第9話 仲間が増えた①

「どうしてそう思うの?」

かおりが不思議そうに聞いた。私もきょとんとしている。

[変な手紙が届いた場所がどれも近すぎる]

きょとんしてる間に返事が返ってきた。

「確かに…。近くなのに大人数で分担する必要はないか」

おー。すぐに理解する茉奈まなはすごいなあ。私は無理です。

「じゃあ、ヘ…ファは個人が名乗っている名前ってことでいいのか」

「へファイトスだよ。へ・ファ・イ・ト・ス」

「ファへ…イスト。あれ?イスって無かったような…」

駄目だこりゃ。私がせっかくゆっくり言ってあげたのに。…ってじゃなくて。

今気になってるのはそこじゃない。

ほまれ君。この人…誰?」

香がロングヘアの人をちらっと見て言った。誉は笑う。

「この人?ああ、俺らと同い年の喜多きたさん。頭いいよ。話すことが少し苦手なんだってさ」

「喜多さん。よろしくね」

そうだったのか。だからあの時、黙り込んでいたのか。納得した。

私はにこっと笑って見せたけど、喜多さんは何食わぬ顔で去って行った。

あれ?私のこと苦手なのかな?

「喜多さんは人見知りなんだ。いきなり知らない奴が三人もいるんだから無理も無い。時期に仲良くなれるよ。それに、俺らに協力してくれるみたいだし」

「え?どういうこと?」

「さっき喜多さん言ってただろう。手紙が届いた範囲のこと。おそらく話を聞いている最中に調べたんだと思う」

本当だ。喜多さんは自分の机でタブレットを見て何か調べている。

短時間でかなりの情報を探せる人なのかな。

「んじゃ。また放課後な。スイートピーに来いよ」

誉はいつも時間通りにまとめているような…気がした。凄い。

「来月までにへファイトスを見つけ出そうよ」

「あんなことを考える人、私は許せない。絶対ね」

「よーし。ファヘトスイの調査を始めていこうか」

「…また違うよ。じゃあね」

心の中で褒めなきゃ良かった。ってか誉、大丈夫かな。

今はとにかく五時間目の音楽のことを考えよう。よし。

あ、何も教科書の準備してなかった。まずい。急げー。

三人で持久走の新記録を出しながら走ったら、音楽の授業に普通に間に合った。ゼエハアしながら茉奈がぐちる。

「S組から音楽室って、本当に遠いよね。一階から三階で、しかもS組は東館で音楽室は西館で、やたら離れてるし」

「そうだべ。S組の人達って普段何してるんだろう?関わる機会が少ないからよく分からないや」

「誉や優太君がやってること、か…」

私は誉と一緒に教室で授業を受けてみたい。駄目なのかな?

誉は騒ぎを起こしたりしないし、皆に迷惑をかけないよ。

「そういえばこの学校、エレベーター無かったね」

香がぽつりと言った。あ、そうだった。

「誉はずっとこの学校の一階にいるしか無いのか…」

放課後。誉は私達を下駄箱で見かけると、早口で言った。

「悪い。今日は俺、先に帰る。じゃあスイートピーで」

そう言うと、誉は車椅子で爆走して行った。迫力がある。

「…私達はいつも通りのんびり話しながら帰ろう」

「うん。誉君、それにしても速かったー」

香がびっくりしている。いや、香だってカヌーのオール漕いでいる時、速いよ。びゅーんって風…電車ぐらいな気がする。

ふう。ぺちゃくちゃ喋りながら帰るってやっぱり楽しいね。

そうこうしている間に、スイートピーに着いちゃった。

「じゃあ入ろうよ」

「ちょっと待って。今は入らない方がいい」




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