第8話 へファイトス
「変な手紙って?」
「内容は、俺…言いたくないんだ。いや、言えない。今朝、早めに家を出てこっちに寄りに来てくれないか?頼む」
「いいよ。変な手紙はスイートピーで見るね」
嫌な予感ばかりがする。昨日の夜に届いてたみたいってことは、手紙がいつ来たのか分からないってことだし」
お母さんが作っておいたっぽい冷めた朝食を食べて、パパッと支度を終わらせた後、私はスイートピーに向かって駆け出した。
「おはよう。
「気にしなくていいよ。今日は目覚まし時計が鳴らなかったし。それよりも、変な手紙の内容って?見せてくれる?」
「いいよ」
重苦しい空気が誉の周りにやって来ていた。
思い出したくないのだろう。やっぱり、私は自分の目で見ることにする。
「おはよう。望未ちゃん。これが、昨日届いた手紙よ」
誉のお母さんが渡して来た手紙は、薄い青の封筒だった。宛名は書かれていない。
とにかく、封筒の表も裏も文字は無さそうだ。
手と目に力入れて、封筒を開いた。便箋にはこう書かれていた。
[この店を今月中に閉めろ。障害者と一般人が交流する場は必要ない。この社会は一部の人間でしか作れず、他の人間は取り残されていくもの。今月中にこの店を閉めなければ、爆破させる。]
たった四つの文章。でも、どれも鋭い。印刷されただけの文字が、さらに鋭さを加えているような気がした。
便箋の下の方に差出人らしき名前が書かれている。
〈へファイトス〉
もちろん本名ではないことぐらい分かっている。へファイトス。
私は怒ってこの手紙を破ろう思ったけれど、そんなことしたってどうにもならない、と気がついた。
仕方なく、私は便箋と障がい者の差別に対する怒りを封筒に仕舞い込んだ。封筒の薄い青が黒のようにも見えてきていた。
「え?そんなことがあったの?脅迫状って奴かな」
「分かんない。でも、内容はひどかった」
私は
「ひどいよ。そんなこと言って。許せない」
「ねえ。今朝の地方ニュース番組でやってたんだけど…。昨夜、福祉施設とか、障がいがある人を支援する団体や施設に、不審な内容の手紙が届いてたっていうのがあって。たぶん、誉さんぼ家のスイートピーに届いた手紙を書いた人と同じ人がやってるかもしれないと思う」
「
「十四〜五ぐらい。この市だけらしいよ。他の市区町村は無いって」
「そっか…」
この辺だけってことか。
ものすごい規模の事件では無さそうだ。でも…。
「あんなことを考えてる人もいるんだね」
茉奈は凹んだまま、どこかに沈んでいきそうだった。つぶやきもそれぐらいしか出て来ないのだろう。
「私、あんなの絶対に許せない」
香はアルミ缶が割れそうなぐらい強く握った拳を震わせていた。
「私。へファイトスを見つけ出そうと思う」
「え?見つけるって?」
言ってることがさっぱり分からない。見つけ出すって?
「この市だけに脅迫状が来たんなら、へファイトスはこの近くにいるはず。正体を暴き出してみせる」
うげ。香は一度言ったことを、割と貫く。この前も、
「給食を絶対無料にしてもらう!」
と言って、給食センターまで言いに行こうとしていた。茉奈に、
「ここは教室もう無料になってるよ」
と言われて引き返していたけど。
へファイトスの正体か。私も気になる。
「いいよ、香。私も探すの手伝うよ。その代わり、脅迫状の差出人が分かったとしても…殴ったり、蹴ったりするのはやめて。その人も、何か事情があってやったのかもしれないから」
香と茉奈はしっかりとうなずいた。
「分かった。誉君と
「何だか、私達、探偵やってるみたいだね。わくわくする」
さっきまでの怒っていた茉奈はどこかに行っちゃった。
昼休み。私達三人は誉に会いに行った。またひょこひょこする。
「誉君、誰かと話してるみたいだね」
「うわあ。あのロングヘアきれい。艶がある」
誉と話してる人は、私が初めてS組に行った時に見かけた女の子だ。あまり会いたくないんだよね。
「んーお前らか。またひょこひょこ覗いてんじゃねーよ」
覗くって楽しいよ。誉もやって…。違う違う。そっちじゃない。
「誉君の家に届いた変な手紙、かなり厄介そうなことになってたよ。スケールは今イチだけど」
最後の香の一言はいらないと思う。
ロングヘアの人と誉に、私達三人は一通り事件(?)のことを話した。誉は怒りすぎて手紙の差出人の名前を見ていなかったことも分かった。名前言ったら、へ?ってなってたもん。
「なるほど。その…ヘアバンド…じゃなくてヘフ…ファっていうのが個人名か団体名かっていうのが分からないな」
壁にぶち当たるの早っ。この壁は大きすぎるぞ。
すると、話を聞いていたロングヘアの人がスケッチブックを開いてマーカーで何か書いた。折り曲げて、私達に見せた。
[個人名だと思う]
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