第10話 仲間が増えた②

私は茉奈まなに手を掴まれた。普通に痛いんですけど…。

「どうして?」

「聞こえない?中でほまれ君と誰かが話をしてる声」

ん?しっかり耳を澄ませてみよう。あ、聞こえた。

「誰だろう。部活も入ってないで誉話している人は」

望未のぞみちゃん。それって私達のことだよ」

はい。そうでした。言っていることが事実とぴったりですね。

三人でドアの正面から、二人(な気がする)の話をじいっと聞いている。ドアは、上半分が曇りガラスで下半分がココア色の木の板だから、中からも外からも人がよく見えない。

「じゃあね。」

「これって誉君の声?」

「いや、違うと思う。誉は一度に二言も三言も言う人だから、たぶん誉と話をしていた人じゃないかな」

「誰だろう。私、声で人を当てられないや」

「あまりやる人いないと思うけど…」

バタバタと足音がしている。音がどんどん大きくなっているということは、こっちに向かってる?あ、もう帰るってことか。

少しだけどぼんやりとした人影が写っている。

黒すぎて顔は分からないけれど、身長は二メートルも無さそうだ。

「ちょっと下がろうよ。誉と話していた誰かが出にくそうだから」

「そうだね。いや〜怖い。ホラー映画のラストシーンみたい」

「これは序盤の方じゃないの?迫る誰か」

そしてついにドアノブを握る音がして、ドアが開いた。

逃げる?逃げない?私が選んだのはー

「あれ?の望未さんに…阿久根あくねさんに、新山にいやまさん。どうしてここに?」

二つの選択肢に無い答え、[困る]でした。

そもそも考える必要が無いんだった。私の隣の席の相沢賢悟あいざわ けんご君だ。

「相沢君って…誉君と知り合いだったの?」

「うん。友達なんだ。誉とはよく遊んだりもするよ」

「じゃあ、ここは前から知ってたの?」

「四年くらい前から、時々来てるんだ」

「部活は相沢さん、やっていないの?」

賢悟君は茉奈に問われて困った顔をした。

「サッカー部に入ってたけど、嫌がらせを受けてやめた」

え⁉︎初耳だ。サッカー部っていいイメージあったのに。

「どうして嫌がらせされたの?」

「入部してすぐ…四月の半ばぐらいに、いきなりレギュラーに選ばれたから。九年生とか、八年生に恨まれちゃって」

そりゃ賢悟君はスポーツほとんど上手で、サッカーもすごく上手だよ。

でも、それが恨まれる理由って…。

「今は何の部活も入っていない」

淡々と言っているように思えるけど、違う。抑えに抑えている

「あ。そうだ。賢悟も手伝ってくれないか?」

「手伝うって何を?」

「聞きたいか?なら教えてやるよ」

誉の顔が怖い。黒い羽が背中に生えてそうだ。悪魔みたい。

ここまで来ると、これから誉がしようとしていることが予想つく。

「俺に、その変なへファイトスって奴を探す手伝いをしてくれ?」

「そーゆーこと」

はい。当たった。こんなもんだろうとは思っていたよ。

「その名前、SNSにも投稿されてた。ほら」

「これってどういう状況?」

かおりが首をかしげる。私も首をかそげる。お手上げです。

「怪しいアカウントとかがどんどん消されてるのか。これ、コンピューターウイルスって奴かな。いや、違う。で、消してる人の名前が…」

「へファイトスなんだよ。ただの偶然かな、これ」

アイコンの画像は真っ黒。うわー。怖い。

茉奈がきっぱりと言った。

「たぶん、怪しい手紙を送った主と、SNS上でコンピューターウイルスみたいなことをやっている人は、同じへファイトスだよ」

「皆ー。いつまでも入り口に立って話してないで店内に入りなさいよ。誰か来た時に困るでしょ」

はい。誉のお母さん。ごめんなさい。店内に入ります。

「あれ?今日城田しろたさんは?」

「誉。城田さんはもう少ししないと来ないわよ。あっちこっちの福祉施設に出回っているんだから」

「誉のお母さんがへファイトスだっていうのはあるのかな」

「無いね」

私の意見は賢悟君にスパッと切られた。「ここのスイートピーに手紙を送ったっていうことが自作自演になっちゃうし。それに、誉のお母さん…」

「仕事でパソコン使う時、できないからいつも俺が手伝ってる」

違いますね。誉のお母さん。疑ってごめんなさい。

「ってかそもそも犯人が子供か大人かすらも分からないや」

「……」

茉奈の一言で話し合いは終了した。

店内には誰もおらず、余計に悲しい。

「でも…未成年ってことはねーだろう」

「案外SNSにあるメッセージの内容、難しいもんね」

誉が顔をしかめた。私は何の顔もしなかった。

「じゃあまた今度調査しようよ」

賢悟君が上手くまとめてくれた。ありがとう。

これ以上話も調査も進まない、と思った私達は、ひとまずお互いの連絡先を交換して

解散した。私は少し嬉しかった。「どうして一人で笑ってるの?望未さん」

「私、家ではいつも一人なの。だから、少しでも誰かとつながってると…安心するいうか」

「分かる。その気持ち」

賢悟君も一人で笑っていた。

茉奈と香が同時に大きな声で叫ぶ。楽しそうに。

「解散!」

「おー!」

解散って楽しそうに言うものかな。状況によるか。


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