういうことか分かった?」
「うん。誉君のお母さんが出掛けちゃったみたいだから、代わりに冷蔵庫の中身を確認しに行ったよ」
?理由が理由になっていない。どういうこと?
茉奈がズレた椅子やテーブルを元の位置に戻している。茉奈が最後に残ったテーブルの位置を直していた時。
「え⁉︎どうなってるの?」
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